まるで現代の国際情勢を予期していたかのようなメッセージをはらむ映画『沈黙の艦隊』。漫画家のかわぐちかいじさんによる30年前の原作コミックの衝撃は今も色あせず、映画も多方面から関心を集めています。タブーに鋭く切り込む作品だけに、印象的なセリフも心に響きます。そこで、今作で主演とプロデューサーを兼任した大沢たかおさんと盟友役を演じた玉木宏さんに、映画のセリフにからめた素顔に迫る質問を直撃。“叶えたい理想”の話題から、おふたりの思わぬプライベートも飛び出しました。
【俳優・大沢たかお ×玉木 宏 インタビューVol.1】伝説の名作漫画『沈黙の艦隊』が実写化されてスクリーンに登場!
【俳優・大沢たかお ×玉木 宏 インタビューVol.2】副艦長役の水川あさみさんやソナーマン役のユースケ・サンタマリアさんと臨んだ、潜水艦映画撮影の裏側に迫る!
「あなた方は、この現実を見つめなければならない」は本当にすごいセリフ(大沢さん)
――映画『沈黙の艦隊』の予告を見ると、大沢さんの「あなた方は、この現実を見つめなければならない」というセリフの静かな迫力が耳に残ります。おふたりが“今見つめなければ”と感じていることを教えてください。
大沢 「このセリフは本当にすごいセリフだなと思っていて、映画の中のことは決して絵空事ではなく、実際本当にさまざまなことが厳しい局面になってきていますよね。僕らの俳優業もそうです。お客さんが世界中の作品を簡単に見られる時代になって、その中で僕たち役者や日本の作品が比較をされている。かつては日本国内だけのシェアで競争していたのが、YouTubeやインスタグラム、TikTok、配信サービスなどを通じて世界中すべてのコンテンツの中からいちばん面白いものが視聴される時代になった。そういう意味では“なんとなく面白い”だけでは到底成り立たない仕事になってしまったんです。こうした現実から目を反らしてフタをしたままでは進んでいけない時代に入ったんだなということを俳優として感じています。一個人としては、年齢とともにいろいろなことが見えてきて、これまで自分でフタをしてきたことにフタができなくなったとき、現実とどう向き合ってジャッジしていくかというのは、大人世代の課題かなと思っています」
玉木 「僕も大沢さんと同じです。手を抜いた瞬間に終わると思いますし、替えはいくらでもいるので、そうならないように現実と向き合わなければなりません。どんな役が来ても、やはり毎回難しいなと思いますが、難しさに向き合うことを畏れず、テクニックや経験だけに頼らないで、常に全力で臨まなければと思っています。『沈黙の艦隊』においても、エンターテインメント性が高い作品の中で、どうきちんとリアリティを追求していくのか。リアルに見せるためには何をどうすればそうなるかという想像やシミュレーションは、毎回どのシーンの撮影でも考えていました。少しでも疑問に思ったらそれを必ず言語化して、監督や現場にいるスタッフさんに伝えて消化してから臨んでいければ、よりよいものになるのではないかと思っています」
「何かを守りたい強い気持ちだったり、潜水艦の面白さをぜひ感じてみて」(玉木さん)
――今“実現させたい理想”や、たとえば今後10年で叶えたいことはありますか?
大沢 「先のことは誰にもわからないので、過去のインタビューでも僕は言ったことがないと思います。オファーがあってこそ成り立つこの仕事は基本的には受け身ですし、巧みで上手い若手の人もどんどん出てくる。そういう意味では10年後というのは先のことすぎてちょっと考えられないかなと。作品が成功し続けなければ先はありませんし、そういう意味では手の抜けない状況にいつもあります」
――常に選ばれ続けるために大切にされていることってどんなことでしょうか。
大沢 「この仕事を長くやっていますが撮影初日はいまだに、デビュー当時と同じようにドキドキしながら現場に行くことができるタイプなんですよ。でも逆にいうと、その緊張感がなくなったら終わりかなとも思うし、キャリアが増えれば増えるほど、見てくれる方の“飽き”とも闘わなくてはいけないですよね。経験を重ねたぶんだけ、新しいことを取り入れたり自分のエネルギー量を上げていかなくてはなりません。もちろん、リラックスする時間ももっていますよ。友達とご飯に行くのも好きだし、家でひたすらダラダラするのも好きですし。もうじーーーーっと窓の外を見ながら、ずーっと1日中座ってられますから。“ああ、鳥が飛んでる。飛行機が飛んでる”って(笑)」
玉木 「ええっ!(笑)」
大沢 「いや、昔はほんとにそんなことなかったんだけど、やっぱりひとつひとつの作品に傾けるエネルギー量が増えたからなのか、余裕が減ってきているのかもしれないですね。単純に何もしないのが楽しいんでしょう。そうそう、最近急に料理してみたいなと思ってつくることもあるんですよ。ふとタコスが食べたくなって材料を全部買って来て。YouTube見ながらミートからサルサソースまで全部つくりました(笑)。さしたる意味もなく普通のことをするのがすごく楽しい。ぼーっとしたり料理したりが、昔より楽しく思えるようになりました」
玉木 「僕も、未来のために何かしていることは特にないですが、仕事に熱量を注ぐのは当然なのかなと思いますし、そうではないところに夢中になれる何かを探したいなとも思っています。それでいうと、スポーツは継続的にしています。この職業はある意味なんでも屋さんなので、いつかそれを活かせる役が来るかもしれないという考えも頭の中にあります」
――ちなみに今は何のスポーツをされているんですか?
玉木 「ブラジリアン柔術です。それまでは15年間ぐらいボクシングをやっていたんです。ちょっと違うこともやりたいなと思ったときにたまたまいい出会いがあったので。始めてみたら性にあっていたのか、すごくハマってしまったんです。ブラジリアン柔術は格闘技ですが、基本的には護身術です。相手にダメージを与えずに、自分の身や家族などの大切な人を守るというマインドもすごく気持ち良かったんです。年齢を重ねても意外とできる種目というあたりもいいなと思っています」
――おふたりとも貴重なお話しをありがとうございました。『沈黙の艦隊』がますます楽しみになってきました。
玉木 「心理戦というのは男女問わず関心をもっていただけると思うので、きっと多くの方に楽しんでいただけるのではないかなと思っています。何かを守りたい強い気持ちだったり、潜水艦の面白さをぜひ感じてみてください」
大沢 「昨今は若い人向けの映画が多い傾向にありますが、もしかしたら『沈黙の艦隊』はその中でも数少ない大人の人に届いて欲しい映画かもしれません。ある程度社会で生きてきた世代の方たちに本当に見て欲しいと思っているんです。映画の中に出て来る人物たちは全員、この国になんらかの思いをもっています。潜水艦という閉ざされた密室の中で、世の中をなんとか良くしようと願って闘う、戦艦員たちの生きざまにご注目ください」
作品から少し焦点をずらした話題であっても、真摯に受け答えてくださるおふたりの視座の高さがとても印象に残る取材でした。映画では敵対関係でも同志とも言えない複雑な関係性である役どころの大沢さんと玉木さん。現代を生きる大人たちの心に響く話題作の驚きの顛末をぜひ、スクリーンで確かめてみてください。
■映画『沈黙の艦隊』9月29日公開!
日本近海で海上自衛隊の潜水艦が米原潜と衝突し、海江田艦長と全乗組員の死亡が報道される。しかし事故は、海江田が秘密裏に日米政府の作った原潜に乗船させるための偽装工作だった。海江田は核ミサイルを乗せたまま逃亡し、独立国家「やまと」を世界へ宣言する――
かわぐちかいじの人気漫画『沈黙の艦隊』を、大沢たかお主演・プロデューサーで実写映画化。事故を装って日本初の原子力潜水艦を奪った艦長と、彼を追う日米政府・海上自衛隊・米海軍を描く。
出演:大沢たかお、玉木宏、上戸彩、ユースケ・サンタマリア、中村倫也、中村蒼、松岡広大、前原滉、水川あさみ、岡本多緒、手塚とおる、酒向芳、笹野高史、アレクス・ポーノヴィッチ、リック・アムスバリー、橋爪功、夏川結衣、江口洋介
原作:かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社「モーニング」)
監督:吉野耕平
脚本:髙井光
音楽:池頼広
主題歌:Ado「DIGNITY」(ユニバーサル ミュージック)/楽曲提供:B’z
プロデューサー:松橋真三、大沢たかお、千田幸子、浦部宣滋
制作:CREDEUS
配給:東宝
(C)かわぐちかいじ/講談社
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■大沢たかおさん衣装クレジット/ニット¥72,600(インコントロ)
■問い合わせ先/インコントロ 03-6805-1082
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 中田陽子(MAETTICO)
- STYLIST :
- 黒田 領(大沢さん)、上野健太郎(玉木さん)
- HAIR MAKE :
- 松本あきお(beautiful ambition/大沢さん)、渡部幸也(riLLa/玉木さん)
- WRITING :
- 谷畑まゆみ