またひとつ、現代アートの聖地ともいえる場所が日本国内に誕生しました。それもなんと小田原に!

小田原? 蒲鉾ではなく、提灯でもなく、二宮金次郎でもなく…現代アートの聖地が小田原に…? 何故? 

その聖地の名前は「小田原文化財団 江之浦(えのうら)測候所」。名前からしてなんだか不思議です。

この施設、世界的美術作家=杉本博司(すぎもとひろし)さんが構想20年!の歳月を費やして完成させた、文化芸術の発信地なのです。

杉本博司さんといえば今、国内外で最も注目されている日本人アーティスト。2017年10月24日、平成29年度の文化功労者に選出されたことが発表されました。

同じく現代アートの聖地である瀬戸内・直島の「護王(ごおう)神社」や、三十三間堂の千体仏の写真作品「SEA OF BUDDHA」、水平線が印象的な海の写真作品「海景」などでも広く知られています。

鎌倉の明月院から移築された門をくぐって中に入ると、まず巨大な石舞台が出現。舞台手前の巨石は、これから始まるアートとの出会いへの”橋懸かり”

相模湾を見下ろす小田原の山に出現した、モーレツかっこいい空間!

杉本さんはこの「小田原文化財団 江之浦測候所」オープンにあたって「今、時代は成長の臨界点に至り、アートはその表現すべき対象を見失ってしまった。私達に出来る事、それはもう一度人類意識の発生現場に立ち戻って、意識のよってたつ由来を反芻してみる事ではないだろうか」と記しています。

難しい説明はさておき、この空間を訪れてみると、ともかくかっこいい! モーレツかっこいい! どこを見てもすべてが刺激に満ちた空間で、まさに現代アートのテーマパークとでもいえる一大スペースなのです。

万里の長城のように続く大谷石の長大な壁。これはいったい何? この向こうには何が?

敷地内に入って、誰もが圧倒されるのは100メートルに及ぶ長大な展示スペース「夏至光遙拝100メートルギャラリー」です。片側からみると大谷石の城壁そのものですが、反対側に回ると、100メートルすべてがガラス貼りの展示廊下。さらにその廊下の先には相模湾の大海原が広がるという、ドラマティックな空間演出がなされています。また、ここに展示されている杉本さんの代表作「海景」が実に印象的に感じられます。

「夏至光遙拝100メートルギャラリー」。なんと大谷石の長大な壁の反対側にまわると、こんなモダンなガラスの展示室が出現!
西側(写真向かって右)は先ほどの大谷石の壁、東側(向かって左)は全面ガラス。そして、まっすぐ正面は相模湾に向かって突き出している! なんとも不思議な空間。夏至の日には、ちょうどこの先から朝日が昇るのだとか。壁には代表作「海景」が飾られています

この100メートルのギャラリーは、「夏至の日の日の出の方向」に向けてつくられているそうで、夏至の朝には、海から昇った太陽の光がこのギャラリーをまっすぐに貫くことになるでしょう(もっともその時間には開館していないので、一般にその光景は見ることはできないのですが…)。

「夏至光遙拝100メートルギャラリー」は、同施設の中でも一番の見どころ。海に向けて張り出した構造はなんともダイナミック!

神に手引かれるように、日の光に従って空間を楽しむ

100メートルのギャラリーの地下を突っ切るように、もうひとつ70メートルのトンネル廊下「冬至光遙拝隧道」が海に突き出しています。隧道(トンネル)の先にわずかに見える光に誘われて進むと、70メートルの先に再び相模湾のまぶしい光が! それはまさに、海上におわす神に導かれるかのような錯覚にとらわれる瞬間です。

100メートルのガラスのギャラリーの下にある、70メートルの隧道(ずいどう)の入口。なんかちょっと古代の宗教儀式めいた雰囲気・・・。そしてなぜか無性に暗闇の中に入りたくなってくるから不思議!
トンネルの中間地点には天井から光が入る場所があり、天の声が聞こえそうな幻想的気分に! まさに現代アートのテーマパーク!
さらに光に従って歩いて行くと・・・その先は相模湾! 柵はないので注意! 先端に置かれた小さな石は「止め石」と呼ばれるもの

こちらの70メートルの隧道は、冬至の日の、日の出の方角に向けてつくられています。さらにその隧道に接して同じく、冬至の日の日の出の方角に向けて、海に張り出すように光学ガラスを敷き詰めた舞台も(舞台の前には古代ローマの円形劇場をもした観客席まで)。

光学ガラスの舞台、これもモーレツかっこいい! 舞台に正座してご挨拶をされる杉本博司さん。左に見える鉄錆びた構造物が冬至の日の、朝日に向かってつくられた70メートルの「冬至光遙拝隧道」

オープニングの挨拶に立たれた杉本博司さんは、この光学ガラスの舞台の上で「能舞台には正面に鏡板がある。本来能はその鏡板に神を写し、神様に向かって舞う。この舞台の先の海から、冬至の朝、日が昇る。ここで舞うことはすなわち神様に向かって舞うことになる」という主旨のお話をされました。

この3つの施設(アート作品?)のほかにも、春分の日、秋分の日の日の出の方向に向けてつくられた「石舞台」や茶室「雨聴天」など、すべての施設が、神の声を聞くがごとく配置され、太陽の動きと呼応するようにつくられていることに驚かされます。

京都か奈良のお寺のようにみえるけれど、これもれっきとしたアートスペースです! 今はなき箱根の老舗旅館より移築された門に、奈良から移築された十三重の石塔。敷かれた石は、比叡山の麓、日吉大社で礎石として使われていたもの。苔むした風情からは、ここが、わずか十数年前まで農家所有の山だったことなど想像すらできません

この「小田原文化財団 江之浦測候所」の敷地は、もとは農家の方が所有する山だったそうです。しかし今は地面は何百年も前からあるかのように苔むし、多くの巨石が点在。あちこちにある巨石の中には天平時代の元興寺の疎石や桃山時代の京都五条大橋の礎石など、文化財として大変貴重な名石も少なくありません。

小田原の海に面したアートスペースに突如として現れる巨石や、トンネルやガラスの展示廊下や伝統建築の門や・・・ひたすら驚きに導かれて歩き続けているうちに、なにやら、不思議な太古の力に誘われるような・・・。

うーーん! ここまで来て最初の杉本さんの御挨拶文に出てくる「人類意識の発生現場に立ち戻って、意識のよってたつ由来を反芻してみる」の言葉の意味が、少――しだけわかったような気がしてきます。

「小田原文化財団 江之浦測候所」の場内見取り図。うっかり歩いていると、貴重な礎石や建造物を見逃してしまう。ま、それも良し! 驚きの空間に誘われつつ、アートをエンタメとして楽しもう!

今なお「完成」ではなく「発展」を続ける現代アートの聖地

最初の構想から約20年、工事開始から約10年をかけて誕生したこのアートの聖地ですが、実はこれで完成というわけではなく、今もどんどん進化を続けているのだとか。現在でも広大に思える敷地ですが、総敷地面積1万坪以上のうちの、わずか3000坪を使用しているにすぎないといいます。残り7000坪以上、杉本さんは「寿命と資金の続く限りアート作品をつくり続ける」と力強い挨拶をされました。

現在日本には、瀬戸内海の直島、金沢21世紀美術館と、世界の美術関係者が注目する現代アートの聖地がいくつも存在しますが、ここ小田原の海を見下ろす山に新に誕生した「小田原文化財団 江之浦測候所」は、間違いなく、世界のアート関係者が一番訪れたいと熱望している、新聖地といえるでしょう。

いくら時間があっても見切れないくらい楽しい敷地内。左の待合棟の中にも杉本さんの作品が展示されています

既に10月9日から一般公開が開始されていますので、現代アートが好き、最先端のアートスペースを訪れたいという女性に是非おすすめしたいスポットです。

問い合わせ先

  • 小田原文化財団
  • 住所/神奈川県小田原市江之浦362番地1
  • TEL:0465-42-9170
  • info@odawara-af.com
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  • ※入館は完全予約・入替制。水曜日休館。見学時間、4月~10月、1日3回(約2時間・定員制)、11月~3月、1日2回(約2時間・定員制)。最寄り駅JR東海道本線、根府川駅または真鶴駅
この記事の執筆者
自称大阪生まれ、イギリス育ち(2週間)。広島大学卒(たぶん本当)。元『和樂』公式キャラクター。好きなもの:二上山、北葛城郡、入江泰吉、Soho Squre、Kilkenney、Hay-on-Wye、Mackintosh、雨の日、Precious、Don’t think twice, it’s all right.