マッシモ・ボットゥーラに関しては今さら説明する必要もないだろう。1962年モデナ生まれのボットゥーラは生まれ故郷モデナにある「Osteria Francescana(オステリア・フランチェスカーナ)」オーナーシェフで、ミシュラン3つ星、「世界ベストレストラン50」世界一など考えうる限りのタイトルを保持している現在世界最高の料理人だ。

世界最高の料理人、マッシモ・ボットゥーラが国連親善大使に就任

廃棄対象食材の提供を受け、友人シェフたちにチャリティ・レストランの参加を呼びかけたマッシモ・ボットゥーラ。
廃棄対象食材の提供を受け、友人シェフたちにチャリティ・レストランの参加を呼びかけたマッシモ・ボットゥーラ。

また、フードロスと食の貧困という問題にも真摯に取り組み、妻であるララ・ギルモアと設立したFood for Soulを通じてボランティア・レストラン「レフェットリオ」をミラノ、パリ、ロンドン、リオデジャネイロなどに世界展開している。これは地元のスーパーマーケットなどから賞味期限間近な廃棄対象食材の提供を受け、ボットゥーラやその師匠アラン・デユカスらが自ら包丁を持ち、恵まれない人々に料理を無償提供する画期的なシステムだ。

ボットゥーラの呼びかけで、師匠アラン・デュカスもレフェットリオに参加している。
ボットゥーラの呼びかけで、師匠アラン・デュカスもレフェットリオに参加している。

2020年9月29日は「世界的フードロス・デイ」であり、毎年8億人以上が飢えに苦しむ現代社会においてフードロス、気候変動、生物多様性といった問題に対する行動を世界規模で促すのを目的としている。

「すべての材料を最大限に活用できれば、発生する食料廃棄の量を減らし、より効率的に生活することができるはず。国連環境計画親善大使として、世界規模のはずべく問題と戦うつもりです。われわれは食べ物がどこから来ているのかを自らに問うことで理解し、将来のために食べ物の記憶と技術を保存するためにアクションを起こし、フードロスを引き起こした悪癖や消費行動を繰り返さないように注意しなければなりません。料理することとは、そして人として生きることとは単に味の問題ではなく、倫理的選択を常に視野に入れなければならないのです。」と就任にあたってボットゥーラは公式にコメントした。

世界のトップシェフが廃棄対象食材を絶品料理に!

レフェットリオは炊き出しではなく、世界のトップシェフが廃棄対象食材で作るファインダイニングだ。
レフェットリオは炊き出しではなく、世界のトップシェフが廃棄対象食材で作るファインダイニングだ。

以下は、国連環境計画のエグゼクティヴ・ディレクター、インガー・アンデルセンのコメントだ。

「現代社会では、生産される全食品の約3分の1にあたる13億トンが毎年廃棄されている。ロジスティックスの問題で世界の食品の約14%が(一部の市場では40%)が小売店に届く前に廃棄対象となっている。さらにフードロスおよび食品廃棄は世界の温室効果ガス排出量の8%を生み出す。食品廃棄には中国とインドを合わせた表面積よりも広い土地と、スイスのレマン湖の量の3倍の水資源が必要だ。これらのリソースの不必要な使用は、生態系と生物多様性に計り知れない悪影響を及ぼします。すでに「レフェットリオ」を通じて社会変革をもたらしているマッシモ・ボットゥーラと国連環境計画が力をあわせて問題解決に取り組めることを嬉しく思います。食品廃棄の削減はFood for Soulの優先事項であり、世界中に「レフェットリオ」のプロジェクトがあります。ミラノ、リオデジャネイロ、メキシコ、パリとFood for Soulは125トン以上の廃棄対象食材を救い、社会的孤立と飢えに苦しむ人々に50万食以上の食事を提供してきました。」

ボットゥーラの右でフライパンを振るのはは2020年世界ベストレストラン50第一位のシェフ、マウロ・コーラグレコだ。

フードロス問題は、2021年のフードシステムサミットにおける、国連事務総長アントニオ・グテーレスの最優先事項でもある。ところで、かつてボットゥーラが日本にも「レフェットリオ」を作る可能性について言及したことを覚えている人はいるだろうか?2012年ロンドン五輪の際に日本政府からアプローチがあり、2020年東京五輪前にはさまざまな方面からのアプローチが相次いだ時期もあった。しかし東京五輪延期とともにそうしたプロジェクトは全て延期、もしくは中止となっている状態だ。

本来ならば「レフェットリオ」は一連の五輪イベントとは全く関係ないのだが、世界中からの注目が集まるという点において五輪と「レフェットリオ」を結びつけ、ビジネスチャンスと考える人々も多く存在するのも事実だ。

日本の「レフェットリオ」は果たして本当に2021年東京に誕生するのか?それはおそらく東京五輪が果たして開催されるのかどうか?に左右されることは間違いなく、ひいてはフードロスや社会的生活困難者にどう取り組むかという本質的な問題も、やはり東京五輪が果たしてどうなるかに左右されるはずだ。

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この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。