何度訪れても、新たな魅力に出合う街、京都。なぜ、京都はこれほどまでに私たちを惹きつけてやまないのでしょうか。その謎を解くカギは、伝統と革新にあります。創業100年を超えないと老舗とは呼べないといわれる京都には、道具や小物、器、食にいたるまで、職人たちが何十年、何百年と受け継いできた伝統と技があるもの。

一方で、その確かな技術をベースに、使いやすさや、現代の暮らしになじむ美しいデザインなどを追求する革新的な動きも活発。特にここ数年は、老舗ののれんを守りつつ、新たなアプローチで自分たちの継承してきたものを現代に生かすべく挑戦する、若い世代が注目されているのです。

そもそも京都は、長い歴史をもちながら新しいもの好きの土地柄。古いものを大切に守りながら、新しいものを受け入れる懐の深さがあります。だからこそ、伝統と革新が違和感なく共存できるのです。そんな京都のおもしろさ、京都の今が感じられる名店・名皿を3回に渡ってご紹介していきます。

第1回目は、この冬に味わいたい「進化するニューウエーブ割烹」を食べすぎ系ライター・T、レストランジャーナリスト・I、ミーハー編集者・Eの3人がセレクト。ぜひこの冬、京都の最新割烹を堪能してみてください。

■1:目の前で引く出汁の豊かな香りに悶絶してしまう「木山」(丸太町)

丹後でとれる松葉蟹の身を、生きた鱧からつくるすり身でつないだ「蟹真丈のお椀」。目の前で引いたばかりの出汁が香り立ちます。
丹後でとれる松葉蟹の身を、生きた鱧からつくるすり身でつないだ「蟹真丈のお椀」。目の前で引いたばかりの出汁が香り立ちます。

表から御所の堺町御門が見える場所に暖簾を掲げるのは、京都和久傳・元料理長の木山義朗さん。旬の素材を繰り出すコースの目玉は、利尻昆布をつけておいた自前の井戸水をベースに目の前で引く出汁です。

まろやかな本枯れ節、コクが強い荒節というカツオ節とマグロ節のそれぞれ雄節(背側)、雌節(腹側)で使い分け、繊細に調整された出汁を味わえば、出汁こそ日本料理の骨格と実感できます。写真の料理はすべてコース¥15,000の一品です。

夜コースは「アワビとこのこと干子の飯蒸し」で開始。アワビを煮る際に出た出汁で炊いたもち米に、珍味をのせています。
夜コースは「アワビとこのこと干子の飯蒸し」で開始。アワビを煮る際に出た出汁で炊いたもち米に、珍味をのせています。
木山さんが太鼓判を押す伊崎洋明製麺の麺を使用し、追いガツオした出汁に蕪あんをのせた「蕪の煮麺」。
木山さんが太鼓判を押す伊崎洋明製麺の麺を使用し、追いガツオした出汁に蕪あんをのせた「蕪の煮麺」。
こちらは、小豆あんに実山椒をひそませた甘味「百合根の茶巾包み」。
こちらは、小豆あんに実山椒をひそませた甘味「百合根の茶巾包み」。

問い合わせ先

  • 木山 
  • 営業時間/12:00〜13:30(L.O.)、18:00〜19:30(L.O.)不定休
    コース/昼¥10,000〜、夜¥15,000〜 要予約
  • TEL:075-256-4460
    住所/京都府京都市中京区絹屋町136 ヴェルドール御所1F

■2:和の一品に仕上げた炭火焼きの和牛がたまらない「御幸町 田がわ」(京都市役所前)

A5ランクの仙台牛のイチボを特製のタレに漬けて炭火で焼き、揚げ銀杏入りのおろした蕪にべっこうあんをかけた「牛肉幽庵焼淡雪」。
A5ランクの仙台牛のイチボを特製のタレに漬けて炭火で焼き、揚げ銀杏入りのおろした蕪にべっこうあんをかけた「牛肉幽庵焼淡雪」。

祇園丸山、麻布 幸村という炭火焼きに定評のある2軒で修業した店主、田川喜章さん。自身の店でも意欲的に炭火焼きに取り組み、¥13,000のみのコースで魚と肉を出しています。

魚は旬のもので、冬は脂がのったノドグロやマナガツオの出番となります。肉はA5の黒毛和牛のランプかイチボと部位を絞って提供。蕪蒸しのあんをかけるなど、和の一品に仕上げた肉料理が評判を呼んでいます。写真の料理はすべて¥13,000コースの一品です。

炭火で焼いたタラの白子や海老芋が具の「白味噌仕立て海老芋と焼雲子」。
炭火で焼いたタラの白子や海老芋が具の「白味噌仕立て海老芋と焼雲子」。
こちらは、冬の冷たい日本海で甘みを増したズワイガニ、柚子釜や堀川ごぼうのウニ焼きなどを盛り合わせた「八寸」です。(写真は2人前)
こちらは、冬の冷たい日本海で甘みを増したズワイガニ、柚子釜や堀川ごぼうのウニ焼きなどを盛り合わせた「八寸」です。(写真は2人前)

問い合わせ先

  • 営業時間/18:00〜20:30(L.O.)不定休
    コース/¥13,000 要予約
    TEL:075-708-5936
    住所/京都府京都市中京区松本町575

■3:フグ&カニ入りの贅沢コースが絶品の「二条城 ふる田」(二条城前)

グツグツ、音を立ててやってくる「雲子、揚げ湯葉、針菜、柚子のみぞれ仕立ての小鍋」(¥13,000コースより)。具は炭火で炙ったタラの白子、白菜など。
グツグツ、音を立ててやってくる「雲子、揚げ湯葉、針菜、柚子のみぞれ仕立ての小鍋」(¥13,000コースより)。具は炭火で炙ったタラの白子、白菜など。

炭床を据えたカウンターで腕を振るうのは店主、古田幸平さん。小鍋に炭火で焼いたタラの白子を加えるなど、炭火焼きを巧みに取り入れながら、店主の叔父が滋賀・比良でつくる、小粒ながらもうま味の強い米を使った炊き込みご飯で大団円を迎えるコースを提供しています。

また、シーズン中はフグとともに日本海側の松葉ガニなどを使った特別コース(時価¥35,000~)も用意しているので、そちらも要チェックです。

問い合わせ先

■4:朝・昼・夕食が食べられる一軒「イカロ」(丸太町)

「お造り盛り合わせ」¥1,112。モンゴウイカ、〆サバ、サヨリ。真鯛は切り込みを入れてから皮目を炙った松皮造りと昆布〆とを1枚ずつ。
「お造り盛り合わせ」¥1,112。モンゴウイカ、〆サバ、サヨリ。真鯛は切り込みを入れてから皮目を炙った松皮造りと昆布〆とを1枚ずつ。

店主、山内葉一郎さんは29歳で潜水士を辞め、露庵 菊乃井で料理人として第2の人生をスタート。数店を経て、イタリアン・リストランテ キメラの厨房で働くも、自身の店の料理はあくまで和を貫いています。

お造り、焼き物、炊き合わせを、コースを中心にアラカルトでも提供。水が均一にしみ込むよう、含水調整をした米を使った炊き込みご飯も自慢。また、予約制で朝食や昼食も用意してくれます。

蓋を開けた瞬間、爽やかに木の芽が香る。焼いた明石の鯛の半身を炊き込んだ「鯛めし」は、土鍋の底に香ばしいおこげが。¥1,482。
蓋を開けた瞬間、爽やかに木の芽が香る。焼いた明石の鯛の半身を炊き込んだ「鯛めし」は、土鍋の底に香ばしいおこげが。¥1,482。

問い合わせ先

以上、老舗から新店まで、進化する京都の今を切り取る名皿を集めてみました。本稿で取り上げたお店について、ミーハー編集者・Eはパフォーマンスに注目。「目の前で出汁をとったり、炭火で焼いたり。京都の割烹ではパフォーマンス度がアップ」とのこと。

これに対して、レストランジャーナリスト・Iが「うちの得意料理はコレです! と強調しているわけだから、食べ手の心に残りやすいわよね」と同意。食べすぎ系ライター・Tは、「お店を選ぶときにお椀を食べたいから、焼き物を食べたいから、あの店という通の選択ができます!」と語っています。

それぞれのお店の場所も丸太町駅・京都市役所前駅・二条城前駅から歩いて行ける距離なので、「どのお店に行こう」と思ったらこのなかから選んでみてはいかがでしょうか。

食べすぎ系ライター・Tさん
母が京女の京都通としては、寒い時期の軽めのランチにかき卵のあんかけ「けいらん」のうどんを推したい。¥1000以下で京都のそば・うどん店ならほぼある、定番の味が楽しめる
レストランジャーナリスト・Iさん
最近、地方のレストランでは、素材そのものを生産者と一緒につくる協力体制ができている。その先端、富山を筆頭に地方がおもしろい。地方発の豊かな食文化に刺激されまくり。
ミーハー編集者・Eさん
京都の次は、偶然にも京都の姉妹都市フィレンツェ&トスカーナ取材へ。古都の最新美食事情とキャンティワインの魅力に迫る記事は、春号で掲載予定。下戸だけど頑張ります!

※掲載価格には基本的には消費税は含まれておりません。別途消費税8%が、また店舗によってはサービス料がかかります。

PHOTO :
田中 雅
EDIT :
寺尾妙子、遠藤智子(Precious)
RECONSTRUCT :
藤岡あかね
SUPERVISION :
犬養裕美子