2022年、気になる!「食」のキーワード|食の“今”と“未来”を、食に携わるプロが考察!

 

大切な人と集い、語らい、おいしい食事とお酒を楽しむ。あるいは、ひとりでゆっくり、心地いい空間で温かい食事を味わう。当たり前だと思っていたそんな時間や場所が、どれだけ大切なものだったのか。

レストランをはじめとする飲食店の存在、ステイホームが続くなか、自宅でどう食事を楽しむか、SDGs的視点から知る食資源の未来など、「食べる」ということについて、改めて考えてみた方も多かったのではないでしょうか。

今、「食」の世界は、大きな変化に直面しています。そこで、食の仕事に関わるプロの方5名に、2022年の「食」にまつわるキーワードをお聞きしました。五者五様の観点で語られる食の“今”と“未来”のお話には、厳しい現実と向き合う、「食」に携わるあらゆる方への深い愛情とリスペクト、応援のメッセージが込められているような気がしました。少しずつ、おいしい時間、楽しい空間を取り戻しつつある今こそ、「食べること」について、一緒に考えてみませんか。

今回は、文筆家である井川直子さんのキーワード、「超・レストラン」をお送りします。

井川直子さんの写真
 
井川 直子さん
文筆家
(いかわ なおこ)料理人や生産者、醸造家など、食と酒にまつわることをテーマに取材、執筆。著書に『昭和の店に惹かれる理由』『シェフを「つづける」ということ』など多数。緊急事態宣言下で取材、シェフたちのリアルが詰まった近著の『シェフたちのコロナ禍』は、話題に。

超・レストラン~文筆家・井川直子さん

レストランの役割や存在意義について、これほど真剣に考えた年があったでしょうか。

これまでも、レストランはただ飲食をするだけの場ではない、と人々が気付いたきっかけはありました。例えば2011年の東日本大震災後。安心感を求め、地元密着型の店が人々の心の拠りどころになりました。

今回のコロナ禍においても同様です。不要不急の外出は避け、密を避け、移動はできるだけ控えよ、となると、ある意味、街とつながり、地元の人に愛される“街のホットステーション”的存在の店は、この苦境に強かったのではないかと思います。

時短営業中でも、常連さんたちが短い時間でさっと訪れて食事をしたり、テイクアウトを積極的に利用してくれたり。時節柄、皆、新規開拓店にはなかなか行かないでしょうし、味はもちろん、清潔であるかどうかなど、客側が状況をわかっている店、つまり、日頃からお客との信頼関係をしっかり築けている店は強かったと思います。

「レストランは人と人をつなげ、社会をつくる。これまで以上に大切な拠りどころになります」(井川 直子さん)

東京・渋谷の人気居酒屋「高太郎」の店主、林高太郎さんが、コロナ禍での取材の際、言っていたことがとても印象に残っています。

「常連さんに言われた『お店は君の人格だよね。それが好きで来ているんだよ』という言葉で、今後、僕ら飲食店はどうあるべきか、進むべき道が見えました」と。同時に、「グルメサイトの点数が高いことより、その人の頭の中で、最初に思い浮かぶ店でありたい」とも。

この言葉には、2022年だけでなく、これから先もずっと、レストランの役割を考えるうえでの大切なヒントが隠されているような気がします。

また、飲食店にとって非常に厳しいこの時期に、イタリアン「リ・カーリカ」は食材&ワイン「リ・カーリカ・ランド」を、「イタリア料理 樋ひ渡わたし」は惣菜「芝惣菜所」を、「オルランド」はイタリアパン「ヴィヴィアーニ」を、フレンチの「オード」はカフェ「BGM」を、それぞれオープンしました。

そこには、自粛や休業が続くなか、スタッフのモチベーションのキープや店の継続のためもありますが「コロナ禍で地元の人に助けてもらった。僕らができることで地元に貢献したい。おいしい食事のほか、ホッとできる場の提供など、恩返しがしたい」というシェフたちの思いが込められています。

レストラン_1
メニューに印刷されたQRコードにスマホをかざし、食材の産地や生産者の情報につなげる試みも

結果として、デリやテイクアウトはもちろん、レストランで使用する野菜や調味料、道具、お酒、関連本やオリジナル商品の販売、イベントの開催など、レストランは飲食の場だけでなく、その周辺のものを売り、生産者とお客をつなぐ貴重な“場”となったのです。

さらに、メニューに印刷されたQRコードにスマホをかざすと、料理に使われている食材の生産者の動画が流れるなど、ITを活用して、お客と産地や生産者、料理人をつなぐおもしろい試みも。

つまり、今やレストランは、レストランを超えた存在。“超・レストラン”がキーワードといえます。レストランは、テーブルの上だけでなく、その外に広がる社会とつながり、社会をつくる。これまで以上に大切な、人々の拠りどころとなっていくと思います。

ILLUSTRATION :
Adrian Hogan
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)