【ケーススタディ】レイカさん(39歳・専業主婦)の夢は、長女のナナちゃん(9歳・小3)、次女のアミちゃん(6歳・年長)のふたりを、自分と同じ中高一貫の私立に通わせること。とはいえ、中学から子どもふたりを私立に通わせるとなると、塾の費用や学校の授業料など、「公立に通えばかからないお金」が必要になります。そこで前回の記事ではまず、「中学から私立に通うためにかかるお金」を確認しました。

【前回記事:今さら聞けない「子どもの教育費」、私立と公立では約3倍も差が】

ふたりの子どもを中学校から私立に入れると、大学卒業までの学費は約3400万円!

子どもの教育費の作り方、国の助成金や奨学金の上手な使い方とは?

現在、中学受験のための進学塾は、小学校3年生の2月からスタートします。長女のナナちゃんはそろそろ入塾テストの準備をしなければならず、中学受験までの3年間の塾の費用は、最低でも200万円かかるのが一般的です。

晴れて合格したあかつきには、授業料や入学金のほか、課外授業の費用、交通費などで年間150万円程度のお金が、大学(文系学部の場合)卒業までの10年間、毎年かかるようになります。200万+150万×10=1700万円。

レイカさんは、次女のアミちゃんも同じように中学から私立に通わせたいと思っているため、その倍のお金(約3400万円)が必要です。

夫のヒデオミさん(42歳)は大手金融機関勤務で、手取り年収は約1300万円。収入に余裕はあるはずなのですが、住宅ローンや子どもたちの習い事の費用、日々の生活費や被服費などを支払っていくと、今のところほとんどお金が残りません。

そこで、今回は子どもの教育費のつくり方、国の助成金や奨学金の上手な使い方について、ファイナンシャル・プランナーの竹下さくらさんにアドバイスしていただきます。

少子化対策の一環として、国の教育支援は充実方向に

経済協力開発機構(OECD)が、加盟国の教育の状況について継続的に行っている調査報告書「図表でみる教育:OECDインディケーター(※)」では、日本は学校授業料が高く設定されている一方、教育費に対する国の支出が少ないことが長年、指摘されています。

特に、国の支出が低いのが大学などの高等教育です。「図表でみる教育2017年版」によると、高等教育への公的支出はOECD加盟国平均が70%なのに対して、日本はわずか34%。残りの66%は、民間の私的な支出でカバーしていることになりますが、返済不要の給付型の奨学金は少なく、高等教育の50%が個人の家計からの支出になっています。

こうした実態が明らかになったこともあり、国は少子化対策の一環として、教育費に対する公的支援を全体的に充実させる方向に舵を切っており、私立に通う生徒・児童への支援制度も作られるようになりました。

下図は、前回も確認した教育費の目安です。

幼稚園から大学までの子どもの教育費の目安

文部科学省「平成28年度子どもの学習費調査」。日本学生支援機構「平成28年度学生生活調査」をもとに作成

小学校、中学校の義務教育期間は、公立に行くなら授業料は無料。高校になると授業料がかかるものの、高校まで公立なら、月々の教育費は3万~4万円なので、毎月の家計からでも捻出できそうです。でも、私立に行くとなると、月々の負担は10万円程度と大幅にアップします。

「義務教育期間中の小学校、中学校に私立に通うのは個人の選択によるものですが、一般家庭にとっては重い負担となります。そこで、覚えておきたいのが、2017年度からスタートしたの『私立小中学校等に通う児童生徒への経済的支援に関する実証事業』です」(竹下さん)

義務教育期間に私立小学校・中学校を選択する理由、家庭の経済状況などについて、文部科学省が実態把握を行うのが目的で、調査に協力すると年間10万円の支援を受けられます。支援は現金給付ではなく、学校が国から支援金を代理受領して、授業料が減額される仕組みになっています。

覚えておきたい「私立小中学校等に通う児童生徒への経済的支援に関する実証事業」

高校の授業料は、民主党(当時)政権時代に始まった「授業料の無償化」が形を変えて残っており、2014年4月からは公立・私立ともに保護者の所得に応じた「高等学校等就学支援金」が国から支給されています。

この国の制度に加えて、私立高校に通う場合は、都道府県が「私立高等学校等授業料軽減助成金」の上乗せをしてくれます。県単位の制度なので自治体の財政状況によって助成金の額は異なりますが、レイカさんが暮らしている東京都は、国の制度と合わせて授業料相当額として年額44万2000円まで助成してくれます。国や自治体の助成を受けられる場合は、時期を逃さずに申請して利用することで教育費の負担は大幅に軽減できます。

ただし、「私立小中学校等に通う児童生徒への経済的支援に関する実証事業」も、「私立高等学校等授業料軽減助成金」も、いずれも保護者の所得制限があり、すべての人が利用できるわけではありません。

私立小中学校の支援制度は、年収およそ400万円未満の人が対象。私立高校の助成金は、東京都は年収760万円未満(夫婦と子ども2人の場合の目安)が利用の条件です。レイカさんの場合、夫のヒデオミさんの手取りは1300万円(年収2000万円)なので、いずれも利用できません。

「教育費に対する国や自治体の支援は増えてきているものの、保護者の所得制限が設けられているのが一般的です。所得が一定以上あると、教育費の助成対象からは外れてしまうため、高所得層ほど自助努力で教育費を準備していく必要があるのです」(竹下さん)

教育費を作るための「貯める・借りる・贈与する」やり方5つ

レイカさんの家庭は、収入は高いものの住宅ローンや子どもの習い事の費用など必要なものを支払っていくと、ほとんどお金が残らないのが現状です。でも、今後は子どもひとりにつき年間150万円の教育費が必要です。

所得制限によって国や自治体の助成金も使えないことがわかった今、家計の見直しは必須です。まずは、家計の点検をして、無駄な支出をカットする努力をしてみましょう。

■1:勤務先の「財形貯蓄」、銀行の「定期積立預金」を活用する

そのうえで、考えたいのが貯蓄の方法です。お金があればあるだけ使ってしまうという人は、「最初に貯蓄して残ったお金で生活する」ようにお金の流れを見直してみましょう。

その場合は、勤務先の財形貯蓄、銀行の定期積立預金などを利用して、自分の手元を通さなくても、天引きや自動引落で意識しなくても貯蓄するシステムを利用するのがおすすめです。

大学卒業までの教育費、利用できるものはすべて利用しましょう

■2:民間の「こども保険」を活用する

「教育資金作りの王道と言えば、民間の保険会社のこども保険です。最近はマイナス金利の影響で金融商品としての旨味は半減していますが、自動引落で確実に貯められ、税制優遇を受けられるメリットもあります。こども保険を利用する場合は、支払う保険料総額ともらえる満期金(学資金)を比較して、元本割れにならない商品を選ぶようにしてください」(竹下さん)

■3:国から支給される「児童手当」を活用する

もうひとつ、教育費を貯めるときに活用したいのが、国から給付される児童手当です。現在は、子どもの年齢が、0~3歳未満は月1万5000円、3歳~小学校修了前は月1万円(第3子以降は月1万5000円)、中学生は月1万円が給付されます。これをすべて貯めていくと、0~15歳まで198万円貯めることができるのです。

「児童手当にも所得制限があり、年収約960万円以上(子ども2人のモデル世帯の例)になると原則的に給付対象から外れることになります。ただし、現在は経過措置として、所得制限を超えても子どもひとりあたり、月5000円が給付されています。これを15年間貯めれば約90万円になり、高校や大学の入学金などの一部に使えるはずです」(竹下さん)

■4:子ども用にいただいたお金の貯蓄

このほか、「親戚などからもらったお年玉、入進学のお祝い金なども、最初からなかったものとして子ども名義で貯める」といった方法で、教育資金をつくっている人もいます。できるところから始めて、子どもひとりあたり年間150万円の教育費を捻出できるように、家計を見直してみましょう。

それでも、どうしても厳しいという場合は、親御さんから教育資金の贈与を受けられないかどうか相談してみましょう。

■5:家族間での「教育資金の一括贈与」を利用すれば、1500万円まで非課税になる

1500万円までなら、祖父母から孫への一括贈与は非課税になります

2015年の税制改正で、相続税が見直されたことを受けて、贈与税の非課税枠についても特例が設けられ、税制優遇が受けられるようになっています。

本来、年間110万円の非課税枠を超えるお金を家族間で移転すると、贈与税が発生します。でも、2013年4月~2019年3月までは特例として、30未満の子どもや孫に一括贈与しても、教育資金目的なら1500万円(学校教育費以外は500万円)までは贈与税がかかりません

「通常1500万円の贈与には、400万円前後の贈与税が発生しますが、これが無税になるので、相続税が発生する可能性があるなら、この特例を利用して早めに財産を移転させておくのも、ひとつの手段。将来の相続税を減らせる可能性があるだけではなく、不足する教育費を賄うことができます」(竹下さん)

ただし、この教育資金の一括贈与を使って、祖父母のお金を孫の教育費に使うためには、信託銀行などに口座をつくって、支出を管理する必要があります。お金を引き出すためには領収書が必要になるなど、なんでも自由に使えるというものではありません。

孫名義の口座に移したお金を、30歳までに教育費として使いきらなかった場合は、相続が発生時に課税対象になります。贈与後に突発的な出来事があって、祖父母にお金が必要になっても、いったん渡したお金は簡単に戻すことはできないので、利用する場合は、贈与する金額を慎重に判断する必要がありそうです。

「この特例を利用しなくても、祖父母が孫の学校の授業料などを、その都度支払うぶんには、そもそも贈与税はかかりません。民法では、配偶者や直系血族、兄弟姉妹などに、お互いの扶養義務を課しています。そのため、この関係のなかで、通常必要だと認められる生活費や教育費を渡しても贈与税は発生せず、110万円の暦年贈与とも無関係です」(竹下さん)

教育資金の一括贈与は、早めにまとまったお金を贈与しておきたい…という人にはメリットが高いものの、たんに孫の教育費を援助したいという場合は、その都度、お金を渡すほうが難しい手続きはありません。それぞれの特徴を理解して、ご家庭にあった手段を選んでください。

親御さんに経済的に余裕があるなら、孫の教育資金の援助をお願いしてみる価値はありますが、ご家庭の事情によっては難しい場合もあるはずです。

その場合は、奨学金や銀行の教育ローンも視野に入れて、教育資金の準備をする必要が出てきます。奨学金は返済不要の給付型もありますが、現在、日本で利用されている奨学金の多くは貸与型で、利息がつくものがほとんどです。卒業後に返済義務が発生しますが、借り過ぎによって返済できなくなる事例も報告されています。

次回は、失敗しない奨学金の選び方、借りる場合の注意点について、詳しく学んでいきます。

竹下さくらさん
ファイナンシャル・プランナー
(たけした さくら)なごみFP事務所。千葉商科大学大学院(会計ファイナンス研究科、MBA課程)客員教授。東京都中高年勤労者福祉推進員。慶應義塾大学商学部にて保険学を専攻。損害保険会社勤務を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。個人向けの住宅ローンや生命保険などのコンサルティング業務を主軸に、セミナーでの講演、新聞や雑誌等への執筆活動など幅広く活躍。主な著書に「『家を買おうかな』と思ったときにまず読む本」(日本経済新聞出版)、「ローン以前の住宅購入の常識」(講談社)、「『マイホーム』を買うメリット・デメリット本当のところズバリ!」(すばる舎)などがある。2017年10月には、「『教育費をどうしようかな』と思ったときにまず読む本」(日本経済新聞出版)が発売されたばかり。
『教育費をどうしようかな』と思ったときにまず読む本
この記事の執筆者
1968年、千葉県生まれ。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。医療や年金などの社会保障制度、家計の節約など身の回りのお金の情報について、新聞や雑誌、ネットサイトに寄稿。おもな著書に「読むだけで200万円節約できる!医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30」(ダイヤモンド社)がある。