今、世界の女性リーダーが注目され、国内でもその数の増加が叫ばれています。そこで、『Precious』8月号では、各分野で活躍する女性に「決断」をテーマにインタビュー。「女性リーダーのYesの包容力、Noの決断力」と題して掲載しています。
その中から今回は、生命科学研究者・高橋祥子さんのインタビューをお届けします。日本初の「個人向け遺伝子解析サービス」というビジネスに挑戦する高橋さんの「決断」への覚悟とは?
Women leaders3 ■ 高橋祥子さん[生命科学研究者・「ジーンクエスト」代表取締役]
遺伝子研究のため、ゲノム解析ビジネスのため、「自分の選択を正解にすると決め切る」、そう決意したのです。
「起業は、わりとフランクな気持ちで決めたんです。もちろん大きな決断ではあったけど、ゲノム分野を発展させるためには、研究成果を生かしながら事業をつくり、結果的にその事業によって研究自体を加速させる。そんなサイエンスと社会のシナジーをつくることが必要だという確信がありました」(高橋さん、以下同様)
そこで始めたのが、日本初の個人向け遺伝子解析サービスだ。当時の高橋さんは、実績もビジネス経験もない大学院生。予想はしていたものの、各方面から賛否両論の声が寄せられた。
「『研究者には到底無理』『巻き込まれた人が不幸になる』などと否定され続ける日々。『研究者でいたほうがよかったのか』『それとも事業に専念するべきなのか』、何が正解かわからず、研究と事業の間でずっと葛藤していたんです」
そんなある日、経営者の先輩による【葛藤から気づき、学べ】という言葉にハッとする。
「私のなかで研究と事業はつながっている。ならば『ふたつともやりきる』と覚悟すればいいのだと腑に落ちました。その覚悟とは『どんな結果になろうとも後悔しない。晴々しい心でいると決断する』ということ。以来私は、大なり小なりすべてにおいて決断するくせをつけるようにしました。投資家へのプレゼンや会議の議題、さらにある夜のディナーメニューまで(笑)。そもそも未来は不確定なのだから、正解かどうかを迷うより『選択した道を正解にすると決め切る』。そのほうが大切だとわかったんです」
ちなみに高橋さんは、チームメンバーに対して「基本的にNOと言うことはない」そう。
「見当違いと感じた場合は、その考えに至った背景を共有できていないだけ。私は10年後を見ているけど、相手は今期を見ている。私は会社全体を見ているけど、相手は部署単位で考えている…など。視野を共有することに心をくだけば、価値ある意見が上がってきます」
さらに、自分を「NO」と否定する人への考え方も、ずいぶんと変わってきた。
「新しいことを始める人は、必ず否定されるもの。それは生物学上、開拓の遺伝子には個人差があって、その多様性こそが生物生存の確率を上げているからです。開拓派だけでは絶滅してしまう。慎重派、反対派がいてこそ生命は成り立っていると考えれば、そこはもう感謝すべきなんですよね。生命科学とは、不思議で論理的で希望に満ちている。そこに身をおき、事業展開できる幸せを噛みしめています」
- WRITING :
- 本庄真穂
- DIRECTION :
- 喜多容子(Precious)