2022年11月、長崎・雲仙温泉にオープンした温泉旅館「界 雲仙」。星野リゾートが全国に手掛ける温泉旅館「界」ブランドとして、長崎初進出となる施設です。
「界 雲仙」があるのは、硫黄の香りがする噴気が立ち込める雲仙地獄のすぐそば。「地獄パワーにふれる、異国情緒の宿」というコンセプト通り、館内は和(日本)、華(中国)、蘭(オランダ)という3つの国の要素が混ざり合った長崎の文化を表現したしつらえになっています。
本記事では、Precious.jpライターが実際に「界雲仙」に宿泊。客室、グルメ、アクティビティなど、充実の滞在レポートをお届けします。
地獄のほとりで異国情緒を感じる「界 雲仙」宿泊レポート
エントランスから足を踏み入れると、大きな窓から目の前に雲仙地獄が見えます。
館内のインテリアは、日本が鎖国政策をとっていた江戸時代、出島で中国やオランダと交易していた長崎の「和華蘭文化」を象徴するようなものになっています。
印象的なのが、フロント前の天井からつり下がった3つの灯り。手前が着物の織り目のデザインで日本、奥の左側が中華格子のデザインで中国、奥の右側がチューリップと風車のデザインでオランダを表しています。
フロントでぱっと目に入る銀色のゴツゴツした岩のようなモニュメント。まさに窓から見える雲仙地獄の噴気を表したものなのかな、と感じましたが、これは地獄の荒々しさを表現しているそう。ただ、噴気も一つの形にとらわれるものではなく「お客様が見たままが正解」とのこと。
凹凸をつけているため、光が反射してあたり一帯を明るく照らしてくれるのだそうです。
ご当地部屋「和華蘭の間」に宿泊
「界」の特徴のひとつに、地域の文化に触れるご当地部屋があります。「界 雲仙」では、全51室ある客室のすべてがご当地部屋「和華蘭の間」になっています。
ドアを開けると、まず目に入ったのが長崎の焼き物である「波佐見焼」。波佐見焼は、長崎県波佐見町で作られている陶磁器で、白磁の美しさと繊細な染付、モダンなデザインが特徴です。
そして特に印象的なしつらえが、ベッドサイドのパーテーションです。オランダから伝わった硝子工芸品であるステンドグラスの鮮やかな色合いが目を引きますよね。
さらに、テーブルの上に置いてあるライトも、ステンドグラスをモチーフに、鮮やかな赤や青の色合いが日本文化である和紙を使って表現されています。日本とオランダの文化が混ざり合った、まさに長崎らしさが感じられるお部屋です。
「和華蘭の間」の中でも特徴的な客室が「客室付き露天風呂」。名称が「露天風呂付き客室」ではないのがポイントです。
リビングルームを取り払い、滞在スペースの半分以上を露天風呂スペースにした、まさに温泉を楽しむための客室。雲仙地獄の雄大な景色を眺めながらゆったりと浸かれる広い露天風呂は、滞在中何度でも楽しみたくなります。
足だけ浸かって足湯として楽しむお客様も多いのだとか。もちろん、こちらの露天風呂も大浴場と同じく雲仙温泉からお湯を引いています。
露天風呂とベッドルームの間には、防水加工が施された湯上がりチェアが置かれた「湯上がり処」があります。温泉で体が温まったら、そばの棚に置いてあるバスローブをさっと着て、湯上がりチェアでビールでも片手にのんびりと。
また、天井には長崎土産の定番、伝統ガラス工芸品のビードロが。夜はライトに照らされてキラキラと輝きます。長崎文化、異国情緒あふれる雰囲気の客室で、リラックスした滞在が叶いますよ。
朝と夜で雰囲気の変わる大浴場
雲仙という地名は、元々「温泉」と書いて「うんぜん」と読んでいたことが由来なのだそう。
そんな雲仙の温泉は、周辺の香りからもわかる通り硫黄分を含んでいるのが特徴。泉質は「酸性、含鉄(Ⅱ、Ⅲ)-単純温泉」で、鉄も多く含まれています。基本的に濁った色味なのですが、鉄が空気中の酸素に反応して酸化するため日によって白濁していたり、茶色味を帯びていたりと色が変わるのだそう。
エントランスのすぐ隣から大浴場につながる道があります。雲仙地獄のすぐそばのため、大浴場に向かう道すがらも地獄の噴気が見え、硫黄の香りに包まれていました。
ガラス張りで開放感のある湯上がり処では、「橙ほうじ茶」と「びわ酢」の2種類のドリンクとアイスキャンディが楽しめます。湯上がりにはここで水分をとりながらゆっくりするのがおすすめ。
内風呂は、色鮮やかなステンドグラスが印象的。朝日が差し込む時間帯には、ステンドグラスを通してカラフルな光が内風呂を照らします。
源泉かけ流しの「あつ湯」と、心身ともにリラックスできる「ぬる湯」の2種類があります。
入浴後には、真湯で温泉成分を洗い流す「上がり湯」を行うのがよいそう。保湿もしっかりと行うことで湯あたりや湯ただれを防ぎ、肌の潤いが保たれるのだとか。
温泉にただ入るだけでなく、泉質や効能、正しい入浴法を知ることで、さらなる美容・健康効果が得られるので、入浴前にはぜひ、界 雲仙の“湯守り”が、雲仙温泉の泉質や効果的な入浴法を教えてくれる「温泉いろは」に参加してみてはいかがでしょう。
内風呂からつながる露天風呂は、自然に囲まれた野趣あふれる岩風呂です。内風呂と露天風呂ではもちろん、昼と夜でも雰囲気が異なるので、どちらも楽しんでみては。ただし、界 雲仙の温泉は、長湯をすると体が疲れてしまうそうで、時間を空けて一日に1~2回の入浴に留めることがおすすめなのだそうですよ。
夕食は特別会席「あご出汁しゃぶしゃぶ会席」
夕飯は、フロントのすぐそばに入口がある食事処で提供されます。
食事処の壁面には、ずらりと並ぶ波佐見焼のうつわ、華やかなステンドグラス、中華格子……と、ここでも和華蘭文化を感じさせるしつらえになっています。
こちらの半個室のプライベート感が保てる空間で、特別会席「あご出汁しゃぶしゃぶ会席」をいただきました。
先付けは、和華蘭文化のひとつである卓袱(しっぽく)料理に欠かせない「豚角煮」をリエットにしたもの。
リエットにのせられているのは、水の代わりに温泉水を使用して焼いた雲仙名物「湯せんぺい」。鬼が描かれた紙の上から、用意された小さな木槌でせんぺいを割ると、リエットがお目見え! 鬼退治してから、せんぺいにリエットをつけていただくという遊び心が楽しい一品でした。
続いて、ふんわりとした真薯に鮑と枝豆をあわせた煮物椀。あおさの香りが食欲をそそる一皿です。
卓袱料理に使われる丸い円卓をイメージした朱色のうつわで登場するのは、酢の物、八寸、お造りを一緒に盛った「宝楽盛り」。
中央奥の少し背の高い黄色いうつわに入っているのは、島原の伝統食「いぎりす」。イギス藻という海藻やエソという魚が使われて寒天状に冷やし固められたお料理です。酢味噌とあわせていただきます。
左のお皿には、「合鴨ロース オレンジ酢味噌かけ」や「海老と青菜の松風」、「サーモン棒寿司」など彩りも食感も豊かな6品。右の青いお皿に盛られたお造りは、鯛、ひらす、タチウオ、イカ。そして奥のふたの付いたうつわの中にマグロが入っていて、全5種類です。
宝楽盛りのあとに揚げ物として、衣にあおさと湯葉を使用した車海老の東寺揚げが。パリッとした食感と車海老の香ばしさと旨みがとても美味です。塩とレモンでさっぱりといただきました。
そして、蓋物の「のどぐろ びわ酢蒸し」と続きます。脂ののったのどぐろをにびわ酢をかけて蒸しあげた一品。ふっくらとしたのどぐろの食感とまろやかなびわ酢の味わいがマッチしていました。
特別会席のメインの台の物は「あご出汁しゃぶしゃぶ」。「あご」とはトビウオのことで、正月のお雑煮で使用するなど、長崎ではとても親しみのある食材です。
上品で旨みたっぷりのあご出汁に、牛肉や伊勢海老、ふぐをくぐらせて、出汁とともにいただくお鍋。
まずは海鮮の具材を入れて出汁だけで楽しみ、その後香味野菜で味をととのえてから和牛のロースをしゃぶしゃぶしていただくのがおすすめだそう。途中で、柚子の皮に醤油、砂糖、胡椒などを加えて煮込んだ伝統調味料「ゆべし」を加えて“味変”するのもおすすめとのこと。橙酢醤油とごまだれも用意されているので、お好みにあわせてセレクトを。
最後は、島原名産の手延べうどん「紅椿麺」で締め。あご出汁も全部飲みほしてしまうほどおいしい鍋でした。
デザートは、「枇杷のかんざらし 界 雲仙風」。かんざらしとは島原の伝統的な甘味で、シロップと白玉というとてもシンプルなものですが、界 雲仙では枇杷とあわせて提供されます。
中央にあるうぐいす餡の上には、枇杷の種の甘露煮。こちらも食べられます。また、シロップには琵琶茶を使用して香ばしい仕上がりに。
枇杷とシロップの優しい甘味と白玉のもっちり食感がよく合い、するりとお腹におさまりました。
朝は人気のアクティビティ「雲仙地獄パワーウォーク」に参加
宿泊した翌朝は、早朝に雲仙地獄を一周する人気のアクティビティ「雲仙地獄パワーウォーク」に参加しました。作務衣を着て、専用の足袋を履いてフロントに集合し、スタッフさんの先導のもとコースを歩いて行きます。
地獄ならではの硫黄の香り、噴気や熱気に包まれながら、ふだんよりも早足で歩くことで負荷をかけていくウォーキング。道も平坦ではなく上り下りがあるので、ただ早足で歩くだけでもでそれなりに運動になるコースですが、途中途中でスタッフさんの指示によりお腹の底から大きな声を出し、全身を使った動きもプラスされます。
スタッフさんいわく。この日は「レベル1から3まである」という中の「レベル1」の速さとのことでしたが、それでもさまざまな動きをしながらだとついていくのが大変な速度。残暑もあり、かなりの汗をかきました。
ウォーキングの最後に、「旧八万地獄(きゅうはちまんじごく)」という地獄の噴出活動を休止している場所の広場で寝転がり、体を整えるストレッチが行われます。
噴出はなくても地熱は残っているということで、地面を触ると温かさがありました。夏は暑いのでむしろ避けたいところですが、冬は猫が集まるほど暖をとれるスポットなのだとか。
雲仙地獄ならではの大地のエネルギーやパワーを感じられるスポットで、ヨガのような呼吸、動きで最後に心身を整えていきます。地面に寝転がりながら心地よい疲労が全身に感じられました。
しっかり汗をかいたあとは、作務衣の着替えも用意していただけます。部屋に戻って露天風呂を楽しんだり、大浴場でゆっくりしてから旅支度を整えるのがおすすめです。
朝食は「ご当地朝食」
「界」の朝食は、地域色を感じる食材や調理法を取り入れた「ご当地朝食」です。
界 雲仙は、長崎県島原地方の郷土料理「具雑煮」をメインとした和食膳。具雑煮は具だくさんの雑煮として親しまれており、かつて天草四郎が島原の乱の際に仲間たちの気力や体力を養うためにふるまったとされている歴史ある郷土料理です。
ほかにも、鯖の照り焼きや豚の角煮、温泉の蒸気で蒸したニンジンのジャムをのせた自家製のヨーグルトなどが並びます。
具雑煮を中心に、朝から体が温まり、活力が湧いてくる食事でした。
チェックアウト前にご当地楽「活版印刷~凹凸の魅力~」を楽しむ
全国に22施設ある「界」では、それぞれご当地の文化を体験する「ご当地楽」が用意されています。
「界 雲仙」で提供しているご当地楽は、なんと活版印刷体験。ご当地楽のためのスペースを設けているのは、「界」ブランドの中でも数少ないのだそう。
活版印刷は元々、4人の天正遣欧少年使節(てんしょうけんおうしょうねんしせつ)によって長崎県島原半島にヨーロッパから伝わったもの。そんな活版印刷のルーツを学びながら、実際に活版印刷機を使って体験をしていきます。
まずは、用意されているアルファベット、漢字、数字などの活字を選び、ピンセットでピックアップして印刷したい文言をセットしていきます。
細かい作業なので、気が付くと没頭してしまいます。何と言葉を入れようかな?と考えるのに時間がかかるかもしれませんが、文字を決めてしまえばあとは作業に集中するだけ。ふだんなかなかできない活字を並べる作業は、とても楽しいものでした。
活字を並べ終わったら、活版印刷機にセットして、自分の手で刷っていきます。実際にやってみると、なかなかに力のいる作業。ここでしっかり均等にインクをつけないと、文字がきれいに印刷されません。
文字を転写したカードは、界 雲仙オリジナルの封筒4色の中から好きなものを選んで入れて、持って帰ることができます。
旅の思い出に、ぜひ体験してみてください。
長崎ならではの和華蘭文化、そして雲仙という土地ならではの大地のパワーを感じられる「界 雲仙」。温泉でリフレッシュしながら明日への活力も得られる滞在を楽しんでみてはいかがでしょうか。
問い合わせ先
- 界 雲仙
- 料金/1泊 ¥25,000~(2名1室利用時1名あたり、税・サービス料込み、夕朝食付)
- TEL:050-3134-8092(界予約センター)
- 住所/長崎県雲仙市小浜町雲仙321
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 小林麻美