年々、最高気温が上がり続け、猛暑や酷暑という言葉にも慣れてきてしまった日本の夏。

2020年は、新型コロナウイルスの蔓延防止による緊急事態宣言から、今まで体験したことのない長さで多くの人が外出自粛を実施しました。外出自粛期間の長さから、体に様々な変化がある人も多いようです。中でも気にかけたいのは、体から出る「ニオイ」。ただでさえ暑いだけで煩わしい夏ですが、今年はさらにニオイにも不快な思いをさせられそう。

そこで、外出減少による体のニオイの変化とその対策について、専門家のお2人にお話を伺いました。

五味 常明先生
五味クリニック院長 体臭・多汗研究所所長
(ごみ つねあき)1949年長野県生まれ。一ツ橋大学商学部、昭和大学医学部卒業。昭和大学形成外科、多摩病院精神科などを経て、「心療外科」という新しい医学分野を提唱。体臭・多汗治療の現場で実践。
高山 かおる先生
済生会 川口総合病院 皮膚科主任部長
(たかやま かおる)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科皮膚科特任准教授も併任。山形大学医学部卒。専門は接触性皮膚炎、フットケア。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。『皮膚科医が教える本当に正しい足のケア』(家の光協会)他、フットケアに関する著書多数。

 巣ごもり生活後は足の発汗とニオイに要注意

汗腺機能が落ちるとニオイの強い汗をかきやすくなる。
汗腺機能が落ちるとニオイの強い汗をかきやすくなる。

長い外出自粛を経て、通常の生活に戻りつつありますが、そのタイミングで、暑いシーズンに突入。汗をかきやすいこの時期にも関わらず、特に今年はよりニオイが気になりやすい状況になりそうとはどういうことでしょうか。

巣ごもり生活により例年より汗をかく機会が少なく、汗腺機能が落ちている可能性があるため、今、ニオイの元となる成分濃度の濃い汗がでやすい状態といえるでしょう。

緊張して汗をかいたなどの経験は、誰にでもあると思います。緊張による発汗は精神性発汗といい、在宅期間が明けて生活リズムが変わると、その緊張やストレスから足にも精神性発汗が起こります。緊張する体質ではないと思っていても、実はパンプスを履いて歩くだけでも、精神性発汗が起こる可能性があるのです。

巣ごもり生活であまり歩かないから、久々にパンプスを履いて歩くと、体を支える足の裏のバランスを崩し、精神性発汗につながります。体を支えるバランスが崩れると余計に筋肉が緊張し、精神的に緊張している時と同様に自律神経が乱れ交感神経が高まります。

発汗は交感神経が高まることで起こるため、長い在宅期間を経てから外出することは、知らず知らずに緊張し、足汗を大量にかいてしまう可能性があります。

また、巣ごもり生活での運動不足も、臭う汗につながります。運動不足による筋力低下で血行が悪くなり足がむくむと、足にアンモニアが溜まりやすくなります。溜まったアンモニアは、汗として排出されるので、ニオイのきつい汗となってしまうのです」(五味先生)

ストッキング&パンプスは最悪臭コンビ!

ムレた状態での汗と細菌がニオイを生み出す。
ムレた状態での汗と細菌がニオイを生み出す。

足も汗をかきやすい場所であることがわかりました。さて、足のニオイの原因は汗だけなのでしょうか?ニオってしまう原因とは。

足のニオイは、垢と脂質が混ざったものを細菌が分解することで作り出されます。この細菌を棲みやすい環境にするのが汗です。

足の裏は手のひらや額と並んで、最も汗腺が集中した場所で、1センチ平方あたり300近くある汗腺から多量の汗が出ます。さらに汗はアルカリ成分を含み、細菌が活動しやすい環境を作り出してしまいます。

また、足はどこよりも角質層が厚く、大量の垢、つまり細菌にとって大量のエサがある場所なのです。

細菌が棲みやすい場所でエサも大量にある足ですが、パンプスに合わせがちなストッキングでも足の環境は更に悪化します。ストッキングをはいてパンプスを履くと、大量に出た汗は蒸発せずに足に溜り、適度な温度と湿気を細菌に提供しているため、ニオイを生み出しやすい環境にあります」(五味先生)

ストッキングをはいてパンプスで、日々出勤している人も多いはず。その際はただニオってしまうだけでなく、足の衛生環境にも影響があることを意識して過ごすことが必要そうです。

不安な気持ちは更にニオいやすくなる負のスパイラル

そうなると、久しぶりの外出で出勤や人に会う機会が増えると、前よりもニオイが気になり緊張感が増してしまいそうです…。しかし、その精神状態で出かけることは返ってニオイを増してしまう危険性もあるとか!?どういうことなのでしょうか。

精神性発汗は、足のニオイを気にするとさらに汗をかいてしまうという悪循環に陥りやすい傾向にあります。それを予防するには、出かける前にしっかりと足汗対策をして、自信をつけておくことが重要です」(五味先生)

ニオイの原因となる汗ケアで自信をつけて外出を

では、どのように足汗対策をすれば良いでしょうか。

足汗対策には、ミョウバン入りの制汗剤をおすすめします。ミョウバンには、足汗のニオイを抑える3つの作用があります」(五味先生)

【ミョウバンが足汗のニオイに効く3つの作用】
1.水に溶けると、ニオイの元を作る細菌が嫌う酸性になる
2.ミョウバンには制汗作用がありニオイの元となる汗を抑えることができる
3.ミョウバンには様々な金属が含まれており、皮膚上で作られたニオイ成分が酸化還元反応により中和され消臭も行われる

前述の通り、汗にも含まれるアルカリ成分は菌が繁殖しやすいので、その状況を防ぐために酸性へ向けていくことが大切です。ミョウバンによる汗ケア対策で、精神的にも自信をつけ、自分で汗やニオイの気にならない状態を作り外出することが良いでしょう。

エイジング臭?見落としがちな「胸汗」にも注意

ストレスも汗の原因に。気にしすぎることにも注意が必要。
ストレスも汗の原因に。気にしすぎることにも注意が必要。

足だけでなく、特に薄着の季節は全身汗をかくので、どこからニオイが発生しているのかわからないことも。そして、自分自身で気になるニオイは他人にも気づかれていないかと不安にもなります。気になる体のニオイで、特に今、女性が気をつけるべき場所は「胸」といわれています。その理由とは?

「汗は、もともとニオイが強いものではありません。ただ、汗が皮膚にある皮脂やアカなどと混ざると、細菌がニオイ物質を作り出します。汗をかいたまま放置することで、皮膚の常在菌が汗や皮脂などを分解し、きついニオイが発生してしまいます。

さらに、汗の種類によっても、ニオイが変化します。更年期によく見られる症状であるホットフラッシュ(更年期多汗症)のときのように、一気にどっとかく汗や、ストレスを感じているときにかく汗は、きついニオイに変化しやすいといわれています。

そして、『自分の汗のニオイが人に迷惑をかけているのでは?』と思えば思うほどに気になります。特に女性特有の現象として、ブラジャーをしていることもあり、汗が胸の間や下部に溜まりやすいということがいえます。

胸の汗は鼻に近いため、その自分のニオイがストレスとなり、さらに発汗につながることもあります。ストレスを抱えないためにも、きちんとケアをし、安心感をもつことも大切なのです」(五味先生)

通気性の良い服装とパウダーケアが◎

通気性の良い服装とパウダーケアが◎
パウダータイプの制汗剤は、肌にしっかり吸着し長時間快適に過ごしやすい。

女性特有ともいえる場所での胸汗とニオイのケアに最適な方法はあるのでしょうか?

ワキや足などと同じように、胸汗対策としてデオドラント成分が配合されたパウダーなどの制汗剤やボディケアグッズを使うことをおすすめします。

特に胸の汗対策としては、下着をつける場所でもあるのでムレに気をつけることが大切です。

さらに、朝、下着をつける前にデオドラントパウダーを胸や首筋に使用すると、防臭成分が肌に密着して、汗のニオイやベタつきが抑えられて、一日中さらさら感が続き、快適に過ごせます。パウダータイプは、肌の敏感な方にもやさしく使えるのでおすすめです。

また、外出時だけでなく、部屋の中で家事をするときや、ちょっとしたエクササイズをするとき、お風呂上りなどにも使うことをおすすめします。屋内外問わず使うことにより、さらさら感が長続きし、様々なシーンで不快な汗トラブルを抑えてくれます。

朝、服を着るタイミングで簡単にできるパウダーケアは、ぜひ習慣にしてみてください。蒸し暑い夏の季節だけでなく、実は厚着になる秋や冬も胸汗は出るので、一年中ケアをして快適に日々を乗り切っていただきたいです」(高山先生)

【胸汗&ニオイ対策】
1.ムレを抑えるために、通気性がよくベタつきの少ない素材の下着を身につける 
2.急に暑くなったり、ほてった時に対応できるよう、カーディガンなど温度調節しやすい服選びをする 
3.室温をこまめに調整する

 薄着の季節は、胸元の少し開いた服装になる日もあるでしょう。かいた汗を放置することは胸からニオイも伝わりやすくなってしまうので、特に外出先では汗をかいた場合こまめにケアすることを心掛けたいですね。

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汗やニオイのケアは男性に必要と思いがちですが、仕事に育児や家事など…気付かぬうちにストレスをためている女性ほど、実は正しい汗ケアが必要なんですね。

これから更に気温が上がり、夏本番になります。今からでも遅くない、体の汗とニオイ対策をしっかり行い、自信を持って外出し暑い日々も快適に過ごしましょう。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
EDIT&WRITING :
Sachi Tamura