バンダイナムコエンターテインメントの取締役に就任した宇田川南欧さんに聞く、「優れたリーダー」の特性とは?
キャリアアップを目指す上で大きく頭を悩ませる問題が、自身のリーダーシップや部下の育成ではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、41歳の時に女性として初めて、バンダイナムコエンターテインメントの取締役に就任した宇田川南欧(うだがわ・なお)さん。同社は、スマートフォン向けゲームアプリや家庭用ゲームソフト、ライブ・イベントなど、エンターテインメントコンテンツをワールドワイドで展開しています。
30代の頃から200名を超えるチームを率いた経験を持つ宇田川さんが考える、優れたリーダーの特性やその育成方法について伺いました。
■今回お話を伺う人
宇田川南欧(うだがわ・なお)さん
1994年、株式会社バンダイ入社。1996年、デジタルコンテンツ事業部へ異動。以後、ネットワーク分野の業務を担当。長年デジタル分野の事業開拓に携わる。2015年4月、41歳の若さで株式会社バンダイナムコエンターテインメント初の女性取締役に就任。2018年4月より常務取締役に就任。
同社の主力サービスは、スマートフォン向けゲームアプリ『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』や、今年生誕40周年を迎える『パックマン』などがある。
「やらなかった後悔」を胸に業績アップをけん引
Precious.jp 編集部(以下同)――宇田川さんは、30代の頃から200名のチームを率いるリーダー経験があると伺いました。入社当時からキャリアプランとして、リーダー職に就くのを目標にしていたのでしょうか?
「リーダーになりたい」「この役職に就きたい」と思ったことは実は一度もないんですよね(笑) 。
実現したい事業があって、そのために必要な仲間を集めていたら、結果的に自分がチームをまとめていく立場になっていたという形です。
――「こんな事業を手がけてみたい」と感じていても、なかなか実際に人を集めて行動に起こせる人は多くないと思います。幼い頃から積極的な性格でしたか?
そうですね。昔から何でも決めたくなってしまう性格で、決断が早かったと思います。
友達とご飯に行くときも、周りが悩んでいたら「私、これが食べたいな〜」と言ってしまうタイプ。せっかく自分のお金で食べに行くなら、食べたいものを食べたいじゃないですか(笑)。
――なるほど(笑)。リーダーとして適性がある性格だったんですね。宇田川さんが初めてリーダーに抜擢されたのはいつ頃ですか?
2006年なので、約14年前ですね。マネージャーとして、コンテンツ事業に携わっていました。当時、リーダーとして大きな教訓になったのは、ルールに縛られずに挑戦することです。
フィーチャーフォン(ガラケー)時代に画像を転送して友人と共有できるという機能があったのですが、その仕様を基にサービスを展開して人気を得た企業がありました。
弊社は、漫画やアニメのIP(知的財産)の商品化権を獲得して事業化するのですが、その際、IPの世界観や権利を守ることが基本中の基本となります。私はこのルールに囚われすぎてしまって、その機能(画像の転送と共有)に気づいていたにも関わらず「無料でそのサービスを受けられるだなんて」と、企画すらしませんでした。
――サービスにできる可能性は感じていただけに、相当悔しい思いをされたのでは?
自分の頭の固さに腹が立ちました。でも、その“やらなかった後悔”を経験したことで、常に「今あるルールは何のためのルールなのか」と、本質を見極めて時代の流れに合わせて変えていくことを学ぶことができました。
今は、スマートフォン向けゲームアプリは無料で遊べるのが当たり前の時代。家庭用ゲームソフトを販売していた弊社がそこに踏み切るには思い切りが必要でしたが、結果的にネットワークコンテンツ事業が圧倒的に成長したきっかけとなったので、あのときの悔しさを晴らすことができたと思います。
「ルールを疑う」優れたリーダーの特性と育成方法
――常務取締役としての現在の職務内容を教えてください。
バンダイナムコエンターテインメント全体の事業戦略を担当しています。イベントの出席や海外出張も多くありますが、社内にいる際は分刻みで採用面接や取引先との商談、さまざまな会議に出席しています。
また、会社の課題を見つけるため、できる限り時間を見つけて社員との面談を実施しています。若手、中途採用、最近部署異動を経験した社員など、あらゆる方向から社員の声をキャッチアップするようにしています。
――社員の方とはどのようなお話をされるのでしょうか?
特に注意深く見ている点は、チームとしてのルールがそもそも間違っていないかどうか。ルールが決まっているとそれに倣って仕事をこなす人が多いため、ルールが間違っていたら全体が誤った方向に進んでしまう恐れがあります。だから、社員にはいつも「考えよう、考えよう」と口うるさく言っていますね(笑)。
――ルールを疑う視点を持つこと以外に、優れたリーダーはどんな特性を持っていると宇田川さんは思われますか。
熱意とビジョンを持っていて、具体的な戦略を実行できる状態まで、部下に方向性を示せる人ですかね。また、個人の定常業務の範囲ではなく、会社として何を改善すべきか、どうしたら事業を拡大できるのか、考えられることが理想ですね。
――そのようなリーダーを育てるためには、どのような指導が理想でしょうか?
自分より少し上の立場まで、業務についての考え方を引き上げられるように、権限委譲を含めたその人のスキルより少し上の課題を与えること、そして適切な評価とフィードバッグが必要だと考えています。
また、私は社員全員と直接日々の業務について話すことはできないので、会社として「挑戦する人を評価する」というメッセージを出しています。
ひとりでも多くの社員が、自ら業務や役割を広げて、周囲へよい影響を与え続ける思考や行動ができるようになってほしいと思っているので、そういった優れたリーダー格を育てるのが今の私の役目ですね。
――なるほど。気持ちハードルを上げることが大切なんですね。宇田川さんのように責任のある立場に立っていると、人を介して部下に指示を出すことも多いと思います。その際、的確に指示を出すために心がけていることはありますか。
「言葉」だけじゃなくて「思想」を伝えることですね。「これをやってほしい」ではなく、今会社はこういう課題があって、こういうふうになりたいから「これをやっているんだ」と伝えることです。どんなに急いでいても、この手間は絶対に惜しみません。
家事も美容も効率化を重視
休日の半分は出張やイベント視察のスケジュールが入っているという宇田川さん。忙しい日々をポジティブに過ごすコツを、気になるパートナーとの家事分担からストレス解消方法までお聞きしました。
――休日も半分はお仕事をされていらっしゃるということですが、それだけお忙しいと、プライベートと仕事を両立させるのが大変なのでは?
できる限り時間を有効的に使えるように、家事も美容も適切なタイミングでスムーズにこなせるように心がけています。
例えば掃除だったら、部屋と部屋を移動する間に散らかっている物を片付けたり、美容は乾燥対策のこまめな保湿ケアを忘れないように、お気に入りのハンドクリームとヘアオイルを各部屋と会社の机、洗面所にセッティングしたりして効率化しています。保湿の意味だけでなく、香りでも気分があがりますしね。
家事については、我が家は得意な人が得意なことをする分担制に自然となっていて、夫が元々料理が得意で、つくってくれているので本当に助かっていますね。
――夫婦がお互い我慢することなく、家事分担が続けられるように心がけていることはありますか?
きちんと感謝の気持ちを言葉にして伝えることですかね。自分好みの味であれば、自然と「おいしい」のひと言が出るじゃないですか。これからも心から「おいしい」と言えるものをつくってもらえるように、感謝の気持ちは素直に伝えます。
――忙しいスケジュールをこなされている中で、ストレス発散や仕事のモチベーションを保つためにやっていることはありますか?
最近は、eスポーツにハマっています。中でも『太鼓の達人』は目視できないくらいのスピードで太鼓を叩くプロゲーマーや、予
――eスポーツは身体を動かすスポーツ観戦と同じ感覚で楽しめるんですね。
そうですね。気がつくとeスポーツの大会などで撮影した動画に夢中になっている自分がいます。eスポーツ以外に野球観戦も趣味で、お休みの日は球場によく足を運んでいます。読売ジャイアンツの大ファンなんです。
また、ふとした瞬間に見るとほっこりした気持ちにさせてくれるキャラクターグッズも癒しのひとつです。このキャラクター、ご存知ですか?
――もしかしてそのバッグ、懐かしの『パックマン』ですか?
そうです! パックマンを追いかけまわすゴーストです。レトロな雰囲気とフォルムが愛らしくて癒されるんですよね。
パックマンは、1980年に発売されて以来、空前のブームを巻き起こし「最も成功した業務用ゲーム機」としてギネス記録にも認定されているIP。今年で生誕40周年を迎えるので、弊社でもさまざまな取り組みを行っています。
キャラクターアイコンとしてもとてもポップで可愛いので、私も雑貨や文具などを愛用しています。
――グッズになるとまた可愛さが引き立ちますね。宇田川さんご自身も、プライベートでゲームをされることはありますか?
1面2〜3分でさくさくクリアできるパズルゲームが面白くて好きですね。ゲームは小さな成功体験の積み重ねができるので、パッと気持ちを切り替えるのには最適です。頭もスッキリしますしね。最近配信しましたスマートフォンアプリ『ONE PIECE ボン!ボン!ジャーニー!!』は、働く大人の女性にもおすすめしたいです。
――確かにクリアできた瞬間は清々しい気持ちになりますよね。最後に、宇田川さんのこれからの目標をお聞かせください。
いかに面白いコンテンツを創るかという企画開発力、そしてそれらをお客様にどうお届けするかというマーケティング力を軸に、さまざまなビジネスをこれからも展開していきたいですね。
事業拡大と進化が私のミッションですが、世界中のお客様に当社のエンターテインメントで楽しみ喜んでいただくために、力を尽くしたいと思います。
- TEXT :
- 文 希紀さん 編集者・ライター
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- WRITING :
- 文 希紀
- EDIT :
- 小林麻美