今年1月20日に行われた第46代アメリカ大統領就任式で話題を集めたのは、歴代のファーストレディたちのコートスタイルであった。
時代を反映した“パープル系カラー”のコートに話題集中。歴代のファーストレディが選んだ装いとは
46代アメリカ大統領の就任式に参列したMichelle Obama(ミシェル・オバマ)、Hillary Diane Rodham Clinton(ヒラリー・クリントン)など、元大統領夫人らやKamala Harris(カマラ・ハリス)副大統領がそろってパープル系のコートに身を包んでいたのが話題になっている。
民主党と共和党のシンボルカラーである「ブルー」と「レッド」をミックスしたパープルは、分断されたアメリカの融和を願う象徴的なカラーであり、新たな時代のスタートにふさわしい祈りのような意味を込めた選択であった。
新ファーストレディはNYの無名デザイナーが手がけた“スカイブルーのコート”を着用
パープルが注目されるなか、さらに話題を呼んだのは、新ファーストレディであるJill Biden(ジル・バイデン)が選んだ、鮮やかなスカイブルーのアンサンブルだ(彼女は就任式の前夜にはパープルを着用していた)。ブランドは誰も予想だにしなかった新星Alexandra O’Neill(アレクサンドラ・オニール)が手がけるNYブランド「MARKARIAN(マルカリアン)」。無名に近いデザイナーを起用し、スポットライトを当てる動線は、ミシェル・オバマ流を踏襲したともいえる。
千鳥格子のツイードで仕立てられたコートとドレスは、襟とカフス等、部分的に同色のベルベットを縁取りしたクラッシックなデザイン。全体にスワロフスキーのパールとクリスタルを散りばめ、就任式にふさわしい格調と華やぎが醸し出されている。
マスクと手袋も同色でコーディネートし、まさに民主党の大統領夫人だからこその煌くブルー一色の装いがとても印象的だった。
足元だけが、ベージュピンクのJIMMY CHOO(ジミー チュウ)のパンプスで、優しさを添える。穏やかな知性を漂わせるジル・バイデンらしさを引き立て、無造作なブロンドにも、よく似合っていた。
歴代のファーストレディが大統領就任式時に選んだコートをおさらい
そういえば、就任式のドレスは、その豪華さや、時代の多様性を映し出すものとして、よく話題になるものの、1月の寒い時期には欠かせないコートは、意外に知られていない。個性派揃いの歴代のファーストレディの就任式のコートには、どんな思いが凝らされていたのだろう。
【ヒラリー・クリントン編】
42代大統領夫人Hillary Clinton(ヒラリー・クリントン)は、夫が初の当選を果たした就任式では、民主党のカラー「ネイビーブルー」のフィット&フレアのフェミニンなコートをまとい、ツバのある同色の帽子を合わせ、夫に寄りそう良識的で知的な夫人像を打ち出した。
実際は、ファーストレディとしての期間より、その後の上院議員、オバマ政権下の国務長官、初の女性大統領誕生をかけた、民主党の大統領候補として、自らが政治家として活躍した期間がはるかに長く、個人的には、大きなアクセサリーとパンツスーツの組み合わせを愛用している。
だからこの選択は、自分の個性を押し出すのではなく、むしろ「夫を補佐する賢く、幸せな妻」という当時の、広くアメリカ国民が求める良妻賢母的なイメージを優先させていたと思える。
【ローラ・ブッシュ編】
43代大統領ジョージ・ブッシュ夫人のLaura Bush(ローラ・ブッシュ)は、一見いかにもテキサス出身の「保守的な南部の主婦」という雰囲気にぴったりのブルーのコートに黒のテーラード襟という、無難なコートを選んだ。これは政権当初のローラのパブリックイメージにまさにピッタリなのだが、多くの予想を裏切り、ローラ・ブッシュは、このイメージを覆す活発で明晰な女性であった。
政治への関与や、積極的に第三世界の女性たちへの権利向上や参政権運動の支援などを行い、ラジオでの恒例の大統領スピーチを大統領本人に代わって行った初めてのファーストレディとなった。長く小学校の教師を務め、信仰深く、リベラル派からは「保守反動」とまで揶揄されていたが、見事にそのイメージを払拭し、各国のファーストレディから一般の女性たちまで支持される存在となった。
服装も年を追うごとに洗練され、二期目の就任式で着用したピュアホワイトのノーカラーコートは、白地に白の刺繍と豪華なブレードで彩られた、一見シンプルに見えながら、まさに上質な洗練を描いたようなシックさであった。
【ミシェル・オバマ編】
そして、44代大統領バラク・オバマ夫人のミシェル。米国版VOGUEをはじめファーストレディ就任中にファッション誌の表紙を十二回も飾ったという前代未聞のファッションアイコンとなった。
アメリカ史上初のアフリカ系大統領の就任式という歴史的瞬間に選んだのは、これまでオフィシャルな場では見られなかったイエローのコートとドレスのアンサンブルだ。デザイナーは当時無名に近かったキューバ系アメリカ人であるIsabel Toledo(イザベル・トレド)。多様性を重んじ、マイノリティにスポットライトを当てるミシェルの愛情に満ちた手法は、このときから明らかになっていた。
褐色の肌を引き立てるレモングラスイエローは輝く刺繍で彩られ、合わせられたグリーンのジミー チュウのパンプスと、のちに問い合わせが殺到したというJ.Crew (J.クルー)の手袋は、ミシェルスタイルの真髄であるハイ&ローのスピリッツをすでに体現しており、新時代にふさわしく、好感度高く迎えられた。
時代を象徴する、ファーストレディたちの装い
1993年のヒラリー・クリントンから、2009年のミシェル・オバマまで、16年の間に社会状況も女性たちの意識も大きく変化し、優秀な女性が、その優秀さを隠すことによって好感度を上げようとする不本意なファッションの装いは、少なくなったように見える。歴代の大統領夫人の就任式でのファッションは、まさに時代や社会環境の進歩や寛容さを映し出す鏡といえるだろう。
ジョー・バイデン新内閣では、閣僚級に11人の女性を起用していることもあり、各国のニュースで取り上げられいてる。史上最多であり、アメリカ社会の多様性を反映させたと強くアピールしている。顔ぶれも先住民系から、アフリカ系、アジア系、トランスジェンダー系まで幅広い。
多様な女性たちとともに歩むジル大統領夫人も、英語教師を兼任していくという。ファーストレディとして、自らのキャリアを持つ女性として、若いときにはモデルの仕事をした経験もある彼女が果たしてどんなファッションを見せてくれるのか、とても待ち遠しい。そして政権を担う女性閣僚たちの装いも注目されそうで、こちらからも目が離せない。
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- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- PHOTO :
- Getty Images(Image)
- WRITING :
- 藤岡篤子
- EDIT :
- 石原あや乃