2017年の秋は、「国宝」という言葉を目にする機会が一気に増える季節になりそうです。

というのも、芸術の秋の9月〜10月に、京都と東京で「国宝」にまつわるふたつの大きな展覧会が開催されるから。

約200点に及ぶ国宝が、41年ぶりに京都で一堂に会する大展覧会「特別展覧会『国宝』」と、鎌倉時代の天才仏師・運慶とその一派の仏像が東京に集合する「興福寺中金堂再建記念特別展『運慶』」がそれです。

国宝とは、「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)を指します。もちろん京都や東京だけでなく、全国各地に点在し、観光地として脚光を浴びるのはもちろん、その地に生きる人の誇りになっていたり、コミュニティスペースとして機能していたりします。

そんな国宝を「観て回るためだけにつくられたトラベルポーチがある」との奇妙な噂を、Precious.jp編集部はキャッチ。9月5日から1年かけて発行されるウィークリーブック『週刊 ニッポンの国宝100』の、創刊号の付録に付いてくる「国宝の旅 トラベルケース」がそれです。国宝専用ポーチ??? どんなものか、想像もつきません。ちょうど姫路観光に出かけようと思っていた矢先だった筆者、発売前の「国宝ケース」を小学館社内よりこっそり拝借し、新幹線に乗って出かけてみました。

■「国宝を見る専用ポーチ」を片手に、いざ姫路へ

向かった先は、兵庫県姫路市。目標は「白鷺城(しらさぎじょう)」こと姫路城と、「西の法隆寺」ともよばれる鶴林寺(かくりんじ)です。

東京発、姫路着の「のぞみ」号に乗ること約3時間。国宝ポーチを持って姫路駅に降り立ちました。鳥獣戯画図の猿が「はよ行こ、はよ」と言っているかのよう
ポーチの中にはiPhoneや新幹線のチケットなど、車内で過ごすときに使うものだけを入れておくと、座席に忘れ物をせず便利

まずは荷物を預けるコインロッカーへ。姫路駅の新幹線は、出入り口を出たところすぐにコインロッカーがありました。これはありがたい。

お守り、ミントタブレット、iPhoneと充電器、ロッカーのカギ。電子マネー対応のクレジットカードをカードホルダーに入れました

観光の妨げになる着替えなどの重い荷物はロッカーに入れ、国宝ポーチに観光に必要と思われるものだけを凝縮して入れます。なくすと致命的なロッカーのカギを、ファスナー仕立てのポケットに入れておけるのは本当に便利(見慣れない鍵をバッグの中に入れると、迷子になりがちですよね…)。地図を観たり写真を撮るため、すぐに電池がなくなることが想定されるスマートフォン用の充電器も、スリット内に入れておくことができました。

というわけで小型のショルダーバッグに国宝ポーチを入れ、いざ身軽に姫路城へ。

■国宝巡り1:白鷺城

姫路駅から観ると、Xの中央点に堂々と位置する姫路城

姫路駅の中央出口に「姫路城」と大きく書いてあるので、駅から出るのはあまり迷いません。駅の外に出ると、碁盤目状の広い道(大手前通り)の先に、真っ白に輝く姫路城を見ることができます。なんとも心踊る瞬間!(なんだかどんよりと雨が降っている気がしますが…それでも白く見える姫路城はすごい!)

2015年に完了した「平成の修理」で往年の真っ白な姿を取り戻し、地元の人には「白すぎ城」という愛称で親しまれているという白鷺城。

駅からは姫路城方向に頻繁にバスも出ているので、あまり迷わず到着することができます。JR姫路駅からは大人の足で歩いて15分から20分程度、長い商店街(みゆき通り商店街)をぶらぶら歩いて、地元グルメを散策しながら向かうこともできます。筆者は行きはバスで姫路城入り口まで、帰りは上にアーケードがあり雨を避けられるみゆき通りを散策して駅まで戻りました。

城郭一帯は水を湛えた内堀で周囲を囲まれていて、水面の揺らめきを観ているだけでも癒されます

歴史を紐解くと、西暦1600年の「関ヶ原の戦い」の後に、徳川派の武将・池田輝政がこの城に入り、大改修を実施。西国の大名に睨みを効かせるため、機能面でもルックスでもそれにふさわしい城郭となったそう。結局、江戸時代から明治維新を通じて武士同士の戦場になったことは一度もなく、400年の時を経て、ほぼ当時のままの城郭が保存されています。

国宝指定されている五重の大天守は、三重の小天守3つ(これも国宝)と連結して連立し、天守閣を形成しています。

カメラの上に葉っぱを入れて撮影すると、絵葉書風に

国宝だけでなく、日本で初めて「世界遺産」に登録されたことでも知られる姫路城。国内に現存する城のうち、国宝に指定されているのは5つですが、その中で世界遺産にも登録されているのは、現段階では姫路城のみ。まさに「日本の代表的な城中の城」と言えます。

城内には人形が飾られていたりして、当時の風俗がわかりやすい。千姫もこう遊んでいたのでしょうか?

周辺施設もかなり充実した巨大な城郭なため、すべてを見学することはできませんが、内部のかなりの部分をみることができます。見学にかかった時間はだいたい2時間くらい。事前に「姫路城大発見アプリ」をスマートフォンにダウンロードしておいたのですが、主要施設でAR(拡張現実)技術を用いた解説を見ることができ、わかりやすかったです。

櫓には気持ちいい風が吹き抜けます

先日も俳優の鈴木亮平さんがテレビ番組のロケで訪れ、歴史マニアらしく多数設えられた櫓(やぐら)や門の解説を嬉々としてされていましたが、「い」の門、「ろ」の門、「は」の門と「いろはにほへとちりぬるを」から取られた門や櫓(やぐら)があり、天守閣の周りをぐるりと周っています。時としてとても狭い通路があったり、城攻めの際に石や油を落とすためにつくった「石落とし」という穴がそこいらに観られたりと、世界遺産への選定理由とされた「防御に工夫した日本独自の城郭の構造を最もよく示した城であること」をたっぷりと堪能することができました。

通路の合間からも天守閣が見える。美しい

写真撮影のベストポジションは「備前丸」

備前丸から撮った天守閣。ここがベストポジション

ちなみに天守閣の写真は「備前丸」と呼ばれる、かつて池田輝政の屋敷があった更地(明治期に焼失)からが撮りやすいそう。筆者も撮ってみましたが、正面感バッチリで撮影することができました。(空の絶望的な暗さが気になります…)

多層になった天守閣

外国人観光客も非常に多く集まっており、その人気の高さがうかがえます。荒天が少ない秋は、白鷺城の白さ堪能する旅をするのにまたとない機会。人気の大天守は混雑しているので、外だけ楽しみたいという人は無理せず、通路や広場を歩いて散策するのも大人の楽しみ方です。

【姫路城の年間混雑予想スケジュール】
【姫路城のよくある質問集(整理券の配布など)】
姫路城ホームページ

また、別の楽しみ方として「夜、タクシーでお城の周辺をぐるっと回ってもらうと、ライトアップされた白の妖艶な色気を堪能することができるよ」と、地元のお店の方に教えていただきました。

夜になるとライトアップされる

そう、夜になると楽しみなのが、姫路の美食です。穴子寿司などの穴子料理が有名ですが、この日いただいたのは「明石たこ」。見てください、この艶めき! 朝、市場で仕入れたたこをさばいてくれたそうで、ほかにもたこの天ぷらやたこしゃぶをいただき、大満足で眠りに就きました。

明石たこのお造り。口にすると、まだ吸盤が生きていてびっくり

■国宝巡り2:鶴林寺

前日とうって変わって夏晴れの翌日、JRの新快速に乗り、1駅隣の「加古川駅」へ。姫路城と同時に日本初の世界遺産に認定された法隆寺と同様、聖徳太子にゆかりがあるといわれる鶴林寺(かくりんじ)に参拝するためです。

JR加古川駅
加古川駅のバスターミナル

かの聖徳太子が建立に関わったとされ、「播磨の法隆寺」「兵庫の法隆寺」とも呼ばれており、国宝に認定された建築物がふたつもあるというお寺です。

駅を降りたら、ロータリーのバス停へ。鶴林寺まではバス(かこバス)かタクシーが便利。

3番バス乗り場から、別府東町・東洋文化センター行きの「かこバス」に乗ります

バスで約8分ほどで、鶴林寺に到着。見事な門構えと、美しい松の木たち。

鶴林寺正面入り口
鶴林寺の入り口には黒田官兵衛の奥方、光に関する説明が

…ここで「国宝ポーチ」の使い勝手を説明することをすっかり忘れていたことを思い出し、慌てて撮影。白鷺城では写真撮影や解説を読むのに忙しく、それどころではなかった!(ARやっていると電池がみるみる減るので、国宝ポーチに入れていた充電器は非常に役立ちました)

鶴林寺前で慌てて撮影

入り口で拝観料を支払います。入山料に500円、新宝物館の拝観料が500円。セットで購入すると800円になるとのこと、迷わずセットで購入。パンフレットと、宝物館の入館券を受け取ります。

チケットがこのように収められるので便利

ここでやっと、国宝ポーチの出番です。「中の施設で使う2枚目のチケット」を失くさないよう、収めておくことにします。このような拝観用のチケット、数枚であればお財布に入れておけばよいのですが、旅を重ねていくとか量も増え、かさばりますよね。財布やチケット、ミニ地図などをまとめて入れておけるポーチがあると、確実にアクセス性が上がり、時短にもなります。何より「バッグの中で、あれはどこに行った!?」ということがなくなるのが本当にうれしい。

入り口に入ると、沙羅双樹や菩提樹の木がお出迎え。そこをくぐり抜けると、見えてくるのは大きなお堂です。あれが国宝!

鶴林寺 本堂

鶴林寺 本堂、1397年建立

中国から伝わった唐様と天竺様という建築様式が、日本の建築様式(和様)と折衷してできあがった「折衷様式」の代表的な建物といわれています。中に入ると、ロウソクの灯火で照らされた厳粛な雰囲気に、心が穏やかになってゆくのを感じます。筆者が拝観した時は人も少なく、堂内のベンチに腰掛け、ゆっくりすることができました。中央には60年に1回だけ開帳される秘仏(本尊の薬師如来、日光菩薩、月光菩薩など)が5体祀られていていて、うかがい知ることはできません。次のご開帳は2057年。約40年後…!

ちなみに境内の別の建物(新薬師堂)にて、本尊の薬師如来の模写にお参りすることができます。

鶴林寺 太子堂

続いては、もうひとつの国宝、太子堂。本堂の右隣に位置しています。

鶴林寺 太子堂、1112年建立

兵庫県で最も古い建築物である太子堂。焦げ茶色の桧皮葺き(ひわだぶき)の美しい屋根の上には宝珠が載せられていて、内側には見事な釈迦の涅槃図などの壁画がびっしりと描かれているそう。

太子堂の屋根の反り返ったカーヴがユニーク

現在はススに覆われてしまっているそれらの壁画を再現したきらびやかな壁画は、宝物殿で見ることができます。釈迦の涅槃図など何面もある壁画の再現図はどれも色鮮やかで、鳥や菩提樹の表現も生き生きとしていて、非常に心浮き立つものになっていました。太子堂自体は、そのミニマルで凝縮された雰囲気が美しく、どこから撮っても絵になります。

室町時代に建立された三重塔は朱が色鮮やか
沙羅双樹や葦などが美しく生え誇る境内は広々としていて、過去にタイムスリップしたかのよう

というわけでふたつの国宝目当てで「播磨の法隆寺」にやってきたわけですが…筆者が魅了されたのは、この鶴林寺の境内の雰囲気そのものでした。約1200年の歴史のなかで、戦国大名による弾圧や江戸時代の宗教政策などにもめげず残ってきた境内は、過度に観光地化されることもなく、昔のお寺の雰囲気そのものが伝わってきます。

広い境内は仕切りもなく、現代的な標識や電線などもほぼ見えず、建物と建物の間の砂利の空間を歩いていると、不思議と現実感がなくなってきます。沙羅双樹や菩提樹、葦、蓮など仏教ゆかりの緑にも恵まれ、素朴で、清々としていて、ゆっくり散策ができる。お寺の昔の雰囲気をそのままに楽しめる印象です。

ここは桃源郷?

気を取り直して、ここだけ現代的な新しい建築物である宝物館へ。盗人がお寺より盗み出したけれど、「あいたた」という声を発したことで無事にお寺に戻ることになったというエピソードで有名になった「あいたたの観音さま」が(2度と盗難されないように)安置されているそう。

いざ宝物殿へ
先ほどポーチに入れたチケットがここで役立つ

宝物館の中は太子堂内の壁画の再現図や、「あいたた観音」こと聖観音立像や釈迦三尊像、十一面観音等の彫像、聖徳太子絵伝など、この寺が継承してきた重要文化財を一堂に観ることができました。冷房も効いていて、ゆっくり鑑賞することができました(所要時間は20分ほど、撮影禁止)。

鑑賞後はバスで加古川駅に戻り、再びJR新快速で姫路駅へ。所用を済ませ、姫路から新幹線に飛び乗ります。

姫路駅に立ち寄り、白鷺城にさよなら。晴れた姿をようやくみられた

光り輝き多くの人を集める白鷺城と、過去へとタイムスリップできる素朴な鶴林寺。兵庫県のふたつの国宝は、いずれも過去と今が繋がっていることを体感できる場所でした。

帰りの電車の中で思い出を振り返る

帰りの新幹線では国宝ポーチを整理。宝物館や美術館などでは、次の展示の優待割引券などが配布されていることが多いですよね。それもいただいておき、カードケースに入れておくと、次に展覧会や旅に出るときに「あ、割引券を忘れた」ということもなくなるため、そういう意味でも便利なポーチだということがわかりました。

さて、このポーチを持って、次はどこを旅しよう!?(その前に上司の机にこっそり返しておかなくては!)

ちなみにこの国宝ポーチは『週刊 ニッポンの国宝100』の創刊号の付録として付いてきます。今回ご紹介した「姫路城」は第6号(10月24日発売)に掲載されます。

 

週刊 ニッポンの国宝100
Vol.1 阿修羅/風神雷神図屏風 500円(税込) 好評発売中
「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国の宝たるもの」=国宝を、大胆な切り口で取り上げ、国宝を崇めるのではなく、身近に感じられるよう編集をした、ウィークリーブック。国宝1108件のなかからとくに意義の深い100点を選び、毎号2点つずスポットを当て、その魅力を分析します。創刊号には本記事で活用した「国宝の旅 トラベルケース」が付録として同梱。
ニッポンの国宝100公式ページ
参考文献『これだけは知っておきたい国宝・重文の名城』(小学館)
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
渡邉恒一郎