ブランディングディレクターとして活躍中の行方ひさこさんに、日本各地で出会った趣のある品や、その作り手たちをご紹介いただく連載企画「行方ひさこの合縁奇縁」。第4回目は、京都の老舗漆メーカー 堤淺吉漆店の金継ぎコフレです。
継ぐを繋ぐ、その一歩に。動画付きで分かりやすい金継ぎコフレ
明治42年より漆の京都にて精製と販売を行う堤淺吉漆店は、採取された漆を仕入れ、生漆精製から塗漆精製、調合、調色を一貫して自社で行う漆メーカー。受け継がれてきた伝統の工法に加え、新たに開発した高分散精製工法を駆使して様々なニーズに合う漆を作り出している老舗の漆店です。
今回ご紹介させていただくのは、そんな漆を知り尽くした漆店が作るスタイリッシュな金継ぎコフレです。
漆との関係と現状
漆は、日本をはじめ中国、朝鮮半島で古くから栽培されている落葉樹から採取される自然の樹脂です。樹の幹を引っ搔くと出てくる樹液は加工され、塗料としてだけでなく接着剤としても使用されてきました。とはいえ、10年~15年の成木から牛乳瓶1本分ほどしか採取出来ない、貴重な自然の恵みなのです。
私たちと漆との関係は縄文時代まで遡ります。およそ12,000年前の漆の木片が見つかっていることからも、かなり古くから使われてきたものであると言えます。 耐熱・耐湿・抗菌・防腐に加えて独特の光沢を得られる漆は、ただ美しいだけではなく実用的だからこそ長く使われてきたのです。世界最古の天然塗料であり、世界で一番強力な接着剤とも言われています。
4代目堤 卓也さんがおっしゃるには、精製できる場所は日本に10軒ほどしかなく、採れる量も15年前に100トンだった市場は、現在36トンにまで減っているとのこと。そして、国内で使用される漆のうち国内産はわずか3%足らずだそうです。
日本産の漆を守るため
文化庁は平成27年から国宝などの建造物の修復に、全面的に日本産漆の使用する方針を発表しました。日本産漆の需要が増えることになりましたが、供給は間に合うのでしょうか。原料の問題だけでなく、今まで国産漆を支えてきた方々の年齢や後継者問題もあります。
卓也さんは日本産漆を絶やさないため、「物を大切にする気持ち」や「永く丁寧に使うことによる愛着」、「世代を超えて使い続けること」などが失われないよう、まずは漆のことを知ってもらうべく「urushi no ippo」という冊子を作り、漆の可能性や魅力を伝える活動をしています。また、様々な場所でのイベントにも意欲的に参加されています。
漆屋が作る金継ぎコフレ
漆について一歩踏み出した想いの中から生まれたのが、堤浅吉漆店が作る動画解説付きの金継ぎキット「金継ぎコフレ」です。
初めて挑戦する人を想定して作られている動画はとても分かりやすく、金継ぎは難しいのでは?と手を出せずにいる人の敷居をかなり低くしてくれます。動画は工程に沿って数回に分かれていて、とても見やすい! 準備から片付けまでスムーズに行うことができます。1人でも、数人で集まって作業をするのもこれがあれば、お教室に通わなくてもしっかりと学ぶことができるのです。
なによりお部屋に置いてあっても邪魔にならない無駄のないミニマルでスッキリとしたデザインがいいですよね。
こちらが金継ぎコフレの内容。小麦粉やサラダ油といったどのご家庭でも用意できるもの以外は道具を含め全て揃っている、ほぼオールインワンの優れもの。
それぞれのアイテムはサイトにて1つずつ追加で購入することもできるので、全てを買い換える必要がなく、なくなったものだけ足していけばずっと使い続けられます。
なくしたくないもの。
原料がなくなってしまったり、さまざまな理由から現在では再現できない、残念ながら現実的に作れないものはたくさん存在します。存在するというよりは、日に日に増えつつあります。
古いものからインスピレーションを受けて作り上げられるもの、は多いと思います。古いものの中にある価値に敏感であることが、私たちの物づくりに大きな影響を与えているのではないでしょうか。「唐津焼」のように、一度途絶えてしまったものを再現して再構築されてきているものもありますが、なくなってからでは遅いものも多いはず。
時代の流れとともに消えてしまうものは多いですが、一度、本当にそれでいいのか考える余裕を持ちたいものです。
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- 行方ひさこ ブランディングディレクター
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- WRITING :
- 行方ひさこ