新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う緊急事態宣言により、外出自粛要請が出され1ヶ月近く経とうとしています。慣れない在宅ワークや外へ出歩けないことでのストレスや運動不足により、体調を崩している人も多いのでは?

中でも、食事のリズムの乱れや運動不足解消ができないことで、お腹の調子がいつもと違うという人が多いそうです。

そこで、便秘などをはじめお腹の不調が、どのように健康に支障をきたしてしまうのかを帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科の松井輝明先生にお話を伺いました。

松井 輝明 先生
帝京平成大学 健康メディカル学部 健康栄養学科 教授 健康科学研究科健康栄養学専攻長専攻長
(まつい てるあき)日本大学医学部卒業。医学博士。1999年 日本大学板橋病院消化器外来医長就任。 2000年 日本大学医学部講師、2012年 准教授。2013年 帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科教授就任、現在に至る。

 免疫低下のサイン!?「大腸劣化」との関係とは

小腸と大腸がバランスよく働かないと不調になりやすいという。
小腸と大腸がバランスよく働かないと不調になりやすいという。

そもそも、日本では、大腸がんや潰瘍性大腸炎、クローン病など大腸に関する大きな病気が年々増加し、日本人の大腸劣化は深刻化しつつあるといわれています。

大腸の機能が衰えることで全身の健康リスクが高まっている状態を示す、「大腸劣化」という言葉があります。毎日の生活のなかでこの大腸劣化に対策していくことが大切だとか。

春は花粉症などアレルギー症状が出やすい人も多いことから、免疫力アップについての話はよく耳にされると思いますが、特に2020年は新型コロナウイルスによって敏感になっている方も多いでしょう。免疫とはそもそもどのように大腸と関わっているのでしょうか?

免疫には2つの種類があります。最初の防御として受容体を介して侵入してきた異物や病原菌を感知し排除する『自然免疫』と、それが突破された時に各種抗体を作り出して攻撃する『獲得免疫』との連携によって、効果的に全身の健康が保たれています。それらを担う免疫細胞の約7割が腸に集中しており、主には小腸に存在しています。

小腸の腸壁やその粘膜の下にはパイエル板という免疫器官が備わっており、T細胞やB細胞と呼ばれる免疫細胞がぎっしりと並んでいます。そして異物や病原菌が来るとそれを捕まえ食べて(貧食)しまうのです。免疫機能を高めるものとして有名な乳酸菌の中には、パイエル板に取り込まれると、免疫細胞の数や動きを効果的に高めるものがあり、そうした機能が確認された乳酸菌配合食品が多数販売されているのです。

そう説明すると免疫力を高めるためには、小腸の働きを良くする効果があることをすれば良いと思いがちですが、大切なのは大腸です。病原菌が体に入り、小腸にたどり着くと免疫細胞を出動させて攻撃しようとしますが、それをくぐり抜けて大腸まで達するものもあります。大腸にも免疫細胞はありますが、数も効力も小腸には劣るため全てを撃退できません。しかし大腸に入ってきても全てが発症するわけではありません。

免疫細胞の攻撃に加え、病原菌が作り出した毒素が、大腸の腸壁を通過して血管に入り込みさえしなければ、発症しません。いわば、大腸は最後の砦と言えるでしょう。小腸をディフェンダーに例えると、大腸はゴールキーパーのような役割で、毒素の侵入を徹底的に防いでいるのです」(松井先生)

 「短鎖脂肪酸」を効率よく増やし腸内環境&免疫力アップ!

「免疫機能は、過剰に働きすぎるのもよくありません。花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどがその良い例えです。腸内で免疫機能が制御不能に陥ると、潰瘍性大腸炎やクローン病を引き起こしてしまうため、小腸の免疫が暴走しないよう大腸がコントロールしていることも明らかになっています。

免疫が『暴走』して過剰に興奮すると、花粉や食べ物の成分など無害なものや、体の正常な細胞まで攻撃し、アレルギーや自己免疫疾患を引き起こすことが知られています。この免疫の暴走を抑えるブレーキ役が『Tレグ(制御性T細胞)』と呼ばれるもの。

Tレグは、大腸内細菌が食物繊維を食べて出すスーパー物質『短鎖脂肪酸』の作用で、大腸の中で生み出されています。このように、小腸と大腸の免疫はとても密接に関係しています。免疫は、ブレーキとアクセル、両方がバランス良く働いて初めて理想的な効果を発揮するものなのです。

免疫力を高めるためには、腸内環境を良好に保つことが大切です。ビフィズス菌をはじめとする善玉菌には、IgA(免疫グロブリンA)*1の産生を促進する働きがあり、感染症の罹患・重症化リスク低下にも大事な役割です。母乳を飲む乳児が感染症にかかりにくいのは、このIgAが母乳中に豊富に含まれているためなのです。

また、大腸では善玉菌が作り出す短鎖脂肪酸によって、腸壁の内側にあるムチンという粘液が増やされバリアを張り、有害菌が入らないようブロックする役割をします。

さらにビフィズス菌が腸管上皮細胞の炎症を抑制し、バリア機能をアップさせることも報告されており、腸管の免疫機能を維持し、食品抗原が体内へ入って引き起こされるアレルギーの予防にも役立っていると言われています。 

短鎖脂肪酸は、お酢などの食品にも含まれています。しかし、口から直接摂取しても胃や十二指腸で消化されてしまい、味や臭いの点でも全身の健康に関わるほどの量は到底摂ることができません。短鎖脂肪酸を効率よく増やすためには、食物繊維やオリゴ糖を豊富に含む食品を摂取しそれらを腸内細菌の力で発酵させて大腸内で自らつくり出す方法が有効です。

短鎖脂肪酸は、大腸に住む特定の善玉菌が、水溶性食物繊維をエサとして発酵分解することによってつくられます。これらビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌が不足すると短鎖脂肪酸もつくられなくなってしまうため、食事や睡眠などの生活習慣に気をつけることが大切です。短鎖脂肪酸をつくる菌が住みやすい大腸内環境を整えるために、ビフィズス菌入りヨーグルトなどを積極的に摂って有用菌を腸に直接届け、そのエサの補給として食物繊維を摂る事を心掛ける必要があります。

ビフィズス菌などの善玉菌と善玉菌のエサとなる水溶性食物繊維やオリゴ糖、ラクチュロースなどを日頃から摂り、大腸から免疫力アップに取り組むことが健康への近道となるのでおすすめです」(松井先生)

*1ウイルス・病原菌を攻撃したり、毒素を無毒化するタンパク質

免疫低下のサインに気づく! 大腸劣化度チェック

日々の生活習慣から大腸劣化を防ぐヒントを見つけたい。
日々の生活習慣から大腸劣化を防ぐヒントを見つけたい。

腸内環境の乱れは、免疫力の低下や感染症のリスクの増加と大きく関係しています。

便秘や便のニオイが気になるということは、腸内環境が乱れていることを示すサインだととか。便秘や便のニオイが気になるときは、免疫力が低下している可能性が高いともいわれます。腸内環境の乱れとは、大腸劣化にもつながります。

「大腸劣化とは、大腸に多く存在する腸内細菌が、偏った食生活やストレス、睡眠不足などによって老廃物や有害物質が作られることで、短鎖脂肪酸を作り出すなど、正常な機能が保てなくなり、最終的には大腸ガンなど大腸疾患だけでなく、全身の健康リスクにまで発展してしまいます」(松井先生)

\これで自分の腸の健康度がわかる!/

【大腸劣化度チェック】
□肉や脂っこいものが好き 2点
□野菜はほとんど食べない 2点
□外食が多い 1点
□食事の時間が不規則 1点
□寝るまえによく食べたり飲んだりする 1点
□定期的な運動をしていない 1点
□1日30分以上歩いていない 1点
□定期的な運動をしていない 1点
□ストレスが溜まりやすい 1点
□肌荒れや吹き出物が多くなった 1点
□タバコを吸う 1点
□便やおならのニオイが臭い 2点
□便が3日以上でないことがある 2点
□便が出るまでに5分以上かかる 1点
□便意があっても我慢してしまうことがある 1点
□便を出しても残便感がある 1点

【合計点での結果はこちら!】
・5点以下…大きな問題はなさそうですが、0点を目指してできることから改善しましょう
・6〜10点…腸内環境は悪くなってきています。この機会に食生活や生活習慣を見直しましょう
・11〜14点…腸内環境がかなり悪化しています。このままの生活を続けると便秘や、腸の病気などを起こしかねません。積極的に食物繊維を取るなどの改善をしましょう。
・15点以上…本格的な大腸劣化に陥っている可能性があります。便秘や腸の不調に悩んでいませんか?便秘薬でしのぐのは根本解決にはなりません。食生活やストレスの多い生活、生活習慣を見直しましょう。不調が続く場合、消化器内科や便秘外来など、専門医の診断を受けることをおすすめします。

気づけていますか?「巣ごもり便秘」

気づかぬ間に便秘になってしまっていることも。
気づかぬ間に便秘になってしまっていることも。

外出自粛によりテレワークの日が増え、食事はしっかりするのに動けていない…そんな方は「巣ごもり便秘」になっているかも!

一般的に便秘と呼ぶのは「慢性便秘」で、原因によりいくつかの種類に分かれます。ストレスや生活習慣の乱れもそのひとつといわれ、ストレスや生活習慣の乱れによって大腸が痙攣し、便をスムーズに排出できなくなってしまうから。腸が痙攣しているとそこで便がつまりやすくなるため慢性的な便秘になってしまうのです。

また、体が動かない時間が長いと、大腸も動きません。大腸が動かないことで便秘になり、有害菌が作り出す毒素が大腸内に増えてしまうのです。

「毎日便が出ていると『自分は便秘でない』と思う人もいるようですが、そうとも言い切れません。便秘とは、本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態*2といわれます。つまり、たとえ1日に3~4回排便があったとしても、残便感があればそれは便秘とみなされるので、外出を控え巣ごもりしている間に、自分では気付かぬ便秘になっている可能性もありますよ。

便が溜まってしまうと、腸内細菌の悪玉菌が作り出す毒素が腸管に悪影響を及ぼしてしまいます。これが便秘の悪いところ。溜まった便が腸壁に押しつけられる状態が続けば、腸壁は長く毒素にさらされるため、大腸がんを発症するリスクも。

便秘は、体内に毒素が溜まっている証拠で大腸劣化のわかりやすいサインになるため、全身のトラブルにつながる前に対処することが大切です。

便秘を放置していると、肌あれや、集中力・免疫力の低下など、全身に様々な悪影響が出るようになり、やがて深刻な病気を引き起こす危険性があります」(松井先生)

*2慢性便秘症診療ガイドラインより

今すぐできる大腸ケアで「巣ごもり便秘対策」4選

■1:善玉菌とエサを継続的に摂り続ける食事

腸内環境は2週間で変化を感じます。ヨーグルトや漬物、納豆などの発酵食品を上手に取り入れることがおすすめです。腸内細菌は、そのほとんどが定着せず便と一緒に体外へ排泄されてしまうため、継続的に摂り続けることがポイント。

また、大腸に住むビフィズス菌などの善玉菌がエサとして好む水溶性食物繊維・オリゴ糖・ラクチュロースなどを積極的に摂るとより効果的です。腸内フローラは人により異なるため、同じ菌種を2週間ずつ続けて摂取し、便通や便の色・ニオイなどの変化を観察しながら、まずは自分に合ったものを選ぶとよいでしょう。

■2:毎日30分の運動習慣

運動をすると筋肉が熱を発して体温が上がり、ウイルスと戦うリンパ球のパワーを上げる働きをします。1日20~30分の軽く汗をかく程度の運動で、体温を高めるのが効果的です。

今はまだ人の多いところには行かない、人通りの多い時間帯は避けるなどのリスクヘッジは必要ですが、適度な運動は重要です。毎日30分の有酸素運動で血行がよくなり、運動の刺激により腸が動きやすくなります。特別な運動でなくても、やや速足で歩くだけで十分。買い物に行くときにいつもより遠回りをするなど、できる範囲で身体を動かすことを心がけましょう。

また排便時に「いきむ」には腹筋が必要です。スクワットや腹筋運動、お腹を刺激する「の」の字マッサージや複式呼吸、からだをねじるなどの運動もおすすめです。

■3:生活リズムの改善

日常生活が戻ってくるのがいつになるかはまだ見えない状況ですので、生活リズムを整えるのも簡単ではありませんが、今できることは是非取り組んでみましょう。

まず、できるだけ規則的な生活サイクルを保つために、同じ時間に起床するよう心がけましょう。朝起きたらコップ一杯くらいの水分と朝食を必ず摂りましょう。朝食を食べることは眠っている大腸を起こして動かす意味で重要で、快適な便通をもたらす一番のポイントとも言えます。朝食後には必ずトイレに行き、排便するトイレタイム習慣をつけましょう。

「睡眠」も免疫力を高めます。しっかり6時間以上(できれば7時間)の睡眠を取ることをおすすめします。目を閉じて横になって身体を休めるだけでも、免疫力は高まるといわれています。

■4:ストレス解消

巣ごもり状態が続き、ストレスを感じているときや不規則な生活で睡眠不足になってしまった時は交感神経が優位になりやすく、腸の動きも悪くなります。腸と脳とは連動しているので、好きな音楽を聴く、テレビ番組を見て笑うなど、自分なりのストレス対処法を見つけ、毎日少しでも気分よく過ごせる時間を持つようにしましょう。

「笑い」も免疫力アップには欠かせません。ストレスはリンパ球の働きを低下させます。笑いで起こる興奮は、脳が免疫力をつかさどる部分にダイレクトに伝わり、脳内に幸福を感じさせる物質が出て、ストレスをやわらげてくれます。

***

自分にも思い当たるところがある!と思った方も多かったのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染対策としてマスク装着や手洗いにこまめな除菌などは大切ですが、あまり神経質になりすぎるのも腸を始め体に良くないことがこれでわかりました。

まずは、基礎体力として自己免疫を高めることが大事です。今からすぐに取り入れられる毎日の「大腸ケア」で、快適な生活を過ごしましょう。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
EDIT&WRITING :
Sachi Tamura