ブランディングディレクターとして活躍中の行方ひさこさんに、日本各地で出会った趣のある品や、その作り手たちをご紹介いただく連載企画「行方ひさこの合縁奇縁」。今回は第6回目。名古屋の大須ういろが、昔ながらのお菓子に新しい風を吹き込んだ「初(うい)」です。
【大須ういろ「初(うい)」】繋いできた文化に価値を加え、さらに先へ
昔から「ういろう」といえば、小田原、京都、山口など各地で名物やお土産物、庶民に親しまれるお菓子として知られています。現在では、日常的に食べるというよりは、お土産としていただいたり、旅の思い出と共に買ってきたりするイメージの方が大きいかもしれません。
そんな「ういろう」の老舗の1つ、1947年に名古屋で創業した大須ういろからリリースされた新ブランド、「初(うい)」をご紹介します。
老舗だからこその守るべきこと、挑むべきこと。
「ういろう」は、各地域により「ういろう」「ういろ」「外郎」「外良」と呼び方も様々、味も原材料も食べられる用途も少しずつ異なったようです。室町時代に京都で生まれたと言われるういろうですが、名古屋ではシンプルに米粉と砂糖を蒸しあげたもの。
大須ういろは、このシンプルな素材と製法だからこそ、ごまかしが利かないと日々少しでも美味しいういろうを作るために試行錯誤を続けています。もちろん、美味しい!のその前に、より安心安全な素材を使うことへの探究心も忘れません。
目に付きやすく、多くの方々に求めてもらえるお土産にするため、香料と着色料で派手な見た目にした時代もありました。でも、今はういろうに愚直に向き合い、日本の文化としてのういろうを大切に未来に繋げていくという強い意志があります。
創業当時の想いをたどり、ういろうに対する基本的な姿勢はそのままに、今あるべき形を探し、何年も奮闘し続けているのです。
昔から、主な売り場はお土産屋というのが常識であったういろう。現在お土産としてのういろうは、日持ちすることが一番求められます。日持ちをさせることにプライオリティを置くと素材に制約が生まれますし、どうしても米粉の風味が損なわれてしまう。
日常的に気軽に食べてもらえるおやつとして、どうしたら良いのか、どうしたら正しく伝わるのか。日本の食文化としてのういろうを伝えていくには、子供たちにこそ食べてもらいたい。それには、母親や子供たちにとって魅力的にしていく必要があります。
自分たち、子供たちが安心して食べられる、食べたい!と思うものを作るには、きちんとものを作る体制を整えていくことが必要でした。人を育て、みんなの意識を変えるには10年はかかる。でも、受け継ぎ、次の世代に繋いでいくことを考えると、着実にやり遂げなくてはなりません。
今までの常識にとらわれない広く深い目を持ち、様々なアイディアを活かし、ういろうを通して魅力的な目的地を作る、これが大須ういろの目指す姿です。
アイスキャンディのように、長方形のういろうを細い棒に刺した「ウイロバー」という他にはない商品を作り出し、次に最中の皮にういろうと餡を挟んで食べる「ういろモナカ」を開発。若い子たちに手に取ってもらえるようデザインの力を味方につけ、おしゃれすぎず、少し懐かしいちょうど良い世界観を作り出し、次々とヒットを生んできました。
厳選した素材とグルテンフリーという選択
そして、たどり着いたのが、よりお米の風味を大切にした小麦粉を一切使わない生ういろう、「初(うい)」です。創業当時の気持ちに帰るという気持ちから「初(うい)」と名付けたそう。契約米屋から取り寄せるお米をはじめ、より素材を吟味し、食感、味、大きさ、形など何度も考え抜いて作り上げたこだわりの商品たちです。
新ブランドとして生まれた「初(うい)」は、「基(もと)の初」をはじめとして、香り高い7種のお茶を使用した「創(さう)の初」や、小豆の種類と含有量を変えることで自分の好みを見つけ、味わいの繊細さを体験できる「創の初 – あんlover」、和菓子ならではの四季折々の美味しさを表現した「折々の初」などバリエーションも豊富です。
そして、さらに子供用ういろうも。
可愛らしいロボットと恐竜の形と、口に入れてからも楽しい新しい味と素材は遊び心あふれる逸品です。こちらは、「こどもの初 – あさぎ」。きび砂糖、ゆず、黒胡麻、紫芋、八女抹茶の5つのフレーバー。食育にも良いですし、子供の日の贈り物にしても、安心して楽しめます。
今、あるべき形とは。
これら「初(うい)」は、冷凍保存、自然解凍。一切の余計なものを削ぎ落とした形にしたら、ここにたどり着いたと言います。
この形と製法を思いついたのは、6年前のこと。大須ういろの開発で蓄積してきた経験と大量生産ラインではできなかったことから学んだことの集大成。まさにスクラップ&ビルドだったそう。パティシエが工場に参加したことにより、材料選びや素材の組み合わせなど、今まででは考えられないほど幅が広がって、ここに至ります。
ここから自信を持って世に送り出せる商品が控えている、と副社長の英里さん。自宅でお子さんと楽しめる商品で、ういろうの手軽さと美味しさ、そして多様なアレンジができるものだそう。老舗だからこそ、守るべきものは守り、挑むところは大きく挑む。日本が繋いできた食文化にきちんとした価値をつけ、次に繋いでいくための挑戦は続きます。これからも目が離せません。
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- TEXT :
- 行方ひさこ ブランディングディレクター
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- WRITING :
- 行方ひさこ