2016年から2017年にかけて起こった森友・加計学園問題で、一躍“時のワード”となった「忖度」。2017年のユーキャン新語・流行語大賞となったことは記憶に新しいところですね。それ以前はあまりなじみがなかった単語なだけに、官邸の意向を官僚が「忖度」したのではないか、といった文脈で多用されたため、「忖度」というワード自体にネガティブなイメージをもっている人も少なくないでしょう。実は誤用も多いワードでもあるのです。今回はこの「忖度」についてしっかり理解し、ビジネスシーンでどう使えるのか学んでいきます。

【目次】

正しく「忖度」することが重要です
正しく「忖度」することが重要です。

【正しく知って有効活用!「忖度」の基礎知識】

■本来の「意味」

まずは、「忖度」という単語を詳細に見てみましょう。「忖」も「度」も「はかる」という意味をもち、「忖度」で「他人の心中やその考えなどを推しはかること」となります。

中国最古の詩集『詩経(しきょう)』(前11世紀から前6世紀ごろにかけての作品群)にも「忖度」の文字を見ることができ、日本では平安時代に菅原道真の自選漢詩集『菅家後集(かんけこうしゅう)』(10世紀初頭に編さん)に出てきたり、明治時代の二葉亭四迷の人気小説『浮雲』では「文三の感情、思想を忖度し得ないのも勿論の事では有るが」とも。今なら理解できますね。

■「政治」や「報道」での「意味」

森友・加計学園問題では、「〇〇に配慮して、本来なら選択されるはずのない××が行われた」といった意味で使用されていました。連日のテレビや新聞、週刊誌報道で知られることとなった「忖度」。公平・公正性が重んじられてしかるべき政治や報道の世界では、“NGワード”として印象づけられてしまいましたが、本来「忖度」自体にネガティブ要素はありません。

■「日常生活」での「意味」

気難しい上司の「顔色をうかがう」や、取引先の「ご機嫌をとる」、義母に「気を遣う」などは、私たちが日常的にしている「忖度」。これらの「忖度」は、良好な関係性を保つために必要な知恵ですね。

■「忖度しない」とは?

「忖度」は名詞ですから、「忖度する」「忖度した」「忖度があった」「忖度しない」「忖度しなかった」「忖度はなかった」といったふうに、「する・しない」「ある・ない」をつけて動詞として用います。

「忖度しない」「忖度がなかった」は、状況や誰かの思いなどとは無関係に規定通りに物事が進められた、ということです。


【「言い換え」も同時にわかる「正しい例文」と「間違い例文」】

「忖度する相手」は「気を遣うべき人」であることが多いため、一般的には上司など目上の人や取引先などに対してとる行動となります。ビジネスシーンを想定した「正しい例文」と「間違った例文」を見てみましょう。

■正しい例文1:「本日のミーティングでは、これまでの話し合いに忖度することなく、フレッシュな意見を期待しています」

この場合の「忖度」は、「遠慮」や「気兼ね」に言い換えられます。

■正しい例文2:「今夜の会食会場は、部長の体調や好みを忖度して選びました」

「忖度」を「考慮」や「合わせる」に言い換えても。

■正しい例文3:「得意先の意向を忖度して取り計らうようお願いします」

「配慮」に言い換えられます。

■正しい例文4:「決定権をもつ人物には、状況に応じて的確な忖度ができるサポート役が不可欠だ」

ここでは「忖度」を「判断」と言い換えても同様の意味に。

■間違い例文1:「部長が気まぐれな社長に忖度ばかりしているから、一向に開発が進まない」

この文章での「忖度」はネガティブワードとして使用しているので間違い。「イエスマンだから」や「振り回されているから」などが適切です。

■間違い例文2:「取引先の部長に忖度することで、今回の商談がまとまったようだ」

本来の意味を確認してみると、「忖度」というワード自体は「相手の心中を推測してよい行動をとる」という心配りを示すもの。この例文のように「手を回す」や「事前に先方の気に入るようなことをしたからよい結果が得られた」といった意味で使用するのはNGなのです。ここでは「根回し」などが正解です。上記2例は勘違しやすい使用例なので注意してください。 

このように「忖度」は誤用されやすいワードです。「相手の気持ちを推し量って裏から手を回した」というような意味で使われる場合がありますが、本来はそこまでの意味をもちません。「気持ちを推し量る」「気持ちを推し量って配慮する」という意味である点を理解しておきましょう。


【「類語」と「対義語」もしっかりチェック!】

■ビジネスシーンで使いやすい「類語」5選

1:「推測(すいそく)」ある事をもとにして想像によって判断すること。

2:「推察(すいさつ)」他人の事情や心の中をこうであろうと想像したり察したりすること。思いやること。

3:「斟酌(しんしゃく)」 相手の事情や心情をくみとること。

4:「顧慮(こりょ)」ある事を深く考えて、それに思いをめぐらすこと。気を配ること。

5:「慮る(おもんぱかる)」周囲の状況などをあれこれと考慮する。思いめぐらす。

■ビジネスシーンで使いやすい「対義語」3選

1:「独善(どくぜん)」自分だけが正しいとしてほかは取り上げないこと。独りよがり。

2:「利己的(りこてき)」自分の利益だけを中心に考え、他人の立場などを考えないで行動するさま。

3:「身勝手(みがって)」他人のことを考えず、自分の都合や利益だけを考えて行動すること。また、そのさまや、そのような態度のこと。わがまま。

対義語まで理解しておけば、「忖度」は決してネガティブワードではないことがよくわかりますね。

 

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今回の「忖度」については、よくないイメージをもっていた人も多かったのではないでしょうか。言葉は時代と共に変化していく場合があり、特にビジネスシーンでは注意が必要です。あいまいな理解のまま流行り言葉を使うのは危険! ひとつの単語について、類似語や対義語なども合わせて覚えておくと“大人の語彙力”アップにつながります。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社) /『一生分の教養が身につく! 大人の語彙力強化ノート』(宝島社) /『大人なら知っておきたいモノの言い方サクッとノート』(永岡書店) /『敬語マニュアル』(南雲堂) :