「嬉しく存じます」は、「喜ばしく思う気持ち」を表す敬語表現ですが、それだけではありません。日頃何気なく使っている「嬉しい」という言葉を深く知ることで、「嬉しく存じます」は生きた敬語表現となるのです。今回も、大人の語彙力を一緒に強化しましょう!
【目次】
【「嬉しく存じます」を使いこなすための「基礎知識」】
■「嬉しく存じます」の意味は?
「嬉しく存じます」の「存じます」は、動詞「存じる」と助動詞「ます」に分けられます。
「存じる」にはふたつの意味があります。
1「知る」「承知する」の意の謙譲・丁寧語。「私の存じることを申し上げます」のように使われます。
2 「思う」「考える」の意の謙譲・丁寧語。「お変わりなくお過ごしのことと存じます」のように「ます」を伴ったかたちで、主に目上の人に向かって改まった気持ちを込めた丁寧な表現として用いられることがほとんどです。
「嬉しく存じます」とは、「嬉しいです」「喜ばしく思っています」ということをへりくだって表現した言葉ですが、ここでひとつポイントがあります。
それは、「嬉しい」という言葉は、「 物事が自分の望みどおりになって満足であり、喜ばしい」「愉快で楽しい」といった意味のほかに、「相手から受けた行為に感謝しているさま。ありがたい。かたじけない」という意味をもっていることです。例えば、「あなたの心遣いが嬉しい」というフレーズには、相手の心遣いに感謝している様子がうかがえます。
つまり「嬉しく存じます」という言葉は、単に「嬉しい」という感想だけでなく、相手から受けた行為に対する感謝の気持ちをにじませることができるフレーズなのです。
■「嬉しく存じます」は正しい「敬語」?
「存じる」は「思う」の謙譲語。「ます」は丁寧の意を示す助動詞です。「嬉しく存じます」は、正しい敬語表現といえます。
「存じる」という謙譲語の主な目的は、言い方をより丁寧にし、聞き手にいっそうの敬意を示すことです。「知っております」より「存じております」のほうがずっと丁寧に感じられるだけでなく、上品な話し方に感じられませんか? 大人の語彙としてぜひ使いこなしたい敬語表現です。
「嬉しく存じます」はメールや文書で使えるほか、対面での会話でも使えます。過去形にしたい場合は「嬉しく存じました」が正しい使い方です。
【「嬉しく存じます」を使うシーンに応じた実践「例文」6選】
「嬉しく存じます」という言葉は、「(相手から受けた行為に感謝する気持ちをじじませつつ)嬉しく思う」という意味の敬語表現です。「自分のことに関して」嬉しく感じたときと、「他人のことに関して」嬉しく感じたとき、どちらの状況でも使えます。直接的に相手から受けた行為だけでなく、日頃からの厚意に対する感謝をにじませた表現といえるでしょう。
■1:「自分のことに関して」嬉しく感じるとき
・「このたびは思いがけないお心遣いをありがとうございました。大変、嬉しく存じます」
・「弊社の提案を高くご評価くださり、大変嬉しく存じます」
・「おかげさまで今期の営業目標を達成することができました。大変嬉しく存じます」
■2:「他人のことに関して」嬉しく感じるとき
・「ご経過は順調とうかがいました。大変嬉しく存じます」
・「果物がお好きとうかがい、お持ちしました。気に入っていただければ嬉しく存じます」
・「新天地でますますのご活躍とうかがいました。心より嬉しく存じます」
【「嬉しい」気持ちを伝える「言い換え」表現】
「嬉しく存じます」の言い換え表現をいくつかご紹介しましょう。いずれも「嬉しく存じます」よりも少し改まった印象のフレーズとなります。
■「感謝いたします」
「感謝いたします」も、「嬉しく存じます」同様、感謝の気持ちと嬉しい気持ち、ふたつを伝えることができます。
■「ありがたく存じます」
「ありがたい」には「人の好意などに対して、めったにないことと感謝するさま」「都合よく事が進んで嬉しく思うさま」という意味があります。「嬉しく存じます」と同じ意味で使うことができる表現です。
■「光栄に存じます」
「光栄」とは、「名誉に思うこと」という意味です。上司からほめられたときなど、ビジネスシーンでは「光栄に存じます」のほうが「嬉しく存じます」よりしっくりくる場面も多いかもしれませんね。
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「嬉しく存じます」は上記で挙げた「言い換え表現」よりも、その人のストレートな感情が伝わる言葉です。「感謝しております」や「光栄に存じます」も、正しい大人の敬語表現ですが、ときには「嬉しい!」という気持ちを素直に、しかも丁寧に伝えることが、相手との距離を縮めてくれるかもしれませんよ。
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- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) /『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書) /『心が通じる 手紙の美しい言葉づかい ひとこと文例集』(池田書店) :