上司の家など会社関係の人の家に招かれたら、招いてもらったことへの感謝の気持ちを忘れずにふるまいたいもの。けれども、敬語の使い方がわからないと、言い方に迷ってしまい、相手に配慮する気持ちの余裕がなくなってしまいます。

程よい緊張感の中で和やかな時間を過ごすためにも、ある程度のシミュレーションをしておくのが、いざというときに失敗しないコツ。

そこで今回は、「家を訪問する」場面にふさわしい敬語の使い方を、ビジネスマナー・敬語講師の井上明美さんに解説していただきます。何気ないフレーズをよい印象に変える、素敵な言い回しを学んでいきましょう。

■1:「道に迷っちゃいまして……」は△

道に迷っちゃいまして

訪問先に行く途中で道に迷ってしまい、時間に遅れた場合は「どうも遅くなって申し訳ございません。少々道に迷ってしまいまして……」が正解。

到着するのが遅くなったのだとしたら「どうも遅くなって申し訳ございません」とひとことお詫びします。

あるいは、迷ってしまって「今この辺りにいるのですが……」などと相手に電話をかけたのであれば「先程はお騒がせいたしまして」などの言葉を添え、「お騒がせいたしまして失礼いたしました。少々道に迷ってしまいまして……」と言うのもよいでしょう。

△:「道に迷っちゃいまして……」
○:「どうも遅くなって申し訳ございません。少々道に迷ってしまいまして……」

■2:「こんにちは。あがらせていただきます」は×

訪問先に着いたら、まずは「本日は、お招きいただきありがとうございます」と、招かれたことに対するお礼の言葉を述べます。そして「失礼いたします」「お邪魔いたします」などとあいさつしてから、家に上がります。

「すてきなお住まいですね」「駅から近くてとても便利ですね」など、相手の住居についての感想やほめる言葉をさりげなく添えるのもいいものです。

×:「こんにちは。あがらせていただきます」
○:「本日は、お招きいただきありがとうございます。失礼いたします」

■3:「あの、これどうぞ」も×

手土産を渡す際には、「気持ちばかりの物ですが」と言葉を添えます。渡す物の内容に関わらず、「気持ちばかりですが~」という言い方は、贈り物を渡す際の常套句として使われます。「心ばかりですが」「お口に合うとよろしいのですが」といった表現を使ってもよいでしょう。

相手との関係や状況にもよりますが、手土産は玄関先で渡すのではなく、客間に通されてあいさつをしてから渡すのが正式とされています。また、渡す時には紙袋から出して差し出すようにします。

ここでひとつ注意したい言葉に「おもたせ」という表現があります。近頃では、「こちらのお菓子、おもたせですが」のように、持って行く手土産の意味で使う人があると聞きます。

しかし「おもたせ」とは、本来はまったく違う意味です。「おもたせ」とは、「持たせ物」の略。お客様の持ってきた土産物を指します。使い方としては、そのお客様へのもてなしとして、お客様が持ってきたお菓子をその場で相手にすすめるときに「おもたせで恐縮ですが」「おもたせで失礼ですが」のように使います。

×:「あの、これどうぞ」
○:「気持ちばかりの物ですが」

■4:「きれいにされていますね」は△

きれいにされていますね

部屋の美しさをほめたい場合、「きれいになさってますね」が正解です。「される」という言い方も敬語なのですが、「される」より「なさる」の方が、敬意が上になります。

そもそも目上の方をほめるということ自体、難しいものがあります。このような場合は、ほめるというよりは、自分の感想を述べたほうが自然に、スマートに伝わります。

△:「きれいにされていますね」
○:「きれいになさってますね」

■5:「家ではどのように過ごされるのですか」も△

家での過ごし方を聞くときは、「おうち(お宅)ではどのようにお過ごしでいらっしゃるのですか」が適切。相手の家ですから、「家」は「お家(おうち)」「お宅」とします。

「過ごされる」という言い方は敬語にはなってはいますが、より丁寧な表現にするのであれば、「過ごしている」を尊敬語にした「お過ごしでいらっしゃる」に言い換え、「どのようにお過ごしでいらっしゃるのですか」とするとよいでしょう。

△:「家ではどのように過ごされるのですか」
○:「おうち(お宅)ではどのようにお過ごしでいらっしゃるのですか」

■6:「気にしないでください」は×

訪問先で飲み物などを勧められたときには、「恐れ入ります。どうぞお構い(おかまい)なく」と言います。

「お構いなく」という言葉は、訪問先での会話として、もてなす側、もてなされる側両方でよく耳にする表現です。「お構いなく」の「お構い」とは、心にかけ、もてなす、おもてなしの意味です。「なんのお構いもできませんで」「どうぞお構いなく」のように使われます。「気を遣わないでください」という意味の丁寧な表現になります。あるいは「どうかお気遣いなく」といった表現でもよいでしょう。

また、飲み物などを口にする前には「いただきます」「頂戴いたします」、飲み終わったときには「ごちそうさまでした」と、基本的なあいさつも忘れずにするようにしましょう。

×:「気にしないでください」
○:「恐れ入ります。どうぞお構いなく」

■7:「お茶はもう結構です」は△

お茶はもう結構です

飲み物などを勧められ、断りたい場合には、「いえいえ、もうたくさん頂戴いたしましたので…」というフレーズを。

「いえもう結構です」と言っても間違いではないのですが、やはり相手が言ってくれたことを遮断するような感じで、きつい印象を与えてしまうかもしれません。

ですから、もし言葉を変えるのであれば「いらない」と言うよりも、「たくさん頂戴しましたので~」という表現に。「いえ、もうたくさん頂戴いたしましたので……ありがとうございます・ご馳走様でした」とお礼の言葉も添えると、よりやわらかい表現として相手に伝わるでしょう。

△:「お茶はもう結構です」
○:「いえいえ、もうたくさん頂戴いたしましたので……(ありがとうございます・ご馳走様でした)」

■8:「そろそろ時間ですので帰ります」は×

そろそろ辞去して家に帰りたい場合、「そろそろ(時間でございますので)おいとまさせていただきます」が正しい言い方です。相手の家など訪問先から退出する意味を表す「おいとま(御暇)」という言葉がよく使われます。

「おいとま」という言葉は、奉公先などから離れる意味ももっており、「しばらくお暇をいただきます」といったように休暇を取るときなどにも使われます。

通常ここでの使い方としては、訪問先から退出する意味での「おいとま」という言葉になりますが、覚えておくとよい表現です。

よく使うフレーズを覚えておくだけで、とっさの場面でも相手への感謝や配慮が伝わる言い方ができます。言い換え例を参考に、ぜひ日頃から練習しておきましょう。

×:「そろそろ時間ですので帰ります」
○:「そろそろ(時間でございますので)おいとまさせていただきます」

井上明美さん
ビジネスマナー・敬語講師
(いのうえ あけみ)国語学者、故金田一春彦氏の元秘書。言葉の使い方や敬語の講師として、企業・学校などの教育研修の場で講義・指導を行う。長年の秘書経験に基づく、心くばりに重きを置いた実践的な指導内容には定評があり、話し方のほか、手紙の書き方に関する講演や執筆も多い。著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』『最新 手紙・メールのマナーQ&A 事典』(ともに小学館)、『知らずにまちがえている敬語』(祥伝社新書)、『大和ことばで書く短い手紙・はがき・一筆箋』(日本文芸社)、『一生使える「敬語の基本」が身につく本』(大和出版)など多数。Webサイト「ALL About」では、「手紙の書き方」のガイドを務めている。
『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』井上明美・著 小学館刊
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
小野寺るりこ