数々の名士やダンディな男たちを魅了してきた、イタリア最高峰のサルトリアは、間違いなく「A.カラチェニ」である。ドメニコ・カラチェニ、アウグスト、マリオ、そしてカルロと受け継ぐ「A.カラチェニ」は、ミラノの中心地、ファーテベーネフラテッリ通りにオーダーサロンとアトリエを構える。

イタリア随一を誇る名門直系の奥義を堪能する

「A.カラチェニ」住所/Via Fatebene fratelli,16Milano TEL/+39・02・6551972
「A.カラチェニ」住所/Via Fatebene fratelli,16Milano TEL/+39-02-6551972

鋏をデザインした「A.CARACENI」のプレートを飾ったドアを開け、店内に入ると、まず夥おびただしい種類の生地に驚く。特に、グレーとネイビーの生地は、微妙に違うトーンや柄を大量にそろえる。それを見るだけでも、紳士が選ぶべきスーツの到達点を「A.カラチェニ」は、暗示しているかのようだ。

玄関ドアの「A.カラチェニ」のプレート。
玄関ドアの「A.カラチェニ」のプレート。

現在、「A.カラチェニ」のヘッドカッター兼経営者を務めるのが、カルロ・アンドレアッキオさん。伝統のカラチェニ・スタイルの本質を聞いた。

「快適さとエレガンスを備えているのが、カラチェニの服です。快適さは、体にフィットしていても動きやすい仕立て。エレガンスとは、前からも後ろからも、ラインがすっきり見えることです」

それを具現化するのが、「A.カラチェニ」の仕立て技術である。快適さをもたらすのは、基本的だが重要な脇の下にほどよくフィットするアームホール。腕を上げても、前身頃が引っ張られず、胸ポケット周辺の形もくずれない。一方、エレガンスを支える技のひとつは、ラペルの美しさだ。適度に張りのあるラペルは、胸に自然なボリュームを与え、美しいラインを形成する。アンドレアッキオさんがまだ若かった頃、義理の祖父にあたるアウグストから、「スーツを着てフェンシングもできる。それが『カラチェニ』のスーツだ」と、教えられたそうだ。

裏地はシルクを使う。シルクの光沢感によって、スーツ全体が洗練された風合いになる。天然素材ならではの、快適さを大切にする。
裏地はシルクを使う。シルクの光沢感によって、スーツ全体が洗練された風合いになる。天然素材ならではの、快適さを大切にする。
イタリアでは「ハ刺し」のことをトラプンタータと呼ぶ。裏側の生地にわずかに針目を通し、芯地にハの字の縫製を繰り返す。適度なアーチをつくる美しい形状の張り具合。ラペルの剣先でも「ハ刺し」のでき具合を見極めるそうだ。
イタリアでは「ハ刺し」のことをトラプンタータと呼ぶ。裏側の生地にわずかに針目を通し、芯地にハの字の縫製を繰り返す。適度なアーチをつくる美しい形状の張り具合。ラペルの剣先でも「ハ刺し」のでき具合を見極めるそうだ。

「A.カラチェニ」のスーツは、スマートで気品の漂う紳士のスタイル。南イタリアの名門サルトリアに比べれば、かっちりとした印象はあるが、決して、サヴィル・ロウの老舗のように、芯地を盛り込んではいない。つまり、国際的な舞台でひときわ映える、ツヤのあるスーツが「A.カラチェニ」の神髄である。

仮縫いでバランスのいいボタン位置を決定。もちろん、ボタン付けは手縫いだ。
仮縫いでバランスのいいボタン位置を決定。もちろん、ボタン付けは手縫いだ。
生地の質感に影響が出るため、アイロンがけは、一切霧吹きを使わない。生地の癖取りやならす箇所については、軽く水分を含ませた布地を当て、アイロンをかける。男性の職人は5 ㎏、女性職人は3 ㎏のアイロンを使い、十分に当てる。
生地の質感に影響が出るため、アイロンがけは、一切霧吹きを使わない。生地の癖取りやならす箇所については、軽く水分を含ませた布地を当て、アイロンをかける。男性の職人は5kg、女性職人は3kgのアイロンを使い、十分に当てる。

「コンケーブした肩のラインに強烈な色気があります」

鴨志田康人さんの「A.カラチェニ」で仕立てたダブルスーツ
鴨志田康人さんの「A.カラチェニ」で仕立てたダブルスーツ

ユナイテッドアローズクリエイティブアドバイザーの鴨志田康人さんが、2003年につくったもの。生地はオーダーする以前から決めていた、グレーフランネルのチョークストライプ。店内の棚から、ヴィンテージを選んだ。好みのワイドラペルやコンケーブした肩のラインに、ほかの仕立て服にはない、強烈な色気を感じるという。サイドアジャスターのベルトレスパンツも、カラチェニ・スタイル。唯一、パンツのシルエットが太くならないように注文したそうだ。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2020年春号より
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PHOTO :
仁木岳彦(取材)、唐澤光也(RED POINT/静物)
WRITING :
矢部克已(UFFIZI MEDIA)