今や女性のライフスタイルに不可欠な腕時計。日々を彩る装飾具以外の面でも注目が集まる昨今、好奇心は高まる一方。そこで、雑誌『Precious』9月号では、特集「今さら聞けない『ラグジュアリーウォッチの美学』」を展開。静的な芸術として独自の時計観をもつ、ウォッチジャーナリストで大学教授の並木浩一先生にその魅力をうかがいました!

なぜ人々は美しい時計に魅了されるのか? 専門家の視点から、わかりやすくひもときます!

今回は、「サステイナブルな時計の価値」についてお届けします。

並木 浩一さん
ウォッチジャーナリスト・大学教授
(なみき こういち)桐蔭横浜大学教授。出版社勤務を経たのちに、京都造形芸術大学大学院にて博士号を獲得し、研究者の道に。人間が行う「静」の表現として時計を探究する一方、「動」の表現としてダンスも研究。スイス時計展示会の取材には、日本のメディアが参加し始めた1990年代から参戦。独自の切り口で時計を切る視線に定評あり。著書多数。近著に、『ロレックスが買えない。』(CCCメディアハウス)。

Q:サステイナブルな時計にはどんな価値がある?

ゼンマイを巻いて動力とする機械式時計自体、手入れを繰り返せば、何年も使用できるサステイナブルな存在といえるでしょう。次世代への継承は「パテック フィリップ」の広告ビジュアルなどにも見られます。

それを踏まえてなお、時計界がサステイナビリティを意識した物づくりを推進している傾向は強い。再生素材の使用は、時計界でも顕著な動きの一例です。「カルティエ」のソーラー駆動式の『タンク マスト』に見られる、植物由来の再生素材を使用したストラップなどがそう。「ショパール」はすべてのウォッチ&ジュエリーで国際的な環境・社会基準を満たすエシカルなゴールドを採用することでサステイナブルな姿勢を見せています。

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創業者一家のひとり、ピエール・アーペル(写真左)の叔父、ルイ・アーペルが振り付け家のジョージ・バランシン(写真右)と出会った1950年代以前より続くメゾンと振り付け芸術の蜜月関係。これが、世界中のダンスカンパニーや機関を支援する「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」の誕生につながった。

高級時計ブランドほど、国連が提唱するSDGsのいずれかに該当するような、持続可能性を追求する社会貢献活動に参画しているのです。「ヴァン クリーフ&アーペル」は、創業以来、ダンスとの深い関係を築き上げてきた歴史の集大成として「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」を2020年に創設。世界各地におけるさまざまなダンス団体や公演、オペラハウスなどを支援しています。

時計史に冠たる防水時計『フィフティ ファゾムス』で知られる「ブランパン」は、海洋保護活動「オーシャン コミットメント」を実施中です。海洋探査・調査を実施する「ゴンベッサ・プロジェクト」や手付かずの海域を調査する「原始の海」プロジェクトなど、膨大な数の取り組みのサポートを行っています。「ジャガー・ルクルト」は、優れた職人技を現代のデザインと結びつける「ミケランジェロ財団」とのパートナーシップにより、奨学金プログラム「ホモ・ファベール フェローシップ」を始動。才能溢れる若者と熟達した職人が2名1組となり、スキルの継承を行う取り組みです。

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「ブランパン オーシャンコミットメント」では、海洋写真家ローラン・バレスタ氏との関係も深い。写真は、絶滅危惧種「タマタロア(巨大シュモクザメ)」プロジェクトでテクニカルダイバーたちが海洋探査をする様子。
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卒業生たちが工芸分野のプロとして歩み出すべく発足したプログラム「ホモ・ファベール フェローシップ」は、2023年9 月より実施。工芸分野でのキャリア形成に存在する障壁を取り除くために、両者が協力することとなった。(C)Michelangelo Foundation

これらはほんの一例にすぎず、多くの時計ブランドがなんらかの社会貢献活動にコミットしています。ユーザーにとっては「ノブレス オブリージュ」的な発想のもと、時計に投じた代金がよりよい社会につながる点でも意義深いものですし、そんな時計を所有するという社会貢献が、自分自身をエンパワーしてくれることでしょう。実は、ラグジュアリーウォッチとサステイナビリティはとても深い関係にあるのです。(並木さん)

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PHOTO :
(C)Michelangelo Foundation
WRITING :
髙村将司
EDIT&WRITING :
安部 毅、岡村佳代、安村 徹(Precious)