「上司に対する不信感でモヤモヤする…」といった使い方をする「不信感」は、「信用できないという気持ち」を表す言葉です。今回は「不信感」の意味や使い方のほか、「不信感を感じる」は二重表現では? といった疑問についても解説します。

【目次】

信用できないかも…という心の動きを表す言葉です。
信用できないかも…という心の動きを表す言葉です。

【「不信感」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「不信感」は「ふしんかん」と読みます。

■意味

不信感とは、「信じていない思い。信用できないという気持ち」のことです。例えば、仕事相手がたびたび期限を守らなかったり、話した内容と実際の行動が微妙に違う…こんなとき、「何かこの人、信用できないな」と感じてモヤモヤしますよね。明確な契約違反や不正行為に対してならば、こちらもはっきりとした対応が取れますが、「不信感」はそこまで決定的なものではなく、「この人は信用できないのでは?」という心の動きを指します。人に対してだけでなく、政治や企業を対象として使われることもありますよ。

次に、具体的な例文を見てみましょう。


【使い方がわかる「例文」5選】

■1:「私と彼を含め、ほんの数人しか知らない情報が部外に漏れたことが、彼に不信感を抱いた理由のひとつだ」

■2:「表面は礼儀正しい態度を取りつつも、何度も前言撤回を繰り返す担当者の行動に、不信感が募(つの)っていった」

■3:「ふと気付いた彼の挙動不審な態度に、不信感を覚えた」

■4:「政治に対する国民の不信感が、選挙の際の投票率の低さに反映されている」

「不信感」は「持つ」「起こる」のほか、「抱く」「募る」「覚える」などの動詞と一緒に使われることが多い言葉です。

■NG?:「私は部長に対して不信感を感じている」

「不信感」についてだけでなく、「違和感を感じる」のように、「○○感を感じる」という表現については、「二重表現(重言)では?」とたびたび話題になっています。「二重表現」とは、同じ意味の言葉が重なった表現のこと。「頭痛が痛い」「馬から落馬する」など、「頭が痛い」「馬から落ちる」と簡単に言い換えられるものは、明らかに避けたほうがいい「二重表現」です。

国語辞典編纂(さん)者の飯間浩明さんは著書『日本語はこわくない』の中で、「重言はどれもダメというわけではありません」としたうえで、「重言は、珍しくて奇異に感じるものから、誰が使っても気にならないものまで段階があります。ことばは結局、多数決で決まるのです」と述べています。さらに、「違和感を感じる」という表現を避けて「『違和感を覚える』という人がいますが、『覚える』は『感じる』の硬い表現で、結局同じです」「考えてみると、『歌を歌う』『踊りを踊る』だって、重言と言えば重言です。重なっていればすべて悪いわけではありません。重言をタブー視せず、もっとラクに考えてはどうでしょう」と提言されています。

「二重表現(重言)」に関して、実は明確なルールはありません。知識として知ったうえで、ビジネスシーンなど公的な場では相手の感じ方も考慮に入れ「自分はできるだけ避ける」、でも「人の言葉使いに対しては寛容」。こんな姿勢でよいのではないでしょうか。


【「類語」「言い換え」表現】

「不信感」の「言い換え表現」をいくつかご紹介しましょう。

■猜疑心 ■疑い ■疑念

この3つの言葉にはすべて「疑」の語が含まれ、「(人を)疑う気持ち。おかしいと思うこと」の意味となります。「猜疑心」は特に「 相手を信用せず、何か自分に不利になるようなことをするのではないか、と疑うこと」であり、自分の利害に関わることについて用いられます。

■不信の念

「不信」とは「信じないこと」。「念」は「思い、気持ち」を表します。「信じない気持ち」ですから、「不信感よりも「信じない」程度が強い表現です。

■疑心暗鬼

「疑心暗鬼」は「疑心(ぎしん)暗鬼を生ず」の略で、「疑心があるために、なんでもないつまらないことまで、恐ろしく感じたり疑ったりすること」を意味する四字熟語です。根拠もなく、さまざまなものが疑わしく思えてしまう状態で、「疑い」から抜け出せないことを表すのが特徴です。


【「英語」で言うと?】

「不信感」を英語で表現すると、「信じる」を表す[trust]に否定形[dis]から成る[distrust]が使えます。

・She distrusts her friend.(彼女は友人に不信感を抱いている)

・His policy earned him the distrust of the Athenians.(彼の政策はアテネ人の不信を買った)

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一度「不信感」をもってしまうと、モヤモヤを払拭するのは難しいですね。でも、疑ってばかりではストレスが溜まります。「二重表現」に関しても、「これは誤用」「あれも誤用?」と言葉警察になってしまったら、楽しくありませんよね。「私はこう思うし、こういう言葉は使わない(こういうことはしない)けれど、あなたはご自由に」というスタンスでいられると、もっと自由に、もっとラクになれるのではないでしょうか。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) /『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館) /『日本語はこわくない』(PHP) /『四字熟語ときあかし辞典』(研究社) :