東京都の文京区で暮らしているレイカさん(39歳)とヒデオミさん(42歳)夫婦には、長女のナナちゃん(9歳・小3)、次女のアミちゃん(6歳・年長)という2人の娘がいます。
結婚当初は共働きで、レイカさんも自動車メーカーのOLをしていましたが、ナナちゃんの出産を機に退職。子どもたちの手が離れるまでは仕事はせず、当分は主婦業に専念する予定です。というのも、レイカさんは、2人の娘を自分と同じ中高一貫の私立に通わせたいという夢があるからです。
「私自身、大学付属の中高一貫の私立に通って、そのままエスカレーター式で大学まで行きました。中学、高校という多感な時期に、大学受験のことを気にしないで、部活や趣味など好きなことができたのは有意義な時間でした。子どもは、ふたりとも女の子なので、私と同じように中学から私立に通わせたいと思っているんです」(レイカさん)
とはいえレイカさんが中学受験をした頃とは、随分と事情も変わっており、最近は受験の準備がかなり前倒しされるようになっています。中学受験までにかかる塾の費用も変わってきているだけではなく、中学から私立に通うとなると、授業料も公立のそれとは大幅に負担がアップします。
大手金融機関に勤めているヒデオミさんの手取り年収は約1300万円。収入に余裕はあるほうですが、住宅ローンや子どもたちの習い事の費用、日々の生活費や被服費などを支払っていくと、今のところほとんどお金が残りません。そのため、レイカさんは、子どもたちの教育費をどのように捻出すればいいか悩んでいます。
そこで今回は、レイカさん一家のケースをもとに、現在の「子どもの教育費」の事情をさぐっていきます。まず、前編では、私立に行った場合の学校教育費や塾の費用など、「かかるお金」について見ていきましょう。
中学受験のための塾の費用は「3年間で最低でも200万円」
私立中学の入学試験では、小学校では教わらない鶴亀算などの問題が当たり前のように出題されます。そのため、学校の成績がよくても、受験に合格するのは難しく、子どもが私立中学を受験する場合はなんらかの準備が必要になります。まれに親御さん自身が子どもに勉強を教えているケースもありますが、多くは進学塾に通って受験対策をしています。
中学受験の準備は年々早まっており、現在、進学塾の授業は小学校3年生の2月からスタートします。そのための入塾テストが10月~1月にかけて行われるため、小3の10月~12月頃から、中学受験に向けた準備が始まるのです。計算塾などでは、この入塾テストに照準をあてた教材達成目標が設けられるほどになっています。
「『教育費をどうしようかな』と思ったときに読む本」の著者で、ファイナンシャル・プランナーの竹下さくらさんは、「中学受験のための塾の費用は、最低でも3年間で200万円程度は見積もっておく必要がある」といいます。
小4の1年間は週2回の授業で約40万円、小5になると授業は週3回になり、費用は60万円程度になるのが一般的です。そして、小6になると週3~4回の授業に加えて、ゴールデンウィークや夏休み、お正月休みの特訓クラスなどもあるため、1年で100万円程度かかります。塾の費用だけでも、3年間で合計200万円程度になるのです。
「小4の塾の費用は年間40万円程度なので、お稽古事を見直せば捻出可能な金額です。ただ、学年が進むにつれて、費用も増えていきます。さらに、進学塾の授業についていくために、補講塾に行ったり、家庭教師をつけたりすると、その費用も追加されます。また、塾までの交通費、食事代などがかかるケースもあります。3年間で200万円というのは最低でもかかるお金で、プラスアルファの費用がかかる可能性があることも覚えておきましょう」(竹下さん)
受験勉強を続け、小6の2月になるといよいよ、入学試験の本番がやってきます。受験費用は1校あたり2万~3万円。でも、受験するのが1校だけということはまずありません。滑止めも含めて4~5校受けるのが一般的です。合計10万~15万円程度となるため、心づもりをしておく必要があります。
オール公立で804万円、オール私立で2314万円
さて、受験に合格すると、晴れて入学となりますが、授業料を含めた学習費(塾の費用なども含む)はどのくらいかかるのでしょうか。次の表は、幼稚園から大学までの教育費の平均を、公立、私立ごとに比較したものです。
幼稚園から大学までの子どもの教育費の目安
このように、公立と私立では教育費に大きな差が出ています。
レイカさんのように、子どもを中学から私立に行かせる場合、小学校までは年間約32.2万円。月平均にすると2.7万円なので、日々の生活費のなかから捻出できる金額です。ただし、中学受験するためには、前述のように塾の費用が3年で200万円程度かかります。
そして、私立中学に進むと、年間教育費は約132.7万円に。3年間で398万円が平均です。これには授業料のほか、学校納付金(入学金など)、通学のための交通費、修学旅行や遠足の費用、教材費なども含まれています、教育費負担は一気に跳ね上がります。
高校は中学校比べると若干低くなるものの、年間約104万円。3年間の合計は約311万円です。
大学は、国公立なら学部にかかわらず一定の授業料ですが、私立は進学する学部によってかなりの差が出ます。文系は4年間で約500万~600万円、理系は4年間で800万円程度、医学部は6年間で2000万~5000万円。多くの人が進学する文系でも、年間100万~150万円程度の教育費がかかります。
私立の教育費は小6から大学卒業まで、毎年100万~150万円が必要
「教育費の実態を見ていくと、中学から私立に通うためには、塾の費用も含めて小学校6年生から大学(文系)卒業までの11年間、子どもひとりにつき年間100万~150万円必要になることがわかります。この金額を毎年の年収から捻出できる見込みがあれば、特に貯蓄しなくても対応できます。難しそうなら、子どもが小さなうちから教育費の準備が必要です」(竹下さん)
とくに、レイカさんには「2人の娘を中学から私立に通わせたい」という希望があるため、ナナちゃんとアミちゃんの教育費が必要な時期が重なる8年間は、2人分の200万~300万円かかることになります。
ヒデオミさんの手取り年収は約1300万円。この金額だけみれば、毎年の収入から十分に教育費は支払えそうですが、冒頭のレイカさんの告白の通り、現状でも必要な支払いをしていくと、毎月の収入はほとんど残っていません。
「お金が足りないからといって、銀行などの教育ローンを借りると、夫婦の老後資金にしわ寄せがいく可能性もあります。レイカさん夫婦は、年収は高いのに貯蓄ができない「膨張家計」。支出を見直すことで、娘さん2人の私立の教育費を捻出することを第一に考えてみましょう」(竹下さん)
家計の見直しのほか、子どもの教育費を捻出するためには、国や自治体の助成制度をもらったり、奨学金を受けたりする方法もあります。また、教育資金目的なら、祖父母から非課税で贈与を受けられる制度もあります。
ただし、助成制度を利用するには年収制限があり、贈与を受けるためには一定のルールもあります。後編では、こうした国や自治体の制度を上手に使って、教育資金を作るための工夫について、引き続き竹下さんにアドバイスしていただきます。
【中編】「子供の教育費」こう貯める&こう作ればうまくいく!コツ5選
『教育費をどうしようかな』と思ったときにまず読む本
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- 早川幸子さん フリーランスライター