身長156cmのインテリアエディターDが、おすすめのアイテムを実際に体験しながらレポートする本連載。一流メゾンのショールームや有名人の自邸に置かれ、ここ数年で世界中から再評価されるようになった、日系の家具作家ジョージ・ナカシマの家具をご存知ですか? 

日本の宮大工の仕事をヒントに、材料として適していないと破棄されていた「節」や「割れ」のある木材にも美しさを見出し、第二の人生として家具に仕立てたナカシマ。その家具は、室内に置くだけで私たちが潜在的に願う自然とのつながりを感じさせてくれます。今回は、座ることで癒されると人気の『ラウンジアーム』をご紹介します。

普遍的な形状でありつつ緊張感もある、主役級の存在感が唯一無二!

『ラウンジアーム』は、自然の木そのものを感じさせる自由な形状のアームとゆったりとした座面が目を引くローチェア。1962年にジョージ・ナカシマによってデザインされた普及の名作です。

ジョージ・ナカシマの椅子「ラウンジアーム」
【ブランド】桜製作所 【商品名】ラウンジアーム 【価格】¥400,000程度~(注文製作により要問い合わせ) 【サイズ】幅780×奥行き650×高さ840、座面高340(mm) 【材質】ブラックウォールナット ホワイトアッシュ  ※アーム部分は原材料を選んでから木取りをするため、寸法・形状などが若干変わります 写真/(C)H・AMEMIYA

どことなく見たことのある形状に思えるのもそのはず、『ラウンジアーム』は、17世紀にイギリスで生まれたウィンザーチェア(ヨーロッパの民芸的な椅子)の要素を色濃く残しています。

ウィンザーチェアは、分厚い座面にハの字に広がった脚と背棒が差し込まれている構造が特徴。椅子が権力の象徴だった時代に、民衆の間で広く愛された機能的なデザインが貴族へと伝わった、道具としての椅子の誕生を象徴するものです。

ジョージ・ナカシマの椅子「ラウンジアーム」
懐かしさを感じさせる普遍的な佇まいも魅力

木の魅力を極限まで引き出すディテールが生む緊張感と柔らかなかけ心地

自然の木の風合いをそのまま生かした自由曲線のアームは、左右どちらに設置するのか選ぶことができます。

ジョージ・ナカシマの椅子「ラウンジアーム」
風合いのある皮目(樹木の表面)が特徴のアーム

木材が最も美しく見えるよう木取りをして制作されるため、一つとして同じものが存在しません。特別感があってうれしいですよね。

ジョージ・ナカシマの家具のために切り出された木材
丸太を切った断面

座りやすい理由の一つは「座繰り(ざぐり)」と呼ばれる座面の彫りこみ

広い座面は、座ったときのお尻と太ももの形に合わせて彫られています。これよって、お尻の当たりが柔らかくなり、長い時間座っても疲れる事が少なくなるのです。

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美しい座繰りの陰影。背の上部に突き出した背棒には、笠木(背もたれの上部の横木)が抜けないようウォールナットのくさびが打ち込まれています

手仕事の気配をあえて残した温もりのあるデザインも魅力

脚や桟も鉋の削りあとを残した、強くて美しいスピンドル型(膨らみをもつ紡錘形)に加工されています。特に背棒の部分は、手作業にて加工されているため表面に凹凸があり白木の木肌に味わいを添えています。

ジョージ・ナカシマの椅子「ラウンジアーム」
褐色のブラックウォールナットと白木のホワイトアッシュの部材の兼ね合いも見事
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木の温もりに癒される感覚を体全体で堪能できる、ゆったりとした寸法

 世界的に再び評価が高まる建築家にして木匠のジョージ・ナカシマとは?

ここ数年、日系アメリカ人のジョージ・ナカシマデザインのヴィンテージ家具は、世界中のアパレル業界の目利きによって一種のブームのように収集されています。一体、どのような人だったのでしょうか?

「家具は、木に2度目の命を与えること」と捉えていたナカシマはデザイナーと呼ばれることを嫌っていた
「家具は、木に2度目の命を与えること」と捉えていたナカシマはデザイナーと呼ばれることを嫌っていた

1905年にアメリカで生まれ、ワシントン州・シアトルで育ったナカシマ。ワシントン大学入学で森林学と建築学を学び、マサチューセッツ工科大学で建築学修士号を取得。パリやロンドンに滞在後1934年に東京のアントニン・レーモンド建築事務所に入所。同僚に日本のモダニズム建築の巨匠前川國男や吉村順三が在籍していました。

その後インドなどを歴訪し、「木匠」としての精神的な基礎部分を形成する、貴重な体験を数多く経験したのちに、1940年アメリカに帰国し、家具製作を始めました。

太平洋戦争で収容所へ。日系の大工との出会いが最初の転機に

太平洋戦争が始まると日系人強制収容所へと入所することに。そこで知り合った日系の大工との交流から、木工技術と木についての知識を深めます。

戦後、米国に帰国したレーモンドを頼ってニューホープに移り住み、自分の工房を構えます。早くから認められ1952年にはアメリカで建築学会のゴールドメダル授与、作品はスミソニアン博物館、シカゴ美術館などに収められました。

アメリカ・ニューホープにある、ジョージ・ナカシマが建築から家具までを手掛けた工房「コノイドスタジオ」を撮影した写真
アメリカ・ニューホープにある、ジョージ・ナカシマが建築から家具までを手掛けた工房「コノイドスタジオ」を撮影した写真

その頃、時代は高度成長期。デザインの流れは、戦後の需要に応えるように発展していった大量生産や、地域の風土や風習という固有の文化ではなく機能を重視したモダニズムが主流でした。それは、木の声を聞くように、木の板一枚一枚を見て、どう生かすといい家具になるのかを常々考えていたナカシマとは相反するものでした。

伝統技術を用いて世界のマーケットに売り出す「讃岐民具連」との出会い

民具連の集会の様子。中央がジョージ・ナカシマ。右隣に流政之氏
民具連の集会の様子。中央がジョージ・ナカシマ。右隣に流政之氏

同時期の香川では、「デザイン知事」と呼ばれていた香川県知事・金子正則氏がキーマンとなってモダニズム建築の傑作「香川県庁舎」(丹下健三氏設計)が建設されます。美術雑誌の取材で県庁を訪れた新進気鋭のアーティスト・流政之氏と知事は意気投合。より洗練された新しい造形として再生しようという運動「 讃岐民具連 」が1963年に設立されます。

その1年後に流氏の紹介でナカシマが桜製作所を訪れ讃岐民具連に加わります。命ある家具づくりには優れた職人の技と経験が欠かせないと説いていたナカシマは、「桜製作所」の卓越した技術に惚れ込み「ミングレン」という名前をつけた数々の家具を制作します。 

以来、1990年にニューホープで彼が逝去したのちも、現在に至るまでジョージ・ナカシマの家具は、アメリカ・ニューホープにあるアトリエ「ジョージ ナカシマウッドワーカーズ」と日本の「桜製作所」でのみ製造が許されています。

製材した木材を開き蝶々みたいな形をしたチギリで留めた「ブックマッチ」は、ナカシマ家具によく用いられる手法のひとつ
製材した木材を開き蝶々みたいな形をしたチギリで留めた「ブックマッチ」は、ナカシマ家具によく用いられる手法のひとつ

今回は、ジョージ・ナカシマが遺した傑作デザインのひとつ『ラウンジアーム』をご紹介しました。

木と対話し、大切に長く使えるようなデザインに製作していたジョージ・ナカシマ。現代では希少価値のある銘木を用いてナカシマ自身によって作られた家具が、アートピースとして世界のギャラリーで取引される理由もわかります。その一方で、その精神はきちんと現代においても職人等に引き継がれており、日本に住む私たちは幸運にも自宅に迎え入れることが可能です。

ぜひ「桜製作所」のショールームに足を運んで、実際にその心地よさを味わってみてください。

問い合わせ先

  • 桜製作所 銀座店 
    営業時間/11:00~18:00
    休業日/お盆・年末年始
    TEL:03-3547-8118
  • 住所/東京都中央区銀座3-10-7ヒューリック銀座三丁目ビル1F

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM