「しなやか」は「しなる」を語源とし「柔らかくて強い」ことを表す言葉です。また、「すらりとして上品」としとやかで美しい」人を肯定的に表現する言葉でもあります。今回は「しなやか」の意味や「たおやか」との違い、使い方や類語、対義語について解説します。
【目次】
【「しなやか」を正しく理解するための「基礎知識」】
■「しなやか」の「意味」
「しなやか」には3つの意味があります。
1)弾力があってよくしなう様子。よくたわむ様子。
2)人の姿態や動きがたおやかで優美な様子。また、落ち着いて、しとやかである様子。
3)しなをつくってなまめかしい様子。
現在、「しなやか」は1と2の意味で多く使われています。
言葉への理解を深めるために、さらに「しなやか」を考察してみましょう。
「やか」は状態を表す言葉に付いて、「様子」を表す接尾語です。「その状態そのままではないがそれに近い状態であること」を表します。「しなやか」のほか、昨日の「おしとやか」そして、「華やか」「鮮やか」「穏やか」なども接尾語「やか」から成る言葉ですよ。「しなやか」の語源となる「しなう(しなる)」には、「弾力があって、折れずに柔らかに曲がる」、「従う。順応する」、「なよなよとする」という3つの意味があり、ここから「しなやか」が前述1〜3 の意味をもつようになりました。「しなやかさ」と名詞でも使われます。
■「漢字」で書くと?
しなやかの漢字表記は「嫋やか」「撓やか」「靭やか」「雅やか」などがあります。辞書で多く紹介されているのは、「嫋やか」です。「嫋」は「たおやか」や「動作や態度がしなやかで美しい」という意味をもちます。ただし、「女」に「弱(い)」と書いてしなやか、というのは、少々時代錯誤的で複雑な気持ちになるからか、今は「柔らかくて強い」という意味をもつ「韌」や「弾力があって折れずに曲がる。しなう」という意味がある「撓」を使うほうが好まれているよう。一方、「雅やか」は「雅」を「みやび」と読むのが一般的なので、ぱっと見て「しなやか」と読むのは厳しいですよね。小説などで、「雅やか」を「しなやか」と読ませたい際には、ふりがながふってあることが多いです。
■「たおやか」との違いは?
「たおやか」も「しなやか」同様、接尾語「やか」から成る言葉です。語源となる「撓(たわ)む」は「弾力があって折れずに曲がる。しなう」「気力がなくなる」といった意味の言葉です。「しなやか」の語源である「しなう」とよく似ていますね。そして、上でもふれましたが、「撓やか」は、「たおやか」と読むだけでなく「しなやか」とも読むのです。
「たわむ」を語源とする「たおやか」は、「しなやかで柔らかな様子」を示し、「姿や動作、態度が上品でしとやか、優美な」といった意味をもっています。「しなやか」との違いは、「しなやか」が人の動作や内面、事物の柔らかさを指す言葉であるのに対して、「たおやか」は主に女性を形容して用いられます。また、「姿・形がほっそりとして動きがしなやかなさま」を特に「たおやか」と表現しますよ。「たおやめ」は、「すぐには折れないで、しなやかで優しい女性」を表し、「たおやめぶり」は、『万葉集』の歌風である男性的な「ますらおぶり」に対比され、『古今和歌集』以降の女性的で優美な歌風を表します。
【「しなやか」とはどんな人?「特徴」は?】
「しなやか」という言葉で人を形容する際には、その姿や体つき、所作のほか、心の柔軟さを肯定的に表現する際にも使われます。
■一見、物腰は穏やかだが、芯の強さをもっている
■物の見方、考え方、判断の仕方が柔軟
■優雅で上品
■言葉遣いや所作に荒々しさがなく、美しい
■礼儀正しく、コミュニケーション能力が高い
■ストレス耐性が高い
【使い方がわかる「例文」5選】
■1:「私が愛用しているビジネスバッグは、しなやかな革の風合いがお気に入りポイントだ」
■2:「彼がしなやかにステップを踏むさまに、見る者はみな、引き込まれていった」
■3:「A先生が提唱するエクササイズは、健康的なしなやかさ、内側から溢れ出る美しさを引き出すプログラムとして人気が高い」
■4:「多様性を受け入れるには、理論武装よりもまずは心のしなやかさが必要だ」
■5:「これからは妙なこだわりやプライドは捨て、しなやかに生きていきたいと思う」
【「類語」「言い換え」表現】
■たおやか
■しとやか
「しとやか」は、言語や動作などが「落ち着いてもの静かであるさま。優雅で上品であるさま。また、つつしみ深いさま」を形容した言葉です。「穏やか、柔らか、上品」といったキーワードが「しなやか」と共通していますが、「しとやか」は「物静かで控えめ」な側面がより強調された言葉です。
■柔らかい
■柔軟
「柔らかい」は、「物が他の力を受けて容易に変化しやすいさま」や、「穏やかで荒々しくない」といった意味の言葉です。「人あたりが柔らかい」のように、人間の行動や性質などにも用いられます。また、「柔らかい本」のように、「堅苦しくなく融通性がある」という意味もあります。「軟らかい」でも同じ意味となります。「柔軟」や「しなやか」は、「物などに弾力のある様子」を指します。また、「柔軟」は、「動きが柔軟だ」「柔軟な態度」のように、動作などがスムーズであるさまや、考え方が一方に偏らないでさまざまのものに素直に対処しうるさまを表します。一方、今回のキーワードである「しなやか」は、「しなやかな身のこなし」のように、動きが滑らかなさまも表す言葉です。
【「対義語」は?】
■硬直した
「硬直」は物が「かたくて真っすぐなこと」、人の体が「こわばって自由に動かないこと」、態度・方針などが「固定化して柔軟性がなくなること」を指す言葉です。
■頑固な
■強硬な
「しなやか」の内面的な柔軟性と相反する言葉は「頑固」「強硬(きょうこう)」でしょう。「頑固」は、その人なりの主義、主張などを変えずに守り通し、他の意見や方法などを受け入れない様子。「強硬」は、自分の主張などを強く押し通そうとする様子を指す言葉です。
【「英語」にすると?】
■flexible
日本語の「しなやか」をひと言で表現する英単語はありませんが、「しなやか」の柔軟さを表現するのなら、[flexible]が使えます。「物の曲がりやすさ」や「人の柔軟性のある様子」も表します。カタカナ語の「フレキシブル」も同様の意味で使われていますね。
■elegant
■graceful
「落ち着いて気品がある」という意味の[elegant ]や「上品な」と訳される[graceful]も「しなやか」を表現できる英単語です。
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ぶれない意志で道を切り拓く、力強い生き方は素敵ですが、一方で「柳に風」といった風情でしなやかに生きる人にも、また違った魅力を感じるものです。内面の強さを「秘められる」という点においても、しなやかな人の強さには憧れますね。もちろん、どちらの個性も得難いもの。さまざまな生き方や多様な個性を受け入れて尊重できる、心のしなやかさを常に意識していたいものです。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) /『さりげなく、折り目正しく「こころ」を伝える 美しい「大和言葉」の言いまわし』(三笠書房) :