改装のため長期にクローズしていたパリ有数の老舗百貨店「ラ・サマリテーヌ」のオープン前のビッグイベントが、2021年春夏のLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)のコレクションであった。「ラ・サマリテーヌ」は、セーヌ川の右岸に建つアールヌーボーとアールデコが融合したパリの記念碑的な建造物だ。
無限に広がるダイバーシティーを表現。新時代の在り方を定義したルイ・ヴィトン2021年春夏コレクション
21世期のモダンな建築とフレスコ画など、華やかな装飾美術が折衷したラ・サマリテーヌのガラスドームの下にセットされたランウェイは、ヴィム・ヴェンダース監督の映画「ベルリン・天使の詩」のシーンをデジタルレイヤー化し、観客にバーチャル背景として見せるため、セット全体に、緑色の大きな帯がスクリーンとして設置された。
未来と現代が交差するウィメンズ アーティスティック・ディレクター、ニコラ・ジェスキエールのサイバーシックなコレクションが映える、これ以上はないと思われる舞台設定である。
今季は、フィジカルショーを開催しながら、360度のカメラで捉えたコレクション映像をライブストリーミングし、「旅行」ができなかったゲスト・セレブリティーたちが、自分の携帯やコンピューターから、ショーを楽しめるという「デジタル」な要素をミックスした「フィジタル」という概念。ニコラ・ジェスキエールならではの「拡張現実」の持ち味が遺憾無く発揮されたコレクションである。
ジェンダーの区別を消し去った、無限に広がるダイバシティーの領域が、今シーズンの大きなテーマだ。
メッセージ性の強いスタイルが多数登場
オープニングは、「VOTE(投票)」と大きく書かれたグラフィックなトップスとチノパンツ。太いベルトがモダンなアクセントを添えるルックからスタートした。11月のアメリカの大統領選挙の標語のように用いられている「投票へ行こう」と促すスローガンなのだろうか。世界情勢に敏感な若々しいスピリッツを感じる。
続いて「SKATE」や「DRIVE」など躍動的なロゴが書かれたカジュアルなインナーが登場。上に、オーバーサイズのコートを羽織ったリラックスした着こなしは、マスキュリンであると同時にフェミニンでもある。
男女のジェンダーの間に存在するノンバイナリージェンダー(男性、女性というセクシュアリティーを当てはめない第3の性ともいわれる)な服の定義を模索する今季のニコラ・ジェスキエールのメッセージが伝わってくるルックだ。
あらゆる「枠」を取り払った、新時代のテーマを発表
ジェンダーだけではなく、さまざまな枠を取り払い、スポーツ、ワーク、繊細な女らしさのミックスが、コレクションの個性を際立たせ、独特の世界観を醸し出している。
ボーダーシャツに刺繍パンツ、ビッグな中綿入りブルゾンに輝くメタルドレスの組み合わせなど、わかりやすく相反する要素を組み合わせたマスキュリン・フェミニンかと思えば、スパンコールのテーラードジャケットにサッカー地のスラックスを合わせたもの、ワークパンツをエレガントな表情に変えたりと、自由に着こなしを楽しめ、性別を問わない魅力的なコーディネートが続々と登場した。
そして、未来志向のニコラ・ジェスキエールが得意とするサイバー空間さながらのサイケデリックなプリントが黒白と大胆なコントラストで用いられ、クリーンかつダイナミックな配色でフィナーレを彩る。
新たな時代のスタンダード「ノンバイナリー」という価値観を、共感豊かに謳いあげ、見事なワードローブに変えた出色のコレクションであった。
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- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- WRITING :
- 藤岡篤子
- EDIT :
- 石原あや乃