「舞台作品に取り組むたびに、愛情をもらっている気がします」と語る俳優・森田剛さん。最近は、社会派テレビドラマ『アナウンサーたちの戦争』(NHK)も話題になりました。人間の優しさと狂気を同時に表現する森田さんの最新主演作は、舞台『ロスメルスホルム』。この作品は、「近代演劇の父」と称されるノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセン(1828~1906年)の最高傑作のひとつともいわれる名作です。会話を重ねて、進んでいく難解な舞台作品を、森田さんはどう演じていくのでしょうか。

森田 剛さん
俳優
もりた・ごう/1979年埼玉県生まれ。アイドルグループ『V6』『Coming Century』として活躍。解散後は独立し、俳優として活動。代表作に映画『人間失格』、『ヒメアノ~ル』、『DEATH DAYS 劇場版』、NHK大河ドラマ『毛利元就』、ドラマ『ハロー張りネズミ』ほか多数

与えられたセリフは、自分の中に入れていきます」(森田さん)

――前編で、森田さんは「話している言葉と本心が異なることは、演劇的だ」と言いました。まさにそれは、主演作『ロスメルスホルム』が内包するテーマのひとつ。個人の生きづらさや人間関係の悩みも、言葉によって生まれているところがあります。

「まだ台本をこれから読み込む段階なので、作品の印象について僕が深く語れることはないんです。というのも、稽古に入る前にセリフを覚えて、人物をつかんでも、稽古が進むうちに、作品の印象はどんどん変わっていきますし。感覚で『言葉の裏に何かありそうだな』とは思うのですが、今の時点で作品についてはあまり話すことはないというか、話せないというか…やはり、稽古を終えて、作品のことがもっとわかってから話したいです」

――観ている側も、事前の評判以上に、本番の舞台を観て、衝撃を受けることが多々あります。

「そうなんですよ。この“リアルに感じる”ということに、僕は重きを置いているんです。どんな作品でもそうですが、先入観が邪魔になることが多々あるのでなるべく余計なことを削ぎ落として、素の自分で作品に入っていくよう心がけているんです。そうすることで、演じる人物の無意識の部分に焦点をあてられると思うから。
僕が演じる『ロスメル』は歴史がある家の当主。生まれた時から置かれている状況って、あまり疑問を持ちませんよね。それがある時から、この状況がおかしいと気付く。その時に、その人がどう立ちふるまうのか。それを細かく濃く、見せすぎず演じることがポイントかなと思います」

俳優・森田剛さん
「“リアルに感じる”ということに、重きを置いている」(森田さん)

――共演者は確かな演技力で知られる俳優・三浦透子さん。連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』や大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(ともにNHK総合)などで高い評価を得ています。三浦さんが演じるのは、ロスメルスホルムに下宿し、亡き妻に代わって家を仕切り、ロスメルにも強い影響を与える人物です。三浦さんの印象をお聞かせください。

「うーん…なんだろう、先日、ビジュアル撮影でお会いしましたが、“同じ温度感”を感じましたね。そして先日、ポスターの撮影の時に初めてお会いして、『頭のいい人だな』と思いました。そこは僕とは違うところかな(笑)。
初めてご一緒するのですが、三浦さんのことをほとんど知らないんです。先ほど、先入観の話をしましたが、お会いする前にその人の経歴などを知ってしまうと、それが邪魔をしてしまう。
僕にとって予備知識はノイズでしかないんです。特に芝居の場合、役者同士が向き合った時がすべてというか、これは、共演者の方々はもちろん、スタッフさんに対してもそう思っています」

「そういう意味でも“直感的”なほうなのかも。『台本を読まずに寝かしている』と話しましたが(前編参照)、スイッチが入る瞬間があるんですよ。その時にグッと入り込みます。
それがいつなのかというと…う~ん、このインタビューから5日後くらいかな(笑)。稽古の初日から逆算して『この日だ!』と確信するタイミングが来るんです。
そのときは、全てをシャットアウトして、一人になれる空間を作り、ひたすら台本とにらめっこ。台本を声に出して読み、言葉にして出していく。それを続けるうちに、体に言葉を入れていくという感覚が出てきます」

俳優・森田剛さん
「舞台は演じる人物の人生のほんの一部」(森田さん)

「とはいえ、舞台は演じる人物の人生のほんの一部なんですよね。だから、与えられたセリフを、連日繰り返し読み、自分の中に入れていきます。
台本を読むのは好きですよ。だからこそ、密度の濃い時間を長く取りたいと思っています。好きとはいえ、苦しい時もありますが、その先に喜びがあるのが演劇。体力も精神力も必要だからこそ、達成感とやりがいがものすごくあります。毎回新しい作品に会うたびにそう思っています。」

「相手に揺さぶられて想像が広がり、選択肢が増えていくことが好き」(森田さん)

――PR 動画では、作品について「まっすぐな人が、人間によって揺さぶられていく」と語っていました。森田さんは常にクールでフラットという印象があります。最近、誰かに揺さぶられたエピソードをお願いします。

「仕事ではありますよ。アイディアを出したり、物事を決める場で誰かの意見を聞き、『その手があったか!』と思うことは多々あります。
僕はこういう“アイディア”が欲しいタイプなんです。自分で決めたことが、相手に揺さぶられて想像が広がり、選択肢が増えていくことが好き。舞台作品を作り上げるというのは、そういうことの連続のような気がします。ですから、今回どのように仕上がっていくのか、演じる僕自身が楽しみでもありますね」

俳優・森田さん
「どのように仕上がっていくのか、演じる僕自身が楽しみ」(森田さん)

作品のたびに、深みと円熟が増していく森田剛さん。「この作品はきっとご覧になる方にとっても、すごく集中力と体力がいると思いますが、きっと大きなものを感じてもらえると思います」と語る『ロスメルスホルム』では、どんな「揺さぶり」を私たちにかけてくれるのでしょうか。劇場という濃密な空間で、体感したくなりました。


■『ロスメルスホルム』公演情報

●上演スケジュール

愛知公演/2023年10月28日(土)・10月29日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
福岡公演/2023年11月3日(金・祝)~11月5日(日) キャナルシティ劇場
兵庫公演/2023年11月10日(金)~11月12日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
東京公演/2023年11月15日(水)~11月26日(日) 新国立劇場 小劇場

●キャスト・スタッフ

出演/森田剛、三浦透子、浅野雅博、谷田歩、櫻井章喜、梅沢昌代
原作/ヘンリック・イプセン 脚色/ダンカン・マクミラン 翻訳/浦辺千鶴 演出/栗山民也

●あらすじ

歴史と伝統に縛られたロスメルスホルムと呼ばれる屋敷には、所有者ヨハネス・ロスメル(森田剛)と家政婦のヘルセット(梅沢昌代)、レベッカ(三浦透子)という女性が下宿人として住んでいた。ロスメルの妻ベアーテは自殺している。
ある日、妻の兄・クロル教授(浅野雅博)がやってきて、モルテンスゴール(谷田)が掲げる「新しい進歩主義」に対抗すべく、ロスメルを保守派に引き込もうとする。しかし、ロスメルはレベッカの影響もあり、これまでの価値観から解き放たれようとしていた。
ロスメルの説得を試みるクロルは、ベアーテの死の原因は、レベッカだと伝える。ロスメルはレベッカを「進歩主義の同志」と思っていたが、その気持ちは愛情だったのか…心に罪を抱いたロスメルとレベッカが選んだ道とは?

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この記事の執筆者
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PHOTO :
高木亜麗
STYLIST :
SATOSHI YOSHIMOTO
HAIR MAKE :
TAKAI
WRITING :
前川亜紀