祖父母世代から親世代、そして自分の世代、自分の子世代と、相続に向き合う必要は必ず出てくるもの。2018年に相続法が改正され、ぼんやり知っていた相続の知識も、変わっている可能性があります。

そこで本シリーズでは、年末から連続して10日間、全10回に渡り、相続・贈与・遺言のエキスパートである税理士の井口麻里子さんに、相続に関する素朴な疑問に答えていただきます。

井口 麻里子さん
税理士
(いぐち・まりこ)税理士。辻・本郷税理士法人相続部に所属。富裕層の大規模な相続から、一般家庭のミニマムな相続、さらには国際相続まであらゆるケースに精通した相続・贈与・遺言のエキスパート。近年はあらかじめ作成すれば、要らぬトラブルを避けられる遺言の啓蒙に力を入れている。
井口麻里子のブログ

第9回目は「親の認知症リスクを想定した相続対策はなぜ必要?」です。

親の認知症リスクを想定した相続対策はなぜ必要?

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認知症リスクは誰にもある

今は多くの人が長生きする時代ですが、誰もがいつ認知症になるかはわかりません。万が一、親が認知症になってしまったら、相続関連についてはどうなるのでしょうか。そして、認知症になる前に相続対策を行う必要性について井口さんにお答えいただきました。

「認知症は、判断力や記憶力が低下して、日常生活を送ることが困難になる病気です。こうした意思能力が低下、または、ない方のした法律行為は無効とされます。例えば、相続の内容を含んだ遺言を書いても、無効になってしまいます。よって、認知症になる前に、早期から相続対策を行っておくことはとても重要です。

本人がだめなら、後見人なら相続対策ができるのではないか、と思う方もいるかもしれません。確かに、認知症になったら法律行為が何もできないと困るため、後見人を立てる『成年後見制度』というものがあります。この後見人は相続対策を行えるのでしょうか?」

「成年後見制度」には2種類が存在しています

「まずは成年後見制度について知っておきましょう。この制度には『法定後見』と『任意後見』の2種類があります」

・「法定後見」

「意思能力が衰えたあと、家庭裁判所で後見人をつけてもらう制度を『法定後見』といいます。この後見人には弁護士等の専門家がなるのが一般的です」

・「任意後見」

「意識がしっかりしているうちに、自分で選んだ人に後見人になってもらうための後見契約を結び、いざ意思能力が衰えたら、後見制度を発動してもらう制度を『任意後見』といいます。例えば、娘に任意後見人になってもらう約束をしておくなどです。

この任意後見には、後見制度を発動させる際に、必ず家庭裁判所で『任意後見監督人』を選任してもらわなければなりません。つまり、被後見人の利益に反することは、家庭裁判所の審査が必要となります。身内が任意後見人になったからと言って、自由に財産処分できるというわけではないのです」

「任意後見」の後見人でも相続対策はできない

「後見制度がスタートすると、被後見人単独では法律行為ができなくなります。そうすることで悪質な押し売りや詐欺等の被害からお年寄りを守ることになります。また後見人は、被後見人の財産を守ることを職務としているため、被後見人の財産を減らすような行為は軒並み、認められません。そのため、相続対策は一切できなくなると思ったほうがよいです。

例えば、相続対策の代表例と言える生前贈与。これはダイレクトに被後見人の財産を減らす行為のため、一切できません。また被後見人は意思能力がないため、遺言は書けないですし、生命保険へ加入もできません。不動産の売却をする場合は、家庭裁判所で審査を受けなければならないなど、後見人がついた後は、いわゆる相続対策と言われるものは、ほぼすべてあきらめざるを得なくなります」

相続対策を早めに行おう

「親の認知症リスクを想定して、事前にできる相続対策は、遺言を書いてもらう、生命保険へ加入してもらい、相続税の非課税枠となる死亡保険金として受け取るようにする、不動産を処分する、生前贈与をしてもらうなどの、一連の相続対策を早めに行うことです。

親が不動産賃貸経営をしている場合は、その賃貸アパート等の修繕や入退去の管理、また売却まで含めたところの権利を家族の誰かに委託する『家族信託』という制度の利用も検討できます」


世間では、親の認知症リスクを想定し、さまざまな対策を行っておくべきとささやかれています。相続関連についても、ぜひ早期から対策しておきましょう。

相続について学ぶ全10回シリーズ、明日は「親が私の子どもに生前贈与するのは、どんなメリットがある?」という疑問にお答えしていきます!

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この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利
EDIT :
安念美和子、榊原淳
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