何かをしてもらいたい相手に対して使われる「~していただく」という表現。ビジネスの現場では頻繁に使われる言い回しですね。この“依頼・お願いフレーズ”は大変重宝しますので、実際にどのようなシーンで効果的に使われるのかおさらいしていきましょう。この連載の第136回で取り上げた、「させて頂きたく存じます」と併せてご覧ください。
【目次】
【「していただく」とはどんなフレーズ?…基礎知識】
「していただく」というフレーズは単体で使われることはありません。どのように使われるのか、まずは意味など、基礎をおさらいしましょう。
■「意味」
「して」は動詞「する」の連用形である「し」に、接続助詞「て」が付いた語。そして、「いただく」は、「王冠をいただく」や「雪をいただいた富士山」のように「頭にのせる」や「被(かぶ)せる」を表したり、「食べる・飲む」の謙譲語として使われたりと、複数の意味をもつ言葉です。「していただく」の場合の「いただく」は、補助動詞「もらう」の謙譲語。謙譲語とは、へりくだることで相手を高める敬語表現のひとつでしたね。ですから、「~していただく」の「~」部分に動詞を入れ「~してほしい」という願いや希望、依頼を丁寧に表したフレーズとなります。
■表記
「いただく」という語は漢字で「頂く」あるいは「戴く」と書きますが、「していただく」はどうでしょう。第この連載の136回で取り上げた「させて頂きたく存じます」でも紹介していますが、「いただく」にはさまざまな意味があり、漢字の「頂く」は「食べる・飲む」あるいは「(物を)もらう」の謙譲表現です。これは、「食事を頂く」「お酒を頂く」「お土産を頂く」のように使います。ちなみに「雪をいただく」の場合の漢字は「戴く」です。では、「していただく」の場合はどうでしょう。「別の動詞を補う役割の補助動詞は仮名表記が基本」なので、平仮名が正解! このように、同じ発音の言葉でも意味によって漢字を書き分けたり、仮名表記にするのが日本語の特徴ですね。
【「正しい敬語」にするには?誤用に注意!】
「~していただく」は謙譲表現ですが、これだけでは敬語になりません。敬語表現の例を紹介します。
・「~していただきました」
・「~していただけますでしょうか」
・「~していただけますと幸いです」
・「~していただきたく存じます」
近年誤用を指摘されるのは、「食べる・飲む」の意味での「いただく」の表現です。例えば、「どうぞ冷めないうちに頂いてください」という言いまわし。「いただく(頂く)」は「食べる・飲む」の謙譲語ですので、この場合は「頂いてください」ではなく、尊敬語の「お召し上がりください」にすべきです。誤用の多い「させていただく」同様、「していただく」も「いただく」も、使用には注意が必要です。
【メールでも重宝するそのまま使える「例文」7選】
■1:「金曜日のミーティングですが、開始を13時に変更(して)いただくことは可能でしょうか」
■2:「講演後のパネルディスカッションにも参加(して)いただけますと幸いです」
■3:「下記の日程のなかで調整(して)いただけますようお願いいたします」
■4:「先日お送りしました資料、確認(して)いただけましたでしょうか」
■5:「現場の状況を報告(して)いただけるのがいつ頃になるか、お知らせください」
■6:「公演終了後は規制退場(して)いただくことになりますので、予めご了承ください」
■7:「こちらに記入(して)いただく必要はございません」
いずれの例も、「変更いただくことは」や「参加いただけますと」というように、「して」を省くことも可能です。その際には「ご変更いただくことは」「ご参加いただけますと」と、「ご」や「お」という接頭語を付けるとより丁寧な言い回しになります。ただし、ぜひ心得てほしいのは「~していただく」という謙譲表現は自分側を下位に置き、へりくだることによって相手を立てる敬語だということ。より丁寧に…というつもりで「部長にご指導していただく」と言うのは、「部長が自分をご指導する」という意味になるので間違い! この場合は「部長にご指導いただく」が適切です。
【「~していただく」と同じ意味で使える「類似・言い換え」表現】
最後に、「していただく」ではない言い回し例をご紹介します。
・挨拶していただく(ご挨拶いただく) → ご挨拶を賜る
・指導していただく(ご指導いただく) → ご指導にあずかる
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今回は、会話でもメールなどでもよく使われる「~していただく」について学びました。表現に迷ったら、この連載「大人の語彙力強化塾」を参考にしていただけますとうれしいです!
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『敬語ネイティブになろう!!』(くろしお出版)/『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』(角川新書) :