「ウィズコロナ時代の美容は、より本質的なものになっていく」ポーラ初の女性代表取締役社長・及川美紀さんインタビュー
日本では、女性の活躍がまだまだ発展途上であるなか、日本を代表する化粧品メーカーの「ポーラ(POLA)」初の女性代表取締役社長に就任した及川美紀さん。先日公開の記事では、ポーラひと筋30年、今に至るまでのご苦労や想いなど、貴重なお話をお伝えいたしました。
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今回のテーマは「コロナ禍」です。
2020年1月の社長就任直後から、新型コロナウイルス感染拡大に伴う対応に追われた及川さん。マスク着用の日常化、外出自粛、テレワーク、そして世界中が鎖国状態、という美容業界にとって大変な困難が次々襲ってくるなか、希望を見出し力強く前へ進もうとする及川さんのお話は、必読です。
コロナで何もかもできなくなった、そして考えさせられた「美容の意義」
Precious.jp編集部(以下同)――新型コロナウイルスの影響は、大きかったですか?
弊社だけでなく化粧品業界全体の話ですが、インバウンドがゼロになったというのは、ものすごく大きかったですね。あとは商品のお試しをしてもらえない、メイクアップサービスもできない……など、何もかも難しくなりました。
――緊急事態宣言が出ているときはもちろんですが、解除後も外出を控えている方は多かったですよね。
そうなんです。外国からの旅行者はもちろんゼロ、日本の方もとにかくみんな家にいるので百貨店の化粧品コーナーや店舗に誰も来ない。おかげさまでECサイトは活況なんですが、店舗販売分をカバーできるほどではないので大変です。
でも、売上よりもダメージが大きかったのが、実際に肌を見て、触れて、アドバイスができないということ。「お客様の肌に触れることが第一」の世界ですから……。
――マスク着用や在宅時間が長くなったことで、化粧品の需要が少なくなっているように思います。ウィズコロナ時代の化粧品や美容の意義についてはどうお考えですか?
私自身もマスクをずっとつけている日に口紅をつけるかといえば、マスクを汚してしまうだけなのでつけませんし、ファンデーションだって何度も直すことはしません。メークアップ品の消費量という点では、若干落ちてくるだろうとは思います。
ただ、美容の意義という点では、より研ぎ澄まされ本質的なものになっていくのではないでしょうか?
――「より本質的なものになっていく」とは?
「人から見られるからなんとなくやる」という美容やメークアップから、目的がその人にとってより本質的なものに移行していくということです。
例えば、化粧をせずに家にいる時間が増えれば、「ファンデーションをつけなくても綺麗な肌になりたい」と今までより強く思うようになるかもしれません。そういった女性の気持ちをしっかり察知できれば、化粧品会社が果たせる役割はあるはずです。
ポーラの場合は、基礎化粧品が得意ですし、エステティックもやっていますので、ウィズコロナ時代にもしっかり対応していけると自負しています。
美容を「豊かで大切な時間」だと思ってもらえるようにするのが、化粧品会社の使命
――確かにこの数か月間を振り返ると、化粧を念入りにするよりも、スキンケアを重視するようになったと感じます。
実は先日、すごく興味深い調査結果がありました。
一般の女性とポーラのユーザーそれぞれに「スキンケアの時間はどういう時間ですか?」という質問をしたところ、一般の方は「リラックスタイム」と回答した方が13%で1位。しかし同じくらいの割合で2位以下「ルーティーン」「面倒・義務」などのネガティブな回答が続きます。
一方、ポーラのユーザーは「リラックス・癒しタイム」と回答した方が30%で1位、2位以下も「肌を労わる大切な時間」「至福で幸せな時間」などポジティブな回答ばかりだったんです。
――人によってスキンケアタイムの捉え方が全然違うんですね。
スキンケアが「自分にとって欠かせない大切な時間」になれば、コロナであろうがマスクをしようが、絶対にその時間はなくならないんです。これが「本質的な美容」ですよね。
ポーラのユーザーの多くがスキンケア時間を大切に思う理由は、エステ体験ができたり、ビューティーディレクターやカウンセラーとの繋がりが強いというポーラの特徴が関係しているように思います。
「嫌だ、面倒くさい」と思いながら10分ずつ365日スキンケアするのと、「大切で欠かせない」と思って10分ずつ365日重ねていくのでは、人生の豊かさに大きな差が出ます。後者を増やしていくことがポーラの使命ではないかと、今回のコロナ禍で考えさせられました。
――化粧品業界はこれから厳しいのではないかと想像していたのですが、及川さんのお話を聞いていたら、まったくそんなことはないと思いました。
他人に見られることが少なくなっても、自分のスイッチを入れるために綺麗にしようと思う方は、きっと多くいらっしゃるのではないでしょうか。より美容は“自分軸”にシフトしていくと思います。
世の中の空気感に合わせ、変えられる部分は躊躇なく変えて前へ進む
――コロナによって働き方も大きく変わったと思います。例えばズーム会議などには、皆さんすぐに対応できましたか?
弊社の場合、社員だけでなくビジネスパートナーとのやりとりも多く、なかには90代の方もいるので心配でした。正直難しいかもしれない、と思っていたんですけど、やらざるを得なくなると人って強いんですね(笑)。すでに4月くらいからズーム会議をやっていましたので、順応は早かったと思います。
――すごい! リモートワークが増えたことで、マネジメント方法には何か変化がありましたか?
業務を効率的にこなすという面ではリモートはすごくよいのですが、用件にないことを話したり、今の様子を何気なく尋ねたりすることは難しいです。また、他の仕事の進捗状況がメンバー同士でわからないなど、コミュニケーションの難しさを課題に感じています。
でも今は、各リーダーが朝礼夕礼をやったり、雑談タイムを設けたりとそれぞれ工夫してくれています。
私は部門長たちと1時間と時間を決めて、正解や答えを求めないディスカッションを行っています。たくさんの気付きがあるので、雑談のような時間はやっぱり大切だなと。
――企業のあり方としてはどうでしょうか? 変えてはいけないこと、変えてもいいこと、それぞれどうお考えですか?
まず、その企業が大切にしていることは変えてはダメですよね。例えばポーラだったら「お客様と対面する」というのはすごく大事にしているので、変えてはいけないことだと思っています。
でも、手法や手段は今まで通りじゃなくても構わない。対面の手段がズームになったとしても、会えないよりはいいと思うんです。それが今できる最善の方法なら、前例にとらわれず躊躇することなくやるべきです。
店舗の役割なども変えていいところですよね。人がお店に来ないのに、今まで通りにしていてもダメ。そして、感染する危険を冒してまで足を運んでくれるならば、商品を購入できる以上の価値がないといけません。世の中の空気感に合わせて、柔軟に変えていかなければ取り残されてしまうと思っています。
――変化していくうえで、アイデアはどこから生まれるのでしょうか?
私自身は、ディスカッションや雑談から出てくることが多いですが、私ひとりのアイデアより皆で考えたほうがいろんなアイデアが生まれます。そのため会社の中にアイデアを募ってくれるようなチームもありますし、何より今社員たちがスピード感をもって主体的に動いてくれているんです。
つい最近の話ですと、石灰石を主原料とする新素材「ライメックス(LIMEX)」を使用した不織布のショッピングバッグを開発しました。
――それはどういったバッグなんですか?
繰り返し使用することが可能で、従来使用していた紙製バッグと比較すると、水や森林資源の削減に貢献できます。また、ライメックスを使用していない不織布バッグや石油由来プラスチックを使用したレジ袋などと比較して、石油資源の使用量を削減でき、焼却処分した際のCO2排出量を抑えることが可能です。
これは、次世代に環境をつなぐアクションのひとつになりますが、コロナで変わった日常や価値観に対しても一緒です。この新型コロナウイルスで苦しいのは自分たちだけではありませんので、異業種の方とも協力してお客さまへの新たな価値の提供を模索しながら、前へ前へと進んでいきたいと思っています。
コロナ禍で化粧品業界は大変厳しい状況にあると言われています。しかし及川さんの話を伺うと、世の中の新たなニーズをキャッチできた企業が、さらに成長できるチャンスの時なのではないかと思えるほど、力強く希望に満ちた未来が見えてきました。
次回は、そんな及川さんのプライベートに迫ります。生き物観察をするという朝の散歩から、趣味、愛用コスメ、お気に入りグッズまで、根掘り葉掘りお伺いしましたので、お楽しみに!
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 篠原亜由美
- EDIT :
- 小林麻美