親世代からの相続や、将来の自分が行うであろう子への相続について、損をしてしまうことやトラブルを避けるためにも、早めに準備しておきたいもの。相続に関する基本的な知識はもちろん、2018年に大改正された、相続法に基づく正しい知識を備えておいたほうが、人生で損をしないこと請け合いです。
そこで本シリーズでは、年末から連続して10日間に渡り、相続・贈与・遺言のエキスパートである税理士の井口麻里子さんに、相続に関する素朴な疑問を解決していただきます。
井口麻里子のブログ
第10回目は「親が私の子どもに生前贈与するのは、どんなメリットがある?」です。
親が私の子どもに生前贈与するのは、どんなメリットがある?
「まず確認すべきは、親の財産が相続税の基礎控除額(非課税枠)を超えているかどうかです。自宅、その他の不動産、預貯金、株式や投資信託、ゴルフ会員権、生命保険金等々の親の全財産が、基礎控除額を超えているか確認しましょう。超えている場合は、相続税の申告が必要な人ですので、親の財産を減らす方向の対策を検討しましょう。その対策の代表例が、生前贈与です」
●メリットは「生前贈与加算制度」の対象外となること
「孫へ贈与するメリットは『生前贈与加算』という制度の対象外となる点です。『生前贈与加算』とは、親が亡くなる前3年以内にした贈与は、親の相続財産に持ち戻されて相続税の課税対象になるという制度。しかしこれは、親の相続の際に、相続や遺贈(遺言による譲与)により相続財産をもらった人が対象です。
孫は親世代の法定相続人ではなく、遺言による遺贈がない限りは、親世代の相続の際に財産をもらうことはありません。そのため、通常、生前贈与加算の対象外となります。亡くなる前3年以内の贈与であっても、親世代の財産を減らす効果があるのです」
●死亡保険金の受取人は生前贈与加算の対象になる
「ただし、大きな注意点があります。それは生命保険金です。生命保険金は『みなし相続財産』といい、死亡保険金の受取人は生前贈与加算の対象となってしまいます。
祖父母が孫を受取人とした生命保険に入っているのをうっかり忘れて、孫へ生前贈与をすると、亡くなる前3年以内に行った贈与の分は、相続財産に持ち戻されるので、親世代の財産を減らす効果はない、ということになります」
●長い時間をかけて、複数人にこまめに贈与しよう
「いずれにせよ、亡くなる直前に慌てて贈与を始めるのではなく、長い時間をかけて、複数人にこまめに贈与を行うことをおすすめします」
贈与のやり方のポイント(現金贈与の場合)
そして井口さんは、現金による現金贈与を行う際のポイントとして次の3つを挙げます。
(1)贈与の都度、「贈与契約書」を交わす
「贈与契約書を交わすのを面倒くさがる人が多いですが、『正月の行事』のように位置付けてしまえば『書初め』と同じくらいのこと。毎年1月に贈与するから、正月に親族が集まったときにみんなで贈与契約書に署名捺印しましょう、というふうに慣例化しておくといいです」
(2)現金で手渡しはせず、銀行の口座から口座へ振り込む
「現金での手渡しではなく、記録が残る銀行の口座間で贈与を行いましょう。
(1)と共に、これも贈与が成立したという客観的証拠を残すため、必要な手続きです。うやむやのうちに祖父母が亡くなる頃には孫に3,000万円の財産ができていた、となると、祖父母の相続の際に、祖父母の財産とみなされて相続税の対象となる可能性が高くなります。そのため、贈与の都度きっちり『贈与』が成立していたことを証明する必要があります。『親族間で何も改まって…』『面倒よね』などとは言わず、これはきちんとやってほしいものです」
(3)贈与したお金は、もらった人が自由に使う
「贈与を受けたお金は、もらった人が必要なことに自由に使いましょう。祖父母の相続時に『孫の名前の口座に入っているが、本来は祖父母の財産である』とみなされてしまう要素として、『もらった人が自分で自由に使っていない』というものがあります。贈与を受けたお金を自由に使えないのでは、本当の意味の贈与を受けたことになりませんよね。『単に預かっただけだから自由に使えない財産』という見方をされてしまいます」
節税対策の必要がない場合は…
「親の全財産が基礎控除を超えていない場合は、税金を減らすために親の財産を減らす、という意味での節税対策は必要ありません。ただ、親が自分の財産について『誰に何をどのように使ってもらいたい』という意思があるなら、それを実現させてあげるのも親孝行。親の生活に支障がない程度に贈与を受けるのは、お互いにとって良いのではないでしょうか」
親が生前贈与を孫にしたいと希望している場合、まずは相続税の基礎控除額(非課税枠)を超えているかを確認。超えていれば生前贈与のメリットを得るためにも、計画的に贈与を受けると良さそうです。
相続について学ぶ全10回シリーズは、今回で最後です。少し、相続について知るべきポイントがわかったのではないでしょうか? いざとなったときに慌てないためにも、今からできることは、少しずつ実行してみてくださいね。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 石原亜香利
- EDIT :
- 安念美和子、榊原淳