以前、水炊きの店をご案内したように、福岡の食事に欠かせないのが鶏料理。なかでも焼き鳥は、人口あたりの店の数は日本一とも言われ、その気軽さや串の豊富なバラエティーなど、かしこまらずにコミュニケーションするのに大活躍。多くの人に愛されてワイワイ賑わうイメージですが、焼き鳥を繊細な料理として提供する上質な空間なら、女性の方にも喜んでいただけるはず。凛とした焼き鳥と向き合うことで、魅力あるギャップも楽しんでもらいたいと思うのです。

今回ご紹介するのは、そんな大人の雰囲気にあふれる焼き鳥の店。ワインとのマリアージュや日本料理の繊細さを提案する落ち着きある一軒、博多駅に近い祇園の界隈に佇む「萬鳥(ばんちょう)」です。デートや記念日、接待に使われることが多いという特別な焼き鳥の世界をどうぞ楽しんでください。

福岡は祇園にある焼き鳥店「萬鳥(ばんちょう)」外観

真っ直ぐに奥深く

鶏と向き合う、その真っ直ぐな姿勢を感じるのが和モダンのシンプルな店内。店の顔になるのは美しい一枚板のカウンター。仕込みを終えた鶏はきちんとネタ箱ごとに冷蔵され、焼き場も準備万端。キレイに整った空間は心の整頓ができている証であり、迎えてくれた店主・高﨑賢司さんへ今日の注文をお願いするところからうれしくなります。「ひととおり」と呼ばれるフルコースは5種、7種、9種と串の数で選べ、この店らしさをしっかり楽しませてくれるディナー。先付の一品から刺身、そして渾身の焼き鳥を順に楽しむコースで、〆のご飯を追加すれば「そぼろ丼」か「鶏茶漬け」を選ぶことができます。さあ、「萬鳥」の焼き鳥をゆっくりと楽しみましょう。

店主の心意気を感じる「萬鳥」の整った店内

まずは先付の「焼きごま豆腐」。食べ始める頃合いを見計らって客ごとに焼かれるごま豆腐は、熱々でパリッとした外皮とトロリとしたごま豆腐の食感が絶品。甘すぎない醤油ダレの餡とワサビを合わせていただきます。続いては、朝引きの丸鶏を使う新鮮な「鶏刺し」。昆布締めされたムネ肉は、そのまま風味を楽しみながら好みで塩を合わせて。レバーとハツは、ごま油やワサビ醤油を使います。ムネ肉のしっとりとした爽やかさ、やわらかで濃厚なレバーにハツのプリッとした歯ごたえ。部位ごとのおいしさを味わいながら鮮度の確かさを実感すると、始まりにしてこの店の奥深さに引き込まれているのがわかります。

丁寧に炭火を操って

鶏の旨味を引き出す料理人の最も大切な技は焼き加減。「萬鳥」が使うのは強力な火力が出せるという土佐の備長炭。その火力を巧みに操り、外の焦げを活かしながら内まで火を通し、おいしさを閉じ込めていく店主の動きは繊細そのもの。焼き場では細かく頻繁に炭を装っては火力を上げ、串に合わせて一本一本、焼き色を確認しながら火力を加減していくのです。「焼いている先だけ焦げたり、全体にムラが出来ないように火の通り道を細かく作っているんです」と高﨑さん。今回7種でオーダーしたおまかせの「ひととおり」は、そのどれもが今こそうまい! と唸るタイミングでの提供。「さび焼」「砂肝」「ねぎ巻」「軟骨」「マッシュルーム」「ハツ元」「だんご」という7本の焼き鳥も、新鮮な素材のうまさを引き出せるように、それぞれ焼き方が違います。記憶に留められるほどのおいしさには、細かい心遣いと技術があるのです。

一本ずつ、焼き色を丁寧に確認しながら、火力を調節する店主の高﨑さん

コースの数を超えて焼き鳥を楽しみたい場合は、単品として追加串をお願いでき、希望の串をコース仕立てにしてもらうことも可能。また、串ごとにワインや日本酒と合わせる楽しみも「萬鳥」らしさ。店主のアドバイスに面白い発見もあるのです。

日本料理としての焼き鳥へ

料理の道を目指したのは高校卒業後。ずっと野球少年だったという高﨑さんは、人気焼き鳥店「鳥次」での7年の修業で鶏肉の魅力に取り付かれ、飲食店主としては珍しい「食鳥処理衛生管理者」という国家資格まで取得。さらに貪欲に西中洲のミシュランひとつ星店である「しらに田」でも2年の修業を通して和食の深い世界に触れ、その想いや技術を高めてきたそう。「焼き鳥をもっと、日本料理という高みへ押し上げていきたいんですよね」。鶏に合わせる食材を広げてみたり、コースの中に季節感を出していくなどの試みも、鶏に魅了された高﨑さんらしい想いの表れ。焼き鳥を超えたおいしさのために工夫を続けようとするチャレンジこそ「萬鳥」の在り方かもしれません。

コースの始まりに「焼きごま豆腐」。餡とのコントラストもうれしい
鮮やかな皿に合わせた3種の刺身。左「ムネ肉の昆布締め」、右奥「レバー」、右手前は「ハツ」
ささ身をレアな状態でワサビと味わう「さび焼」。ほんのりピンクの焼き加減
沖縄の塩をしっかりとまぶしておいしさを閉じ込めた「砂肝」
「ねぎ巻」の巻き方は名店「鳥次」仕込み。キレのいいさっぱりとしたタレも大人向け
口直しに「新タマネギのピクルス」を添えて香ばしい「軟骨」を
「ブラウンマッシュルーム」そのものが濃厚な味わい
鶏肉の旨味がギュッと詰まった「だんご」。もはや串モノでもない一品料理
鶏の大動脈の肉厚な感じがクセになる「ハツ元」
丸鶏を使うからこそ生まれた「とり皮」。首だけでなく胸やモモなど、いろんな部位の皮を使っておいしさが詰まった1本は「萬鳥」ならでは
さっぱりしたタレが合う焼き鳥らしい「かしわ」
「レバー」とろけるようなレア感、濃厚な味わいが嬉しくなる

問い合わせ先

  • 焼き鳥とワイン 萬鳥 
  • 営業時間/17:30~L.O.23:30
    定休日/日
    メニュー/コース[5種]¥2,500、[7種]¥2,900、[9種]¥3,300
    ※+¥300でそぼろ丼、鶏スープ、新香。追加串+¥300(1本)
    ※一品料理もあります
    TEL:092-262-5515
    住所/福岡県福岡市博多区祇園町2-21 フェルト627-1F

この記事の執筆者
TEXT :
鳥越 毅さん 編集家
2017.12.16 更新
熊本で情報誌の編集・制作に携わり、1990年に福岡へ。発展する街で人気タウン誌の編集・営業ディレクターなどを経て、2010年よりグルメマガジン「ソワニエ」制作チームとして福岡の「食」の魅力を発信中。2014年、『ふくおか手みやげ自慢』を発行。好きなもの:九州旅、路地散策、古民家、隠れ家、コーヒー、ウイスキー、日本酒、陶磁器、短距離走
WRITING :
鳥越 剛
EDIT :
安念美和子