2022年、気になる!「食」のキーワード|食の“今”と“未来”を、食に携わるプロが考察!

 

大切な人と集い、語らい、おいしい食事とお酒を楽しむ。あるいは、ひとりでゆっくり、心地いい空間で温かい食事を味わう。当たり前だと思っていたそんな時間や場所が、どれだけ大切なものだったのか。

レストランをはじめとする飲食店の存在、ステイホームが続くなか、自宅でどう食事を楽しむか、SDGs的視点から知る食資源の未来など、「食べる」ということについて、改めて考えてみた方も多かったのではないでしょうか。

今、「食」の世界は、大きな変化に直面しています。そこで、食の仕事に関わるプロの方5名に、2022年の「食」にまつわるキーワードをお聞きしました。五者五様の観点で語られる食の“今”と“未来”のお話には、厳しい現実と向き合う、「食」に携わるあらゆる方への深い愛情とリスペクト、応援のメッセージが込められているような気がしました。少しずつ、おいしい時間、楽しい空間を取り戻しつつある今こそ、「食べること」について、一緒に考えてみませんか。

今回は、フードライターの森脇慶子さんに「ミールキットと原点回帰」をキーワードにお話しいただきました。

森脇慶子さんの写真
 
森脇 慶子さん
フードライター
(もりわき けいこ)『dancyu』はじめ、数々の女性誌で活躍。取材はもちろん、プライベートでもひたすら食べ歩き、“おいしい店”を真摯に追求する姿勢にファン多し。鮎、ふかひれが大好物。著書に『フランスで料理修業』『一流シェフたちのカンタンまかないレシピ』など。

ミールキットと原点回帰~フードライター・森脇慶子さん

地方の名産品や、名店の味を楽しみたい。これまでの「お取り寄せ」は、東京からはなかなか足を運ぶことができない地方の名品(あるいはその逆で、地方の方が東京の名品を取り寄せる)が中心でした。

ところが、このコロナ禍において、新しいかたちの「お取り寄せ」が生まれました。東京の人が東京の名店の味を取り寄せたり、テイクアウトしたり。あるいは、これまでその店に行かないと食べられなかった名店が、店の味をそのまま楽しめるセットの販売をスタートさせるなど、外出や旅が難しい時代に対応した「お取り寄せ」が誕生したのです。

少しずつ収束に向かっているコロナ禍ですが、以前と同じような外出ライフに戻るかというと、必ずしもそうではないと思います。人によっては、家で食べる楽しさを再認識したり、リモートワークの定着によって生活リズムそのものが変わり夕食時間が早まったからやっぱり家で…など、お取り寄せやテイクアウトを自宅で楽しむことは、今後、非日常ではなく、ステイホームの食事として定着化するでしょう。

家_1,習慣_1
 

例えば、ミシュラン2つ星の名店「NARISAWA」がスタートさせた通販は、そのために本格的なラボを用意し、レストランでつくった料理をすぐにそこに運んで詰め込むシステムを導入。おいしさはもちろん、清潔で美しく、お店の味をそのまま自宅で楽しめると、コロナ禍でお店に行けない常連さんは毎週楽しみにオーダーしているそうです。その期待に応えるべく、毎週メニューを変えているとか。

また、ゆでたり和えたりするパスタ&リゾットのセットや、焼いたり煮たりして仕上げる懐石セット、ネタと粉と卵水、特製揚げ油まで付いてくる「石かわ」の天ぷらセット(天つゆや大根おろし付き)など、ひと手間かける系のセットも続々登場。

ただ箱を開けて食べるだけ、ではなく、最終的な仕上げだけはこちらでやるという達成感があるうえ、余ったソースやだしなどは別の料理にアレンジできる楽しさもあります。

「ひと手間加えて、お店の味を自宅で楽しめるミールキットは、家ごはんの新たな形に」(森脇 慶子さん)

そんな、いわゆる「ミールキット」形式のお取り寄せやテイクアウトは、2022年、新たなジャンルとしてさらに進化すると思います。

それから、次の予約は数年後…や、高騰し続けるコースの価格、一斉スタート制など、少し熱に浮かれていたような飲食業界もコロナ禍で今後はもう少し地に足のついたムードになると思います。

さらにフレンチでは、素材の味をシンプルに楽しむ非常にプリミティブな調理法の「薪焼き」にこだわる店が増えていたり、中華では、エビチリ、カニ玉、チンジャオロースといった誰もが知っている味、ほっとする料理がしみじみおいしい町中華が注目されていたりと、2022年は、「原点回帰」ももうひとつのキーワードといえます。

イノベーティブな料理、技巧を追求したひと皿よりも、“わかりやすさ”や“安心感”がベースにあるのは、コロナ前の飲食業界に漂っていたある種のバブル感に、人々が疲れてしまった部分もあるかもしれません。ステイホームは、今一度、本当に楽しい食事、おいしい食事についてみんなが考えるきっかけになったといえます。

ILLUSTRATION :
Adrian Hogan
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)