出合いは約30年前。ダブル浅野が活躍していて、トラッドを上品に崩したスタイルがちょっとしたブームだったころ…。当時はパリでしか購入できなかった“ジェイエムウエストン”を、黒とキャメル、ほぼ同時期に購入しました。
途中、靴箱で眠っていた時期もあるけれど、どちらの靴も、ほぼ 月一くらいの割合いで、今でも大切に履き続けています。キャメル色は、購入した当初はもっと明るいブラウンでしたが、ほら、今では深いアメ色に深まって、いい味出しているでしょう。
ローファーは、J.M.WESTON以外にもいくつか持っているのですが、愛着があるのはやっぱりこの2足。だって、苦労して自分の足になじませてきたのですから!
かつてはひざ下のツイードスカート×リブタイツ、グレーのフラノパンツ×アーガイルソックス…といろいろなトラッドアイテムを履いていましたが、ここ数年はもっぱらデニムオンリー。“ジェイエムウエストン”はメンズ仕様で、がっしりとしているから、真面目なトラッドスタイルだと、今の気分じゃちょっと堅すぎる。
一方、デニムを履いたとき、スニーカーでは安っぽい、パンプスでは水っぽい! だから、デニム×素足×J.M.WESTONといった抜け具合が、今の私にはちょうどいいのです。
そして30年前、パリの本店でかなり背伸びをしてJ.M.WESTONのローファーを購入したときのお話に戻ります。
ベテランのシューフィッターにていねいに足を計測され、勧められたものは、かなりきつめのサイズでした。
「本当に大丈夫なのか?」とシューフィッターに何度も尋ね、その度に彼はかたくなに「革は伸びるから、このくらいがベストだ」と答え、渋々納得。でも…、私の足になじむまでに、ほぼ1年はかかったでしょうか?
履くたびに、かかとが擦れて豆ができ、親指と小指を両サイドからギリギリと圧迫され、それでも我慢して履き続ける……。そうやって、徐々に“足のほうを靴に慣らして”いきました。
後日、パリ在住の友人の話によると、ヨーロッパの人はきつめのフィット感を好むとか。きつめがパリ好みなのか、頑固なシューフィッターのせいなのか、今や謎なのですが…。
初めはソックスやタイツを合わせていましたが、30年経った今では、素足でそのまま履いても豆もできず、私の足と一体化しています。フォルムもご覧のとおり型崩れもせず美しさをキープしています。
今でもJ.M.WESTONを現役で履き続けるために私がしてきたことは、シューツリーに必ず入れること。たまに専用(J.M.WESTON)のクリームを刷り込むこと。そして、毎日続けて履かずに、休息時間を入れることでしょうか。
また、過去に2度ほど、表参道にあるJ.M.WESTONのショップに持参し、かかとの減りをはじめ、トウや内側の擦れたところなど、本国に送って修理をしてもらったことがあります。そのたびに、新品のようになって帰ってきたのはもちろんのことです。
しっかりした老舗のブランドは、メンテナンスも完璧なのがうれしいですね。時が経つにつれてさらにいとおしくなる“ジェイエムウエストン”のローファーは、これからも私の宝モノです。
- TEXT :
- 喜多容子 Preciousエディトリアルディレクター