さわやかな風に頬をなでられる心地のよい秋日和。旧暦9月から10月は晩秋、木の葉が染まりだす様子になぞらえ「色取月(いろとりづき)」とも呼ばれます。木々や野に咲く秋の草花、実りの時を迎えた果実など、季節の彩りを楽しめるこんな時期はふらりと足を伸ばして、心を豊かにするお散歩に出かけたくなりますね。おすすめは古都鎌倉。年4日間だけ開く、昭和の名建築を訪ねてみませんか。

旧華頂宮邸正面
旧華頂宮邸正面

通称「竹寺」で有名な報国寺に向かう道をさらに奥まで進むと、大きな木々を背景にひっそりと立つ端正な洋館が見えてきます。それが昭和初期に建てられた旧華頂宮邸(きゅうかちょうのみやてい)。

1929年(昭和4年)に華頂博信(かちょうひろのぶ)侯爵邸として建設されました。

後年、何度か所有者が変わったのち、現在は鎌倉市が管理をしています。平成18年4月に鎌倉市の景観重要建築物、同年10月には国の登録有形文化財(建造物)にも指定された、歴史的価値の高い洋館です。

建物内は春と秋、それぞれ2日間のみしか一般公開されませんが、庭園は通年見学することができます。

秋バラが見頃を迎えるフランス式庭園を散策

小さなテラス
小さなテラス

門をくぐると、小さなテラスが設けられています。庭園を回る前にここでほっと一息。訪れた日は庭師さんが庭木を剪定していました。美しく形作られていく樹木の様子を眺めながら休むことができました。

旧華頂宮邸の外観は、アルプスから北のヨーロッパに多く見られる木造真壁建築様式・ハーフティンバースタイル。梁や柱が外壁に露出し、三角屋根やバルコニーが張り出した洋館は、スイスやドイツなどの街並みを思い出させます。外灯はどことなく花のつぼみを思わせるしつらえ。この灯が行く人や帰る人を見守ってきたのでしょう。

色とりどりの花々が
色とりどりの花々が

建物の南側に回ると、緑鮮やかな芝生が美しいフランス式庭園が広がります。庭園内には散歩道が設けられ、洋館を背景に咲き誇る色とりどりの花々を眺めながら散策することができます。この日は9月末。咲いていたのは赤やオレンジ、白の小さめのバラ。まだ固そうなつぼみもたくさんついていました。10月になったら、明かりを灯すように花びらを開いてくれるでしょうか。

この季節に庭を歩けば金木犀がほんのりと香り、秋も本番だと知らせてくれます。小さなオレンジがこんもりとまとまっている様がかわいらしいですね。

すっきりと晴れ渡った秋の空気によく似合う、半円型に張り出した石造りのバルコニーにはベンチが設えられ、その下にはかつて噴水を設けた池だったであろう面影が残っています。この邸宅が実際に使われていたころ、ここで美しい庭を存分に楽しんだのだろうな…と思いを馳せてしまいます。

開くのは年4日間のみ。有形文化財の昭和建築洋館

建物内部は、春と秋に一般公開。2017年秋の公開は10月14日(土)、15日(日)の2日間です。

広い玄関ホール、暖炉やマントルピースのある大広間や洋室、サンルームなどを見学できます。ボランティアの方が淹れてくれるコーヒーのサービスもあるそうなので、洋館の中でゆっくり休めるのもうれしいですね。

1階は、窓の装飾、アールヌーボー風の照明など昭和初期の技術を尽くした意匠がちりばめられていて、華やかな時代へと時間旅行したような気分になりそうです。また、主に住居として使用されていた2階も見学可能です。一見地味ながら、趣のある壁紙や大理石の洗面台などに気品があり、普段の生活を上質にする豊かさを感じることができるでしょう。

取材日は館内を撮影することはかないませんでしたが、公開日は建物内部も撮影可能になります(※一部未公開・撮影不可部分あり)。ぜひ、カメラをお持ちくださいね。

庭園の奥に進むと、「無為庵」という名のお茶室があります。建物公開日は、このお茶室も見ることができます(※外観のみ)。こちらは東京から移築されたものですが、作られたのは昭和以前だとか。天井は八角形、柱にはかりんや南天などの木を使うなどの趣向を凝らしてあるそうです。

豪奢な洋館を楽しんだあと、穏やかな木のぬくもりを感じさせる純和風建築を愛でていると、さまざまな文化を受け入れてきた歴史の深さを感じるのではないでしょうか。

旧華頂宮邸入り口
旧華頂宮邸入り口

近隣には、幻想的な竹林を有する報国寺、鎌倉五山のひとつ浄妙寺、荘厳な雰囲気を醸す杉本寺など、個性豊かな名所も点在しています。

空が高く心地よい空気が流れる古都。この季節だけの鎌倉に出合うべく、足を運んでみてはいかがでしょうか。

問い合わせ先

  • 旧華頂宮邸
  • 住所/神奈川県鎌倉市浄明寺2丁目6−37
  • 交通/バス(金沢八景行き又は鎌倉霊園正門前太刀洗行き又はハイランド循環)
    バス停/浄明寺バス停下車徒歩約4分(報国寺の奥) ※庭園及び付近には駐車場はありません。
    施設(建物)公開日:2017年10月14日(土)、15日(日) 10:00〜15:00 ※2018年の予定は上記リンクよりご確認ください
    庭園公開時間:4月~9月/10:00~16:00、10月~3月/10:00~15:00
    休園日:月曜日・火曜日(祝日祭日の場合は開園し、次の平日に休園)
この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
2017.10.16 更新
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EDIT&WRITING :
いしだわかこ