人類の叡智が注ぎ込まれてきたダイヤモンドの輝き

はるか昔、ダイヤモンドは光り輝く美しい宝石ではなかった。とにかく硬くてどうにも加工することができない、難儀な石だったのだ。3世紀の古代ローマにはすでにダイヤモンドの指輪があったが、氷砂糖のような未研磨の原石をはめこんだだけのものだった。自然界の物質の中で、最も硬いダイヤモンド。まるで魔法のごとき硬さに、いにしえの人々が神秘性を感じたのは当然のことだっただろう。

その硬さゆえにダイヤモンドは、固い契りの証しとして婚約指輪に使われるようになった。けれど、どうにも磨くことができない。もし、中世の王侯貴族の肖像画に真っ黒な四角い石が描かれていたら、それはダイヤモンドだ。なんとか原石の表面だけなめらかにしているが、光らないから黒く沈んで見えていたのだ。

ダイヤモンドを磨くにはダイヤモンドの粉を、とわかったのは15世紀。これでローズカットが生み出され、17世紀にはブリリアントカットの原形ができた。この頃、人々はやっと気づいた。カットしたダイヤモンドは、光をキラキラと反射するのだ。ガラスや水晶など比べものにならない輝きに、誰もが目を見はった。

ロウソクからガス燈、そして電灯へ。照明が明るくなるにつれ、ダイヤモンドの輝きは増して見えた。現在のラウンドブリリアントカットは、石に差し込んだ光のすべてをはじき返すよう光学的に計算されているので、わずかな光でも屈折し反射して、澄んだ輝きを放つ。 

今、女性たちがダイヤモンドに魅せられる理由は、他の宝石では味わえない、白や虹色の強い光にあるだろう。もし、いにしえの人々が現代のラウンドブリリアントカットを見たら、やはり魔法のかかった光の宝石だと思うに違いない。

文・本間恵子
ウォッチ&ジュエリージャーナリスト
(ほんまけいこ)ジュエリーデザイナーから宝飾専門誌エディターに転身。現在はフリーランスとして国内外を取材、時計と宝飾の最新トレンドを発信する。アンティークや西洋美術史への造詣も深い。

ダイヤモンドの花々に舞う妖精のブローチ

ダイヤモンドの花々に舞う妖精のブローチ
クリップ『フェアリー フォリデ プレ クリップ』[ホワイトゴールド×ダイヤモンド計8.93ct ]¥16,200,000(ヴァン クリーフ&アーペル) [Precious4月号172ページ] 

シェイクスピアの傑作『真夏の夢』。愛と自然に賛美がささげられたこの戯曲にインスピレーションを得たコレクション。ダイヤモンドの花冠とローブをまとって優雅に舞う妖精の様子が、クリップに。

※掲載した商品はすべて税抜です。掲載した情報は2017年3月7日時点のものです。

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PHOTO :
戸田嘉昭・唐澤光也(パイルドライバー)