「錚々たる共演者の皆さん。予想を超えたものが出てくると思います」間宮祥太朗さん
―作演出を担当する松尾スズキさんは、1988年に劇団「大人計画」を旗揚げして以来、演劇界をリードしてきました。今回、出演の話が来たときの第一印象をお願いします。
僕自身が舞台に出演するのが6 年ぶりということもあり、久しぶりの作品が松尾さんの新作というのは、純粋に「うれしい!」と思いました。そのとき、阿部サダヲさんが出演されるほか、何も決まっておらず、「どんな題材なんだろう?」と楽しみにしていました。
とはいえ、久しぶりの舞台ですから、やはり怖さはありますね。一時期、定期的に舞台をやっていた頃と今では感覚が変わっていいますが、楽しみの方が勝ります。お話をいただいた当初は、『ツダマンの世界』というタイトルだけだったので、どんな話になるか全く想像がつきません。やがて「昭和の文豪の話です」という情報が入ってきて、どのように話が展開し、錚々たる共演者の皆さまがどのように動き、仕掛けていくのか、予想もつきませんが、おそらく、全てを超えたさまざまなものが出てくると思います。」
―間宮さんの主演映画『破戒』(2022年)の舞台は、明治時代の日本でした。今回は戦前戦後の日本ですが、時代の雰囲気を知るために、何かしていることはありますか?
松尾さんと先日お会いしたときにお話をして、太宰 治に関する本を勧めていただきました。今はこれを読み始めています。松尾さんからは「昭和の文豪・太宰治を完全に投影しているのではないけれど、イメージとしてフワッとつかんでおいて」と言われました。太宰をイメージする時に、松尾さんは太宰の作品や評伝を読むのではなく、太宰のことを客観的に書いたものを選んでいることが、独特だと思ったのです。やはり、太宰本人が書いた作品では主観が入ってしまいますから。
本人以外の人が書くから、別の側面も浮かび上がってくる。外から観察して書いた作品を参考にするというのは、「なるほどな」と思いました。
―松尾さんとお話していて、印象に残っていることはありますか?
『ツダマンの世界』の話を構成する要素に師弟関係があるのですが、それとリンクする話としては、宮藤(官九郎)さんとの関係について「あいつが頑張っているのを見ていると、俺も頑張らなくては」とサラッとお話していました。
僕は松尾さんの監督映画『恋の門』(2004年)が大好きです。あの作品から「真摯に滑稽である」ことが伝わってきます。松尾さんがものごとをそのように捉えているんだな...と思っていました。この滑稽さというのは、僕が演じる長谷川葉蔵という人にも透徹しています。彼は、自己愛と名声欲と心中願望が強い。真摯に心中したいと思っているんです。変な方向に向かっているのに、そこに対して真っすぐなんです。
この作品は、登場人物それぞれが、形の違うナルシシズムみたいなことを抱えている気がします。それぞれが違う形のいびつさを抱えており、それが交差していろんな方向に作用し、それぞれのナルシシズムを高める結果になっていくと思うんですよね。
―葉蔵と間宮さんの共通点はありますか?
自分の置かれた状況に酔うところでしょうか(笑)。自分自身として生きているのではなく、「自分がどうあるか」をさまざまな角度から観察し、評価しています。それは俯瞰とは違い、もっと距離が近い。だから、自分に酔ってしまうこともあります。
―ところで最近、ご自身が「自分に酔っているな」と感じたことは?
自分の出演しているドラマを見て泣いたことですね。作品は、『ナンバMG 5』(テレビドラマ・フジテレビ系)の9話10話あたりです。自分の出演作を観て、泣くというのは、酔っているだけでなく、なかなかのナルシシズムだと思いますよ(笑)。
■COCOON PRODUCTION 2022『ツダマンの世界』@Bunkamura シアターコクーン
■日程:2022年11月23日(水・祝)~12月18日(日)※他、京都公演あり
■作・演出:松尾スズキ
出演:阿部サダヲ、間宮祥太朗、江口のりこ、村杉蝉之介、笠松はる、見上愛、町田水城、井上尚、青山祥子、中井千聖、八木光太郎、橋本隆佑、河井克夫、皆川猿時、吉田羊
■作・演出を務めるのは、シアターコクーン芸術監督・松尾スズキ。2 年ぶりとなる期待の新作『ツダマンの世界』では、日本の昭和初期から戦後を舞台に、主人公「ツダマン」を取り巻く人々の濃密な愛憎劇を描く。津田万治(阿部サダヲ)を取り巻く縁ある人々からの視点で振り返る、津田万治=ツダマンの半生。それは昭和初期から戦後にかけての物語。生まれてすぐ母と離れ離れになり、義母に育てられた万治。十歳で父が他界すると、育ての母からいびられて何かと反省文を書かされたことが彼ののちの文章力につながっていく。万治の小説家人生はそこから始まった…。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- トヨダリョウ
- STYLIST :
- 津野真吾(impiger)
- HAIR MAKE :
- 三宅 茜
- WRITING :
- 前川亜紀