親世代、自分世代、そして子世代へ…。いつかは必ず向き合わなくてはならない「相続」。相続のポイントを知っておくことで、損をしたり、親族間の争いを回避することができるんです。

そこで本シリーズでは、年末から連続して10日間、全10回に渡り、相続・贈与・遺言のエキスパートである税理士の井口麻里子さんに、相続に関する素朴な疑問に答えていただきます。

井口 麻里子さん
税理士
(いぐち・まりこ)税理士。辻・本郷税理士法人相続部に所属。富裕層の大規模な相続から、一般家庭のミニマムな相続、さらには国際相続まであらゆるケースに精通した相続・贈与・遺言のエキスパート。近年はあらかじめ作成すれば、要らぬトラブルを避けられる遺言の啓蒙に力を入れている。
井口麻里子のブログ

第8回目は「40~50代で親の生前贈与を受けはじめるべき?」です。

「親の財産の額が非課税枠を超えるかどうか」が生前贈与の判断ポイント

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生前贈与は受けておくべき?

40、50代の人の親は、おそらく70、80代でしょう。その親から、生前贈与を受けておくべきかどうか、迷っている人はいませんか? 相続税の節税対策のために、正しい知識を知っておきたいものです。井口さんは次のように答えています。

「親の財産が、相続税の基礎控除額(非課税枠)を超えるなら、相続税の申告が必要な人ということですので、節税対策として親の財産を減らすため、生前贈与を受けるとよいでしょう。基礎控除額を超えないなら、節税対策という意味ではなく、親の意思と厚意を尊重して、お金を必要とする世代が、教育やマイホーム取得などにどんどんお金を使えばよいと思われます。

親が70、80代であれば、今後、どれくらいお金がかかるか、そろそろ計算できる時期です。親子で計画的に有効に資産を使えるよう、遠慮なく話し合ってみましょう」

親から生前贈与を受けるときに注意したいポイントは4つ

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賢い生前贈与を

続いて、親から生前贈与を受けるときの注意点を教えていただきました。

●ポイント1:親の財産をすべて書き出してもらう

「まずは親の全財産を書き出してもらいましょう。全体像が把握できたら、今後の贈与計画も立てやすくなりますし、無理な贈与は受けずに済みます。また、いざ相続が開始した場合には、その財産一覧を元に相続財産を把握することができ、大いに役立つはずです。

現金が多い親の場合は『住宅取得等資金』の贈与(※)など、贈与税の非課税制度を上手に使って比較的、多額の現金を贈与してもらうといいですね。」

※父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住用の住宅用家屋の新築、取得または増改築等の対価に充てるための金銭「住宅取得等資金」を取得した場合、一定の要件を満たすときは、規定の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となる制度。

●ポイント2:ほかの兄弟姉妹とバランスよく贈与を受ける

「兄弟姉妹が複数いるのに、自分だけ、または自分の子どもだけが贈与を受けていると、親の相続が起こった際にモメごとになりやすいです。親が贈与を言い出したら、ほかの兄弟姉妹にも連絡して、バランスよく贈与を受けましょう」

●ポイント3:生前贈与加算の対象とならないように

「『生前贈与加算』とは、親の相続の際に相続財産をもらった人が、親が亡くなる前3年以内に受けた贈与は、親の相続財産に持ち戻されて、相続税の課税対象になるという制度。相続税がかかりそうな親の場合は、亡くなる直前に急に贈与をしても結局相続財産に持ち戻されますので、節税対策としての意味はありません。贈与は長い時間をかけて、計画的に実施しましょう」

●ポイント4:不動産の生前贈与はどう分けるかが重要

不動産は最高に分けづらい財産です。子どもがふたりいて不動産がふたつあるからといって、一棟ずつ分ければ平等かというと、そうではありません。

不動産の価値には『駅から近い、日当たりがよい、学校のそばでファミリー層に人気、広さ、道路付け』等のほか、管理上の観点から『自分の家から近い』など、さまざまな要素があります。

また、不動産がひとつしかない場合は、これをどう分けるかが重要です。『共有』という形は安易にとるべきではありません。次の世代、次の世代と共有者が増えて、動きのとれない不動産になってしまうためです。

親の不動産の贈与を受けることになったら、子どもの誰がどの不動産をもらうことになるのか、きちんと親の計画を確認しておきましょう。気が進まない不動産の贈与は受けないほうが、後々のトラブルを避けるためによいでしょう。

不動産を生前贈与するメリットは、親があげたい相手にあげられること。また、小分けに贈与すれば、相続税より低い税率の贈与税で済み、節税対策になること。

遺言もなく生前贈与もしていなければ、相続が発生してから相続人同士が遺産分割協議をして決めますが、慌てて決めるあまり、不動産を全部共有にしてしまう例も多いため、計画的にあげたい相手にあげられる点は、トラブルを防ぐためにも大きなメリットになります。

ただし、贈与税以外の税金、不動産取得税や登録免許税もかかることを忘れずに」


今、40、50代で、親からの生前贈与を受けておくべきかどうか考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。そして生前贈与を受けることになった際には、注意点を押さえておきましょう。

相続について学ぶ全10回シリーズ、明日は「親の認知症リスクを想定した相続対策はなぜ必要?」という疑問にお答えしていきます!

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この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利
EDIT :
安念美和子、榊原淳
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