今、世界の女性リーダーが注目され、国内でもその数の増加が叫ばれています。そこで、『Precious』8月号では、各分野で活躍する女性に「決断」をテーマにインタビュー。「女性リーダーのYesの包容力、Noの決断力」と題して掲載しています。

その中から今回は、ユニセフの教育専門官として世界中で活躍する井本直歩子さんのインタビューをお届けます。「決断」にほぼ迷ったことがないという井本さんに、途上国や紛争地での活動の様子をおうかがいしました。

撮影/洞澤佐智子
井本 直歩子さん
「ユニセフ」教育専門官
(いもと・なおこ)1976年生まれ。3歳から水泳を始め、1996年アトランタ五輪にて800mリレー4位入賞。慶應義塾大、米サザンメソジスト大、英マンチェスター大大学院卒。2003年から国際協力機構、2007年からユニセフで主に災害・紛争国に教育専門官として赴任。現在休職中。2020年3月、コロナ禍で日本の代表団が渡航を断念したオリンピックの聖火リレー引継式にて、代表者代行としてトーチを受け取った。

Women leaders4 ■ 井本直歩子さん [「ユニセフ」教育専門官]

100人のリーダーがいれば、100のリーダー像をつくればいい。そんな個性溢れた社会を目指して、世界を奔走しています

キャリア_1,インタビュー_1

スリランカ、ハイチ、フィリピン、マリ、ギリシャ…。「ユニセフ」の教育専門官として、途上国や紛争地の人々を支援すべく、井本さんは世界各地を駆け巡ってきた。

「これまでのキャリアを振り返ってみても、決断で迷ったり悩んだりしたことは、ほぼないんですよね。なぜなら私は人道支援家で、今この瞬間も助けを必要としている人が大勢いるから。やるかやらないかではなく『やらなければならない』ことしか存在しないんです」(井本さん、以下同様)

軽やかな笑顔でそう答えるが、相対してきたのは凄まじい惨状で暮らす人々。成功体験が少なく、希望ある未来を描くことができないスタッフらに、どうアプローチするのだろう。

「自分がまず動いて、その背中を見せ、ついてきてもらいます。紛争中のマリで学校再開事業を推し進めるときもそうでした。地域に入ることさえ危ぶまれる状況でしたが、文献を熟読し、人々の声を聞き、プロポーザルを起こしたあとは、とにかくまず現地入り。周囲は傍観するなか、最終的に数万人もの子供たちが平和へのメッセージを発信するイベントをやり遂げたのです。現地の先生から知事らまでが涙を流して拍手喝采するその様子は、今も強く私の記憶に刻まれています」 

深い憎しみゆえ、民族同士の融和などありえない。そう考える人々の心を溶かしてきた。

「そのために、各現場のキーマンである知事や局長、部族の首長などに挑んできました。威厳を見せつける強面の彼らに私が手渡すのは、誠意、素直さ、打算のなさ。政治もお金も絡んでいないこと、お互いにメリットがあることをゆっくり丁寧に語りかける。その繰り返しでここまでたどり着いた気がします」 

現在、東京オリンピックパラリンピック組織委員会のジェンダー平等推進チームのアドバイザーとしても活躍する。

「私が大好きなのが、ニュージーランドのアーダーン首相。平易な言葉で語りかける姿にいつも感動しています。もはや理想のリーダー像など存在しなくて、今必要なのは、100人いれば100通りのリーダー像があり、それを受け入れる社会ではないでしょうか。私の座右の銘は、アメリカの自動車王、ヘンリー・フォードのこの言葉です。『Whether you think you can, or you can't, you're right.(あなたができると思おうと、できないと思おうと、どちらも正しい)』。要は何事も自分しだい、できると思えばそれはかなうのです。これからもこの言葉を胸に、未来を切り開いていくつもりです」

 

WRITING :
本庄真穂
DIRECTION :
喜多容子(Precious)