58年、25作にわたって継続してきたスパイアクション映画「007」シリーズ。その間に演者は代わり、キャラクターの見せ方も時代に合わせて変わってきた。原作小説のイメージを含め、作品ごとに評価が分かれるのは、人気シリーズの宿命だ。ダニエル・クレイグがボンドを演じる「カジノ・ロワイヤル」(2006年)からはシリーズをリセットする形で、リアル感を重視する、現代の風潮に合わせたボンド像をつくりあげた。劇中の華であるボンドガールも、より自立したキャラクターとなり、もはや添え物的な役割ではなくなっている。

それでも、過去の作品に登場したボンドガールたちの存在が過少に評価されることはない。娯楽を提供する要として、美しき女性の活躍が求められ、歴代のボンドガールたちはそれに応えてきたのだ。後編では第10作「私を愛したスパイ」から、その系譜をご覧いただこう。なお、前編同様、見出しに記した名称は、「」内が役名、()内が本名・芸名だ。

ボンドを目で挑発!「ナオミ」(キャロライン・マンロー)

男を挑発する、それでいて下品な感じのない表情がいい。(C)アフロ
男を挑発する、それでいて下品な感じのない表情がいい。(C)アフロ
こちらは「007」シリーズではなく、「シンドバッド 黄金の航海」(1973年)でのキャロライン・マンロー。露出の高い衣装でヒロインを演じている。(C)アフロ
こちらは「007」シリーズではなく、「シンドバッド 黄金の航海」(1973年)でのキャロライン・マンロー。露出の高い衣装でヒロインを演じている。(C)アフロ

シリーズ第10作・15周年記念として製作された超大作「私を愛したスパイ」(1977年)。コミカルさ漂うロジャー・ムーア版ボンドのイメージが確立され、モダンになった秘密兵器が多数登場するなかで、海から世界支配を企む大富豪、ストロンバーグの片腕として登場するのが、イギリス人俳優のキャロライン・マンロー演じるナオミだ。

初めての対面でボンドが思わず魅了される(地でやっているのかと思えるほど、ロジャー・ムーアはこの手の演技がうまい)色気たっぷりの彼女は、大方の予想どおり、強力な毒を秘めていた。ファッションモデル出身の堂々とした立ち振る舞いは、本作を機に巻き起こった第二次「007」ブームの原動力のひとつとなったのではないか。

宇宙に旅立つムーンレイカー・ガールズ(役名・芸名不明)

「ムーンレイカー・ガールズ」(勝手に命名)は、選民主義に染まったヒューゴ・トラックスの意を受けて、スペースシャトルに乗って宇宙ステーションへ向かう。女性を尊重するボンドとしては、そんな行動を見逃すわけにはいかなかった。(C)アフロ
「ムーンレイカー・ガールズ」(勝手に命名)は、選民主義に染まったヒューゴ・トラックスの意を受けて、スペースシャトルに乗って宇宙ステーションへ向かう。女性を尊重するボンドとしては、そんな行動を見逃すわけにはいかなかった。(C)アフロ

「スターウォーズ」「未知との遭遇」(ともに1977年)の大ヒットに影響を受けて、ボンドが現実よりもひと早くスペースシャトルに乗って宇宙に飛び出した、シリーズ中随一の異色作が、第11弾の「ムーンレイカー」(1979年)。役名付きのボンドガールを差し置いて注目したいのが、名もなき女性の集団(なのでボンドガールではない、あしからず)。

密かに建設した宇宙ステーションに選ばれた人間を集め、地上の人類を抹殺しようとする実業家、ヒューゴ・トラックスを追って、南米アマゾンのスペースシャトル発着場にたどりついたボンド。そこには場違いなほど美しい女性がたたずみ、ボンドを幻惑するのだった。やたらと丈の短い70年代ルックの衣装と派手なアクションとのミスマッチが、妙な昂揚感を生む。

誇り高き侯爵夫人「リスル」(カサンドラ・ハリス)

海辺の邸宅でボンドと熱い夜を過ごしたものの、翌朝悲劇的な最後を遂げる。(C)アフロ
海辺の邸宅でボンドと熱い夜を過ごしたものの、翌朝悲劇的な最後を遂げる。(C)アフロ
カサンドラ・ハリスは2度結婚していて、再婚の相手こそ5代目ボンドに抜擢される前のピアース・ブロスナンだった(写真は80年頃のもの)。彼女はその後ガンを患い、91年に亡くなっている。(C)アフロ
カサンドラ・ハリスは2度結婚していて、再婚の相手こそ5代目ボンドに抜擢される前のピアース・ブロスナンだった(写真は80年頃のもの)。彼女はその後ガンを患い、91年に亡くなっている。(C)アフロ
こちらはボンドガールではなく、殺し屋のボスの大邸宅で遊ぶ美女たちとロジャー・ムーアのオフショット。どんなときもゴージャスさを忘れないのが、「007」シリーズなのだ。(C)アフロ
こちらはボンドガールではなく、殺し屋のボスの大邸宅で遊ぶ美女たちとロジャー・ムーアのオフショット。どんなときもゴージャスさを忘れないのが、「007」シリーズなのだ。(C)アフロ

前作の反動からか、荒唐無稽な演出を押さえ、第6作の「女王陛下の007」(1969年)と並び、原作小説ファンからも支持される第12作「ユア・アイズ・オンリー」(1981年)。イギリスの諜報船に搭載されていた核ミサイル誘導装置の行方を追って、ボンドが真の敵にたどりつく物語。

ボンドガールに選ばれたキャロル・ブーケの美貌が大きな話題を呼んだ。ただし、作中では“家族の仇をうつ悲劇の美少女”といった感が強く、代わりにボンドとの大人の恋愛を担当するのは、オーストラリア出身の俳優、カサンドラ・ハリス演じるリスル伯爵夫人。寝室で髪を下ろしたときの、艶めいた表情がたまらない。

大人の色気ふたたび!「オクトパシー」(モード・アダムス)

年齢を重ねる間に、本来備えていた色気がさらに増したモード・アダムス。(C)アフロ
年齢を重ねる間に、本来備えていた色気がさらに増したモード・アダムス。(C)アフロ
オクトパシーと仲間の女性たちは、サーカス団を表の顔にもつ宝石密輸団。写真は宣材用と思われる一枚。「PLAYBOY」的な世界! (C)アフロ
オクトパシーと仲間の女性たちは、サーカス団を表の顔にもつ宝石密輸団。写真は宣材用と思われる一枚。「PLAYBOY」的な世界! (C)アフロ
こちらも宣材用で、主要メンバーがきらびやかな衣装をまとい、ボンドを囲んでいる。男の夢である。(C)アフロ
こちらも宣材用で、主要メンバーがきらびやかな衣装をまとい、ボンドを囲んでいる。男の夢である。(C)アフロ

前作でボンド役からの引退を申し出るも後継の俳優が決まらず、ロジャー・ムーアが6回目の登板となった第13作「オクトパシー」(1983年)。贋作美術品取引の真相を追ってインドへ飛んだボンドは、華やかな宮殿に女性だけで住む、オクトパシーと出会う。演じるのは第9作「黄金銃を持つ男」にもボンドガールとして出演した、モード・アダムス。撮影当時38歳だったが、以前にも増した色気と存在感でボンドと情熱的な抱擁を重ねた。大人の男なら、誰しも憧れるシーンだ。

青い瞳の美しき令嬢「ステイシー・サットン」(タニア・ロバーツ)

撮影当時29歳。対するロジャー・ムーアは57歳。ふたりが恋に落ちるには、さすがに無理のある印象だった。(C)アフロ
撮影当時29歳。対するロジャー・ムーアは57歳。ふたりが恋に落ちるには、さすがに無理のある印象だった。(C)アフロ
こちらの写真は「007」作品ではなく、「チャーリーズエンジェル」出演当時と思われる。(C)アフロ
こちらの写真は「007」作品ではなく、「チャーリーズエンジェル」出演当時と思われる。(C)アフロ

7作にわたってボンド役を務めたロジャー・ムーアの最後の作品(第14作)「美しき獲物たち」(1985年)には、アメリカ人俳優のタニア・ロバーツがボンドガールとして登場する。テレビドラマ「チャーリーズエンジェル」にも出演していたタニアは、石油会社の創業者を祖父にもつ、ステイシー・サットンを演じている。

元々の黒髪を金色に染めた彼女は、宝石のような青い瞳と相まって、実にゴージャス。まるで小池一夫・叶精作コンビによる劇画に登場する美女を具現化したかのようだ。

ラテンの香り漂う黒髪の美女「ルペ・ラモーラ」(タリサ・ソト)

役回りは麻薬王の愛人。残念ながら、「007」出演以降は目立つ活躍を見せられなかった。(C)アフロ
役回りは麻薬王の愛人。残念ながら、「007」出演以降は目立つ活躍を見せられなかった。(C)アフロ

満を持してボンド役に起用されたティモシー・ダルトン主演の2作目(シリーズ第16作)「消されたライセンス」でヒロインを務めるのは、プエルトリコ系アメリカ人のタリサ・ソト。モデル出身でスタイル抜群(身長178㎝)、それでいて純真さ漂う顔立ちはが男性ファンの心をつかんだ。歴代ボンド役俳優はいずれも身長が高く、ティモシー・ダルトンも188㎝ほど。ふたりが並んだときのバランスも最高によかった。

北欧からやってきたボンドガール「インガ・バーグストーム」(セシリア・トムセン)

こちらの写真は、公開記念パーティでの模様。(C)アフロ
こちらの写真は、公開記念パーティでの模様。(C)アフロ

ピアース・ブロスナンがボンドを演じるようになって以来、映画の質はぐっとモダンになると同時に、ボンドガールも性差を感じさせない活発なキャラクターが目立つようになった。そんななかで、出番はわずかながら色気で存在感を発揮しているのが、デンマーク出身でモデルとして活躍していたセシリア・トムセン演じる、インガ・バーグストーム教授。派手さ(チャラさ)を隠しきれないブロスナン版ボンドには、むしろ彼女のようなタイプのほうが相性はよかった。

イタリアの至宝もボンドガールに!「ルチア・スキアラ」(モニカ・ベルッチ)

悲しみを秘めた未亡人という役柄が、またいい。(C)アフロ
悲しみを秘めた未亡人という役柄が、またいい。(C)アフロ
公開記念パーティでは、妖艶なドレススタイルで登場。(C)アフロ
公開記念パーティでは、妖艶なドレススタイルで登場。(C)アフロ
こちらはサービスショット。90年代前半、映画に出演するようになった20代のモニカ・ベルッチ。「昔もいいが、今もいい!」と思える人は、立派な大人である。(C)アフロ

ダニエル・クレイグ版ボンドのシリーズ集大成といえる第24作「スペクター」で、序盤に強い印象を残すのが、イタリアの至宝こと、モニカ・ベルッチ演じるルチア・スキアラ。未亡人という役柄上、またシリーズがリアル路線にシフトしたこともあり、ボンドとことさらに関係を深めることはない。それでも隠し切れない大人の色気は、さすがである。

いかがだろう。時代によって、またボンド役俳優によって、相対するボンドガールの立ち位置は変わっていったことがおわかりいただけたと思う。在宅の時間が多い今こそ、「007」シリーズをもう一度見返す機会だ。

これからはもう「ボンドガール」という呼称すら使われなくなるかもしれない。だが、どんなに時代が変わっても、「007」シリーズは男の夢の象徴だ。スーツを基本の仕事着とし、屈強でニヒル。ピンチのときにもジョークを放ち、敵の罠と知りながら、美しい女性とベッドをともにする度胸。そんな究極の男性像を描くうえで、女性の存在は不可欠だ。女性を軽視するような描写はもはや論外だが、今後も新たな魅力を備えたボンドガールの登場に期待したい。

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