数々の名士やダンディな男たちを魅了してきた、イタリア最高峰のサルトリアは、間違いなく「A.カラチェニ」である。ドメニコ・カラチェニ、アウグスト、マリオ、そしてカルロと受け継ぐ「A.カラチェニ」は、ミラノの中心地、ファーテベーネフラテッリ通りにオーダーサロンとアトリエを構える。
イタリア随一を誇る名門直系の奥義を堪能する
鋏をデザインした「A.CARACENI」のプレートを飾ったドアを開け、店内に入ると、まず夥おびただしい種類の生地に驚く。特に、グレーとネイビーの生地は、微妙に違うトーンや柄を大量にそろえる。それを見るだけでも、紳士が選ぶべきスーツの到達点を「A.カラチェニ」は、暗示しているかのようだ。
現在、「A.カラチェニ」のヘッドカッター兼経営者を務めるのが、カルロ・アンドレアッキオさん。伝統のカラチェニ・スタイルの本質を聞いた。
「快適さとエレガンスを備えているのが、カラチェニの服です。快適さは、体にフィットしていても動きやすい仕立て。エレガンスとは、前からも後ろからも、ラインがすっきり見えることです」
それを具現化するのが、「A.カラチェニ」の仕立て技術である。快適さをもたらすのは、基本的だが重要な脇の下にほどよくフィットするアームホール。腕を上げても、前身頃が引っ張られず、胸ポケット周辺の形もくずれない。一方、エレガンスを支える技のひとつは、ラペルの美しさだ。適度に張りのあるラペルは、胸に自然なボリュームを与え、美しいラインを形成する。アンドレアッキオさんがまだ若かった頃、義理の祖父にあたるアウグストから、「スーツを着てフェンシングもできる。それが『カラチェニ』のスーツだ」と、教えられたそうだ。
「A.カラチェニ」のスーツは、スマートで気品の漂う紳士のスタイル。南イタリアの名門サルトリアに比べれば、かっちりとした印象はあるが、決して、サヴィル・ロウの老舗のように、芯地を盛り込んではいない。つまり、国際的な舞台でひときわ映える、ツヤのあるスーツが「A.カラチェニ」の神髄である。
「コンケーブした肩のラインに強烈な色気があります」
ユナイテッドアローズクリエイティブアドバイザーの鴨志田康人さんが、2003年につくったもの。生地はオーダーする以前から決めていた、グレーフランネルのチョークストライプ。店内の棚から、ヴィンテージを選んだ。好みのワイドラペルやコンケーブした肩のラインに、ほかの仕立て服にはない、強烈な色気を感じるという。サイドアジャスターのベルトレスパンツも、カラチェニ・スタイル。唯一、パンツのシルエットが太くならないように注文したそうだ。
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- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2020年春号より
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- PHOTO :
- 仁木岳彦(取材)、唐澤光也(RED POINT/静物)
- WRITING :
- 矢部克已(UFFIZI MEDIA)