多彩なジャンルや業態の飲食店が無数に存在し、世界的に見てもエキサイティングな東京のフードシーン。そのなかでも、この連載ではニューオープンを中心に、「今」行きたい、「人」を連れていきたい、“大人のためのレストラン”にフォーカス。第4回は、2017年2月10日にオープンした南麻布の「茶禅華」をご紹介します。

中華と和の名店で修業したシェフが目指す「和魂漢才」

「茶禅華」が位置するのは、広尾駅から約10〜15分ほど歩いた有栖川宮記念公園近くの閑静な住宅街。かつて北欧や東欧の国の大使館公邸として使われていたという洋風の一軒家を改装した、シックで落ち着きのある空間です。「半径200mくらいの間に飲食店がないので、昼も夜もとても静かです。ここでは街の喧騒から離れて、贅沢な静けさを楽しんでいただけたら」と語るのはオーナー/支配人の林 亮治氏。

1階のメインダイニング。料理とともに中国の美も伝えたいと、現地で買い求めた家具や器が空間を彩ります。なかには100年以上の時を経たアンティークも。窓の外には風情ある竹林が覗きます。

「茶禅華」をオープンするにあたって、林氏がタッグを組んだのは四川料理をベースにした名店「麻布長江」で出会った川田智也氏。「茶禅華」の料理とは、川田シェフの経験が導いた新境地にほかなりません。「麻布長江」で調理とサービスを経験し、アルバイト時代から含めると約10年修業したシェフは、「日本で料理を提供するなら、日本の食材を理解する必要がある」と、20代後半で「日本料理 龍吟」に入社。ここでも調理とサービスをともに経験し、「龍吟」が台湾出店するにあたって立ち上げに参加。「日本料理 龍吟」で約5年過ごしたうち、2年ほど「台湾 祥雲龍吟」で副料理長を務めます。

穏やかな語り口の川田智也シェフ。幼いころ、地元の中国料理店で四川料理に惹かれたことがこの道へ進むきっかけになったそう。

「サービスを両店で経験したことは、非常に大きな糧です。食べやすさやコースの流れなど、お客様が何を求めていらっしゃるかを肌で感じることで、それを料理にいかすことができるようになりました。『日本料理 龍吟』では中国料理にないもの…炭火焼きの技術と食材の緻密な管理について学ぶことができました。中国料理は基本的に生ものを使わないので、日本料理ならではの繊細で厳格な食材の扱いには衝撃を受けました。台湾での経験も今に直結しています。現地の食材をいかした日本料理を提供する『台湾 祥雲龍吟』に対して、『茶禅華』はまさにその真逆。四季ある日本の食材とおもてなしの心をもって、自分が学んできた中国料理の技術をいかした味を提供したいと考えています」(川田シェフ)

「茶禅華」が掲げるコンセプトは「和魂漢才」。大陸から渡ってきた実学に日本独自の精神を融合させ、平安時代に誕生した「和魂漢才」という概念。それを現代の料理に応用し、ここでしか味わえない「日本の中国料理」を世界へ向けて発信する場が「茶禅華」です。

メニューは、旬の食材を一皿ずつじっくり味わうおまかせコース1本

コースの前半に登場する「雉(キジ)の極上スープ」。古来より高貴な人の食材として尊ばれてきた雉を、澄んだ清湯(チンタン)にし、雉の雲呑を加え、季節の野菜で香りを添えたもの(本日はクレソン)。クリアで澄んだ飲み口に、奥行きのある滋味が追いかけます。この滋味の鍵は、「血」。「雉は血が多い食材。その血をすべていかし、雉のガラを血ごと水出しして丁寧に灰汁をとり濾しています」(川田シェフ)

メニューは約15品からなる「季節のおまかせコース」一本(¥18,000/土曜のランチのみ¥12,000のショートコースを提供)。「自分自身もいろいろなものを食べるのが好きなことと、多くの食材を味わっていただきたいという思いから懐石料理のような少量多皿の構成になりました。何を食べたかがしっかりわかる料理が好きなので、ひと皿で伝えたいことはひとつ。食材にしても味つけにしてもひと皿の要素を少なくして絞り込んでいます。少量にすることで、多くの「味」をよりヴィヴィッドに伝えることができますし、盛り付けもシンプルになりますので、素早くお客様に提供できることも重要な点。作りたてを味わっていただけるので、香り、温度、素材感、すべての面で食材の魅力をより強く伝えることができます」(川田シェフ)

本日の魚料理は「金目鯛の焼き物 葱と生姜」。脂がのった金目鯛をナンプラーベースの香港風たれと高温のピーナッツオイルでいただく一品。すだちが口のなかの脂をさっぱりとさせてくれます。

コースはひと口サイズの前菜3〜4品に始まり、揚げ物、雉のスープ、梅山豚、ふかひれ、魚料理、野菜料理、肉料理、担々麺、デザートという構成。旬の食材を使うため、季節の移ろいとともにメニューも変わります。メインの魚料理、肉料理は基本的に炭火焼き。「写真は、脂がしっかりのった日本の上質な金目鯛だからこそできる料理。優しく火を入れてじわじわと魚自身の脂による甘みとジューシーな食感を引き出したあと、一気に炭火で皮に焼き目をつけます。中に火を通しきることなく、瞬間的に火入れできるのが炭火の魅力」(川田シェフ)。日本の食材、日本料理の調理法、中国料理の味付けが三位一体となって生まれる炭火焼きは、「日本の中国料理」の真骨頂といえるかもしれません。

食の楽しみを倍増させ、新たな発見をもたらすティーペアリング

ティーペアリングで提供するお茶はすべて毎朝手作りし、オリジナルボトルに入れて登場。生産地は中国各地、台湾、日本など、お茶でアジアを巡るようなラインナップ。ティーペアリングは約8種類で¥6,000〜8,000。冷たいもの、温かいものの比率は季節に合わせて半々くらい。左端はグラスのなかで茶葉が美しく広がる、希少な中国の高級銘茶「太平猴魁」。

要素を絞ったひと皿ひと皿をより楽しむため、ぜひ合わせて注文したいのがドリンクのペアリングコース。ボルドーで修業したソムリエールによる、ワイン、日本酒、紹興酒といった多彩な酒類からなるアルコールペアリングのほか、中国を始めとするアジアのお茶を揃え、温度帯まで細かく調整して提供するティーペアリングも用意。アルコールとお茶をミックスしたペアリングも可能です。選りすぐったお茶、中国酒、日本酒、洋酒から、料理はもちろんゲストの好みや気分、体調に合わせてチョイスされる飲み物も、「茶禅華」の大きな魅力のひとつ。独自のペアリングは、料理の味を引き立てるだけでなく、料理と飲み物が相乗して生まれる味との出あい、未知の味わいを発見する喜びまでをももたらしてくれるはずです。

特別な日を心から満喫させてくれる、「茶禅」のおもてなし

「茶禅華」の店名は、日本にも中国にも存在する「茶禅」の心…相手と向き合う「茶」、自らと向き合う「禅」に中華の「華」を合わせたもの。「和魂漢才」とともに「茶禅華」の軸となるコンセプトです。「『茶』と『禅』は一体という考え方を、おもてなしについても生かしたいと思っています。『主客一体』という考え方にも近く、お客さまのご要望に添いながら、自らも料理に真摯に取り組み、自問しながら進めていく。最高を目指して、しなやかで強く、柔軟なおもてなしをしたいと思っています」(林支配人)。例えばそれは、料理の量や提供するタイミングだったり、好みに合わせた細かな味付けの調整だったり。個室をふたつ備え、接待やごくプライベートな会食、お子さま連れのお食事などにもきめ細かく対応できる点にもその姿勢が現れています(※お子さまは個室のみ利用可能、専用のメニューも予約時に相談可能)。スタッフが日・中・英・仏の四カ国語に対応しており、海外からのゲストをおもてなしする際に安心できる点も特筆です。ここでしか出合えない「日本の中国料理」を、「茶禅」の心のもと最高のサービスとともに味わう…。大切な人と特別な時間を過ごしたいとき、「茶禅華」はきっと心身に深い満足を与えてくれることでしょう。

2階に続く階段に掛けられた、直径が1m30㎝ほどあろうかという迫力たっぷりの大皿。陶磁器の名産地・中国の景徳鎮産で、もとは「日本料理 龍吟」に飾られていたもの。オープンにあたって譲られたのだとか。
8席の円卓を備えた2階の個室。1階には4席の個室があります。個室は大好評で、今年秋には2階にもう1室増える予定だそう。

問い合わせ先

  • 茶禅華 sazenka TEL:03-6874-0970
  • 営業時間/17:30〜21:00LO(火曜〜金曜)、
    12:00〜13:00LO、18:00〜21:00LO(土曜)、12:00∼14:00LO(日曜)
    定休日/月曜、日曜夜
    基本は約15皿¥18,000のコース。土曜のランチタイムのみ約10品の¥12,000のショートコースを用意。
    ダイニング14席、個室2(4席、8席)
    住所/東京都港区南麻布4-7-5
この記事の執筆者
早稲田大学卒業後、アシェット(現ハースト)婦人画報社に入社。『エル・ジャポン』、『エル・ガール』、「エル・オンライン」編集部を経て独立。現在はフリーランスのエディター、ライターとして紙/Webの両媒体を中心に、主にファッション、フード、ライフスタイルのジャンルで活動。セレクトショップ「ドローイングナンバーズ」ではワイン&フードのセレクトも担当。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
PHOTO :
長田朋子
EDIT&WRITING :
門前直子