フランスで2軒の三つ星レストランを持っている若手シェフ「ヤニック・アレノ」とは?
パリのレストラン「ルドワイヤン(Pavillon Ledoyen)」でミシュラン三つ星を獲得し、続いてスキーリゾート地として有名なクールシュヴェル(Courchevel) にある高級ホテル(Cheval Blanc)内のレストラン「LE 1945」においても、ミシュラン三つ星を獲得。いま世界で最も注目を集める若手シェフが、ヤニック・アレノ氏です。
2017年に新たに三つ星を獲得したのも、フランスで2軒のレストランで三つ星を持っているのも、彼だけです。そんなアレノ氏がドバイの「ワンアンドオンリー・ザ・パーム(One&Only The Palm)」にあるレストラン「STAY by Yannick Alleno」で、ディナーイベント「DINNER WITH A LEGEND」を開催。お話を伺う機会に恵まれました。このイベントの体験報告とともに、ヤニック・アレノ氏のお料理の魅力をお届けします。
長身でハンサムなアレノ氏の流れるようなフランス語についつい、インタビュアーという立場を忘れて聴き入ってしまいそうでした。
ヤニック・アレノ氏への11の質問
シェフ・ヤニック氏は最後の質問のあとに、私を見て悲しそうに言いました。「彼は本も書かずに逝ってしまった!」「また会えたら彼なら私の疑問に答えてくれるかもしれないのに! 1万2千もの質問があるんだ」。
なんて素敵なエピソードでしょう。この心温まるエピソードを胸に、ディナーに臨みました。
ドバイのワンアンドオンリー・ザ・パームでいただいた「ヤニック・ アレノ」の三つ星料理
「ワンアンドオンリー・ザ・パーム」のレストラン「STAY」は、天井が高く白と黒のコントラストが美しく、エレガントでシック。特にライティングが素晴らしい内装になっています。薄暗く落ち着く感じだけれど、お料理にはちゃんとやわらかい光が当たっていて、何をいただいているのかははっきりとわかる、そのバランス感覚が素敵なのです。
当日のイベントで、シェフに通されたのは、左手奥の落ち着く席。中心部からは見えにくい見えにくい席のためか、お料理の合間にちょこちょこお話しに来てくださいました。
■1皿目:蜜柑と仔羊肉と雲丹
一緒に乾杯もして、まず最初に出てきたのは、クレメンタイン(フランスのみかん)の中身をくり抜いて外側をカリカリに焼いたものを器にし、中に乳飲み仔牛肉のタルタルを入れたもの。その上に載ったトッピングはな、なんとウニ! 「蜜柑と仔羊肉と雲丹」。なんとも予期せぬ取り合わせです。
お肉はとても淡白な味で、マリネされているため肉の臭みがまったくなく、ウニと一緒に口にいれると、ウニの甘さと仔羊肉タルタルの酸味が調和しているためか、弾力性のある魚?と錯覚してしまうほど。そこに、ほんのり香ってくるマンダリンの芳醇な香り…。
生まれて初めての食感と味の組み合わせで、絶妙の一言に尽きます。この歳になってもまだまだ未知の味を発見できることに、感動いたしました。
■2皿目:ブリオッシュとキャビアと牡蠣
2皿目は、とても薄いカリカリのブリオッシュのような、バターの効いたトーストの上にキャビアを敷いて、下にはミルキーな牡蠣が入れられたお料理。トッピングは、ドバイを意識した「金箔」。三つの食感が違うものが競演する前菜です。キャビアと牡蠣とトースト、別々に味わっても美味なのに、同時にいただく贅沢。舌が歓喜に震えています。
■3皿目:ラングスティーヌ(手長海老)とジロール茸
日本ではフレンチの秋の味覚として楽しまれることが増えてきた「ジロール茸(あんず茸)」と、手長海老が組み合わせれた一皿。泡雪のようなムースのようなマイルドなソースが、やわらかくラングスティーヌのプリッとした身を優しく包み込む、上品な味の一品です。かすかに甘酸っぱい杏の香りが口の中に広がります。シェフはきっと、インタビューで話されていた「杏」の入ったバターを使ったに違いありません。
■4皿目:マカロニとフォアグラのペリグーソースがけ
「ペリグーソース」とは、マディーラソースにペリゴール名産のトリュフを加えた、香り高いソースのこと。ペリゴールはフランスの南にある地方で、フォアグラの産地としても有名です。暖かいフォアグラが口の中でトリュフの芳香と交わる喜び。気絶しそうなおいしさでした。
そこにシェフ・ヤニック氏が現れ、特別にすばらしい2005年ものの赤のボルドーワインを開けてくださいました。フォアグラに、極上の赤ワイン! 幸せすぎます。ソムリエはソルテーヌを薦めましたが、私は何と言っても赤ワイン! シェフは「料理でエクスタシィを感じる事ができる」とおっしゃっておられました。さすがフランス人!
■5皿目:和牛のストロガノフ風
脂身の少ない薄切りの和牛が、クリスピーな野菜の上に載せられた一皿。シェフはとても「口に入れたときの食感」を意識しているのだなあと感じられる仕上がり。濃厚なフォアグラのあとですから、あまり霜の降っていない、赤身部分の多い和牛でよかった! イタリアンやフレンチのフルコースで「途中でもうお腹いっぱい」になる日本人女性は非常に多いと思いますが、私も同じです。この辺で「もう助けて〜」というくらい、お腹がいっぱいになっていました。
■デザート:チョコレートとアーティチョークのソルベ
そしてデザートのクランチィチョコレートリーフは、アーティーチョークのソルベの上に載っての登場。
甘さを抑えたサクサクのチョコレートが美味しい。濃いのに甘すぎない。でももうお腹いっぱい、苦しい〜でも幸せ。幸せな苦しさ? これぞシェフのおっしゃるエクスタシィ??
とにかくすべてのお料理が繊細で見て美しく、いただいておいしく、それぞれのお皿が主役を演じられるくらい、甲乙つけがたい素晴らしさでした。そしてソースはもちろん、食感もとても大切にしていると感じました。とろける感じにクリスピーさを合わせたり。温かいものに冷たいもの、塩辛さに甘さをという具合です。
そして、このコースを通じて、シェフ・ヤニック氏のお料理のコンセプトが理解できたような気がします。
20世紀に入り、バーネーズソースが創られた後、20世紀後半がソースの暗黒時代だったとしたら、アレノ氏は21世紀に忽然と現れた「ソースの救世主」かもしれません。おいしくてヘルシーなソースを、真空パックを使ってにじみ出た旨味を取り出す「エクストラクション」という、まったく新しい手法で創り出し、今フランスで最も輝いているシェフ、ヤニック・アレノ氏。これからも未知の領域を切り開いて行ってくれることでしょう。
また、世界各国のお料理の発展についても造詣が深く、人間がさまざまな方法で食材を貯蔵しようと試みるなかで、いろいろな発見があり、食が発展の一途を辿ったこと。醤油の素になるものはローマ人が最初つくり、アイスクリームは中国人が発明し、それがアラブの国を通過した際に、ソルベになった。フィレンツェのメディチ家のバックアップのおかげで、イタリアでの食文化は開花した。中国やロシアにおいては、共産党、独裁政治が食文化の発展を妨げたなど、目から鱗のエピソードも、料理と料理の間にいらっしゃって、お話くださいました。
料理の腕だけでなく、大変な博識家でもあるのです。この先「食の産業化が今まで以上に進み、公害が進んで50年後に果たして今と同じ食材が手に入るだろうか?」と憂いてもいらっしゃいました。
一時間のインタビューの中で最も登場回数が多かったフランス語は「Sublime」。「素晴らしい。輝く」を意味する言葉です。この言葉を貴方にも捧げたい。Sublime Yannick!
ここドバイで世界トップクラスのシェフの料理をいただき、その裏にある心温まるお話を伺えたことに感謝しつつ、夜はふけていきました。
ドバイのレストラン「STAY」にアレノ氏が次にいらっしゃるのは今秋、2018年10月頃だそうです。「One&Only The Palm」に宿泊し、「STAY」でシェフ・ヤニック氏がつくった特別メニューを、ご興味を持っていただいた美食家の方には是非、体験していただきたいです!
ちなみに「STAY」がある「One&Only The Palm」と海を挟んで向かいにある姉妹リゾート「One&Only Royal Mirage」には、ボートで行き来することができ、宿泊者はどちらの施設も使うことができます。一粒で二度おいしいホテルなのです。
この魅力に満ちあふれたふたつのホテルについては、次回ご紹介したいと思います。乞うご期待!
問い合わせ先
- TEXT :
- de Suyrot辛島慶子さん ドバイ在住マダム