「できない」ということを丁寧に言い換えた「致しかねる」というフレーズ、あなたも便利に使っていませんか? 「できません」より「致しかねます」と言ったほうが語調が柔らかく、罪悪感も薄れるもの。「~かねる」という言い回しはほかにも使用する機会がありますが、一体この「かねる」って何? 本日はそんな疑問もスッキリ解決しながら、ビジネスシーンで敬語としの「致しかねます」を効果的に使用するコツを解説します。

【目次】

「致しかねます」と「出来かねます」はまったく同じ?
「致しかねます」と「出来かねます」はまったく同じ?

【「致しかねます」の「基礎知識」】

まずは「致しかねます」のフレーズとしての基礎を確認しましょう。

■読み方

「いたしかねます」と読みます。

■成り立ち

「致す」+「しかねる」=「致しかねる」の丁寧な言い回しが「致しかねます」です。

■意味

「致す」は「する」の謙譲語。「しかねる(し兼ねる)」は、それをすることに抵抗を感じたり、それをすることを拒否したりするワードです。したがって「致しかねます」は、「それをすることができません」という意味になります。

■誰に使える?

謙譲表現の「致しかねる」を丁寧に「致しかねます」としたこのフレーズは、目上の人、上司や取引先、お客様などに対して使用します。口頭でも文書としても使えます。

■漢字と平仮名、どっちがビジネス向き?

漢字を含む表記は、「致しかねます」「致し兼ねます」「いたし兼ねます」の3種類。

「致す」と「いたす」、ビジネス文書ではどちらも使われているのでお好みで。ただし、「大辞泉」には【敬語表現としては「いたします」とひらがなに】とあることも念頭に置いておきましょう。

「し兼ねる」の「兼」という漢字には、「大は小を兼ねる」や「兼用」のように、ひとつのものがふたつ以上の働きをする、あるいは複数のもので1つの役割をするという意味もあります。今回の「兼ねる」は別の意味なので、「かねます」と平仮名表記がおすすめです。

結果としては、「致しかねます」か「いたしかねます」で。平仮名が多くて読みにくい場合は「致しかねます」を用いるなど、文章全体を見て臨機応変に使用するのが、大人のビジネススキルというものですね。


【〇✕どっち!? 「致しかねます」の正しい使い方を例文でチェック!】

語調は柔らかですがきっぱり拒否する「致しかねます」は、ビジネスシーンで大変重宝するフレーズです。しかし、便利なだけに誤用も多く見受けられます。下記に正しい例文(+言い換え)と、誤った例文(+修正)を紹介しますので、参考にしてみてください。  

〇1:「返品のご対応は致しかねますので、あらかじめご了承ください」

言い換え:返品には応じられませんので、あらかじめご承知おきください。

〇2:「ご提案いただきました内容では承服いたしかねます。再度ご検討をお願いいたします」 

言い換え:「ご提案いただきました内容では承服に至りませんでした。再度ご検討をお願いいたします」

〇3:「申し訳ございませんが、お約束のない方のお取次ぎは致しかねます」

言い換え:申し訳ございませんが、お約束のない方のお取次ぎはお断りしております

✕4:「大変恐縮ですが、このたびの依頼はお受け致しかねます」

修正:大変残念ですが、このたびの依頼はお受けできかねます

✕5:「場合によっては、お取次ぎ致しかねる場合がございます。ご了承ください」

修正:場合によっては、お取次ぎできかねる場合がございます。ご了承ください。

4と5の誤用については、「致しかねます」ではなく「できかねます」を用いて正しい文章にしました。大変混同しやすい「致しかねる」と「出来かねる」、次の章で使い分けを確認しましょう。


【「致しかねます」と「できかねます」の違い】

どちらも拒絶や否定のフレーズなので混乱しますよね。下記のように使い分けると、敬語表現として正しく使えるでしょう。

・致しかねる/要望に応えたい気持ちはあるが、なんらかの事情や理由があってできない。

・できかねる/事情や理由の有無を問わず、物理的に(多くは時間的に)できない。

どちらを使うにしても、拒絶や否定は、双方にとって気持ちのいいものではありません。それが、取引先とのやりとりや顧客対応という、ビジネスシーンではなおさらです。前置きに「申し訳ございませんが」や「大変恐縮ですが」などの“クッション言葉”を用いて、表現をさらに和らげるのも一案です。


【「致しかねます」ビジネス使用の「注意点」】

・自分より目上の相手に。

・なんらかの事情や理由があってできない場合に。

・「申し訳ございませんが」などのクッション言葉や、「ご了承ください」などの結びフレーズも活用。

 

***

へりくだりつつ丁寧に断る「致しかねます」は、相手のことを慮った日本人らしいフレーズともいえますね。社会人として経験を積むほど、ネガティブな気持ちになりがちなシーンも多くなるもの。そんな場を和らげてくれるのも、相手にも自分にも優しい敬語表現ではないでしょうか? 明日も敬語のスキルアップを目指して、この連載にお越しください!

 

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『印象が飛躍的にアップする 大人の「言い方」練習帳』(総合法令出版)/『とっさに使える 敬語手帖』(新星出版社 :