朝、目覚めてからの数時間を、どんなふうに過ごしていますか?
今、見直したいのが、「朝時間」の使い方。女優やモデルなど、美を仕事にする女性はもちろん、政治やビジネスの世界でタフな毎日を送っているトップキャリアにも、朝時間を大切にしている人がたくさんいます。
本記事では矢島洋子先生に「朝方ワークシフト」による自由な働き方についてお話を伺いました。
矢島洋子先生が解き明かす「朝型ワークシフト」がキャリア女性たちの人生を変える
私は、長年、ワーク・ライフ・バランスの研究をしています。2004年からは内閣府男女共同参画局の分析官を務め、その後は短時間勤務など柔軟な働き方と女性のキャリア形成に関する研究などを行ってきました。働き方は時代とともに変化して、法律も整備されてきましたが、みなさんの実感はどうでしょうか。
私自身が新社会人として社会に出たころは、通勤ラッシュにもまれて出社、残業の後の飲み会が当然のようにありました。正社員も、管理職も「フルタイム+残業」ができる人に限られたメンバーシップ制で、「夜型」の社会。そのころはそれが当然と思い、なんとかそれをこなそうとしていましたが、満員電車に乗るたびに、一日の元気の大部分を消耗しているように感じていました。
でももし、早朝の勤務を選べたらどうでしょうか。しかもリモートワークで! 早朝、すっきりとした頭で自宅のパソコンで書類を作成したり、メールを送ったり、ラッシュを避けて通勤して、午後には疲れ知らずで会議に出席、定時には帰宅――そういった新しい働き方をする人が、今、徐々に増えています。
その背景には近年、短い時間で効率よく働くことが重視されていることがあります。人間の集中力は限られています。いかに疲労せずに、高い生産性を持続できるかが大事。そのためには①朝夕の通勤ラッシュを回避②良質な睡眠の確保、が重要だと考えられます。
昨年には、勤務と勤務の間に一定時間の休息をもうける「勤務間インターバル制度」が、働き方改革関連法に基づいて規定されました。従業員が心身ともに健やかに働ける「健康経営」も重視されています。もう夜遅くまで飲んで、翌日は二日酔いで出勤して、ぼーっとした頭で働く時代ではないのです。
家族との時間も大事、早朝出勤という選択
特に子供をもつ女性にとって、朝型という選択肢が増えるのは、意義があることだと思います。出産後に一日6時間の「時短勤務」を選択することが法律で保障されたのが2009年でした。この法律で、多くの女性が子育て中もキャリアを継続できるようになりました。ただし時短勤務では、評価を得にくいということがあり、現在も無理をして希望とは違うフルタイム勤務をしている人も少なくありません。
調査では、3歳以下の子供をもつ女性のうち「フルタイム+残業」の希望者は約13%ですが、実際には34%もの女性がその形態で働いています(※三菱UFJリサーチ&コンサルティング調べ 平成29年2月)。6時間か、フルタイムかの2択というように選択肢が少ない企業では不本意な働き方を選びがちになります。
しかし、30分刻みで勤務時間を設定できる企業もあり、そういった柔軟な企業では、女性に限らず育児も仕事も主体的に取り組みたいと考える社員が力を発揮しやすいでしょう。
講演などで働く女性と接すると、「子供が小さなうちだけでなく、夕食を一緒に食べたい」という声も多く聞きます。たとえばフレックスタイム制度の枠が広く、出勤時間を早朝に変更したり、夜の残業を朝時間にシフトできれば、男女ともに夕食を家族でとることができます。その充実感は、よい仕事をするエネルギーになるはずです。
自由な働き方が効率をアップする
リモートワークは早い企業では20年前からトライアルをしています。当初、対象になったのは、やはり子供をもつ女性たちです。そして現在、感染症対策やクラウド利用の一般化などにより、急速に拡大しています。朝のラッシュ時間は長いため、1時間程度の調整では混雑を避けることは難しいのが現実。自分のライフスタイルや体調に合わせて、自宅で働けるとモチベーションも高く保てます。
また、「会社で働いているだけでは成長できないので、自己啓発のスクールに通いたい」といった要望から、朝型勤務を望む人も少なくないと思います。
「朝時間」の活用とともに、今後は、もっと柔軟に働ける機会が増えてくるでしょう。時短勤務を経験した女性たちが管理職に就くようになり、その成果として、今後はこれまでとは違う働き方が生まれることも予想されます。
働き方を考えるとき、「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂)」が重視されますが、最近はインクルージョンに、より力が注がれています。
さまざまな働き方をする人を、きちんと評価し、メンバーとして認めていく時代です。自分が朝に最も集中力を発揮できるのであれば「私はいい仕事をしたい。だから朝型で働きたい」という主張を職場でしましょう。
そして、深夜まで職場にいたといった「勤務態度」ではなく、どれだけ成果を上げたのか「生産性」へ、仕事の評価軸がシフトすれば、朝型勤務やリモートワークの導入をしやすくなります。時間も、場所も自由に、そして自分らしく能力を発揮するチャンスが広がるはずです。
朝活女性のケース
■ケース①:「朝7時45分の出勤で子育ての連携がスムーズに」(A子・38歳・食品メーカー勤務)
子供を保育園に預けて、お迎えは夫と交代でしていましたが、昨年からは思いきって、私が7時45分からの朝型勤務に切り替えました。子供の朝食と支度、保育園の送りは夫が担当。私は遅くても17時には退勤するので、お迎えが確実にできます。
夫との家庭業務連絡の行き違いが少なくなっただけでなく、私にとって朝は自分の時間になったというメリットも。通勤しながら、母親や友人との連絡をしたり、仕事のことを考えたり。夜は家庭の時間として子供に集中できています。
■ケース②:「多忙なときこそ早朝のカフェで気持ちをリフレッシュ」(B子・42歳・IT会社勤務)
納期が迫ると、どうしても残業が続き、チームの雰囲気がピリピリに。朝、疲れが十分にとれないまま満員電車に乗る生活が続くと、思考もマイナスに傾きがちです。
そんなときには、あえて1時間早めの電車に乗り、勤務先近くのカフェに行きます。朝の陽差しを浴びて、少し甘めのドリンクを飲むだけなんですが、心に余裕が生まれます。ぼーっとしたり、好きな作家の短編小説を読んだりして、頭の中をリフレッシュ。仕事にトラブルがあったとしても、柔軟な対応が可能になりました。
■ケース③:「週2回、2時間早い出勤でビジネススクールに」(C子・45歳・アパレル会社勤務)
週2回、2時間早く出勤しています。上司に、ビジネススクールに通いたいと相談したところ、人事と調整をしてくれて、水曜日と金曜日は早く帰れるようになりました。上司の手前、ビジネススクールは休めず、後ろの時間が決まっているプレッシャーもあり、朝から猛スピードで仕事をするわけですが(笑)
実際、朝は集中力が高いので作業が早く進みます。チームの他のメンバーも、「今日は〇〇があるので」と残業しない宣言をするようになり、職場全体の残業時間が減っています。
朝活を実践する企業の実例
■:サントリーホールディングス
2010年よりフレックスタイム制度とテレワーク制度を拡充、5:00~22:00で時間・場所に捉われない働き方を推進中。時差のある海外との業務はもちろん、子育て中の社員が朝に自宅で勤務してから遅めに出社するなどの活用も。
■:東急
勤務開始時刻を7:30~10:30の間、30分単位でスライドできる制度を2009年に導入。特に7:30始業(16:30終業)の勤務形態を「アーリーワーク」と命名、2017年から朝型勤務の習慣化とオフピーク通勤をさらに促進。
■:サイボウズ
チームと相談のうえ、社員が働く時間も場所も自由に決められる「働き方宣言制度」を2018年に開始。社員一人ひとりの幸福度とチームの生産性向上が目的。「夕方の用事のため週2日早朝出勤」などライフスタイルにより決定。
■:資生堂
在宅勤務制度を2016年に導入し、利用者数は徐々に増加中。朝8時~夜18時45分のフレックスタイム制度活用も併せて推進している。子育て中の社員などが、朝の在宅勤務後に家事を行い、その後、会社に出勤する例も。
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- PHOTO :
- よねくらりょう
- WRITING :
- 本庄真穂
- EDIT&WRITING :
- 宮田典子(HATSU)、 喜多容子(Precious)