登山は今、どのような年齢層の方に楽しまれているのでしょうか。

総務省が実施した平成23年の「社会生活基本調査」によると、15歳以上の「登山・ハイキング」を行った人のうち、行動者率は男性9.4%、女性が8.6%で、男性のほうがやや高い状況でした。また、年齢でみると、男性は65~69歳(13.2%),女性は60~64歳(12.0%)で最も高い結果になっています。

このうち、40~44歳の女性は10.2%、45~49歳の女性は9.0%となっており、各年代と比べてもやや少ない傾向になっていました。登山は、どちらかといえば高齢者向けで、生涯長きに渡って楽しめるスポーツ・趣味であるといえそうです。

今回は、女性の登山ガイドの方に40代から登山をはじめるにあたり、楽しみ方や注意点を教わります。

40代で女性が登山を始めるなら、まず「初心者向けの山で、自分の体力」を知ること

40代女性の登山ことはじめ

今回お話を伺ったのは、公益社団法人日本山岳ガイド協会認定・登山ガイドステージⅢの菅野由起子さん。まずは40代の女性が登山を趣味としてはじめるときに、一番にやっておくべきことを教えていただきました。

「野外で活動する登山は、自然からの影響をダイレクトに受けます。晴れていれば快適そのものだった山登りも、ひとたび天気が崩れると、これが同じ山かと思うほどに大変な労力を強いられることがあります。登山で重要なのは、自然を知ること。そして自然の変化に落ち着いて対応するためには、体力にゆとりがあったほうが安心です。これから登山をはじめようという方は、まずは今の自分の体力を知り、自然の中での自分の対応力を把握することが大切です」

まずは自然を知り、自分の体力を知ることがポイントといえそう。具体的には何から始めればいいでしょうか。

「まずは天気の安定した日に、日帰りで行ける初心者向けの山に登ってみることをおすすめします。そこで『余裕を持って楽しめた』『ちょっとキツかった』『物足りなかった』となどの実感により、現在の自分の体力を知ることができます。登山をする友人に連れて行ってもらう、登山ガイドと行く、初心者向けの登山ツアーに参加するなどさまざまな方法があります。自分の今の体力を把握し、無理なく楽しく活動できる範囲を理解できていると、より長く登山を楽しんでいけると思います」

登山を楽しむ体力を身につける2ステップ

日ごろ、あまり運動習慣がないと、「体力的にキツそう」と不安になりますよね。また、登山は腰が悪い場合、難しいのでしょうか。

■1:日ごろからの運動で体力を養う

「ランニングやウォーキング、フィットネスなど、日頃から運動をしていれば体力的にゆとりができます。普段の生活においても、駅やオフィスでの階段の上り下りなどを利用して運動を意識してみましょう」

■2:自分の健康状態に合わせた登り方を

「腰が悪い方であれば、必要以上に腰に負担をかけないよう軽量な装備で行ける日帰りハイキングを選択。膝や脚力に不安のある方でしたら、アップダウンの少ない山や、ストックやサポートタイツなどうまく利用するとカバーできます。自分の健康状態などに合わせた登り方を選べるのが、山登りの良いところです」

腰痛持ちなどの場合は、自己判断せず、必ずかかりつけの医師に登山やハイキングを行っても良いか確認してからにしましょう。

登山は運動に加え、プラスアルファのものが得られる機会

40代の女性にとっての登山にはどのようなメリットがあるのでしょうか。菅野さんは次のように話します。

「仕事や家庭などで、色々と責任ある立場に立たされることの多い40代。日々の疲れやストレスから自分を解放するための趣味やリラクゼーション効果のある活動は多々ありますが、そこで登山を選ぶメリットとして、日常を脱したところに身を置くことが大きいかと思います。私のお客さんでも 『ただでさえ仕事で疲れているのに、なんでまた登山のような疲れる運動をやっているの?』と周囲から驚かれている人も少なくありません。そんな彼女たちに登山の魅力を聞くと、『山頂からの眺めが素晴らしいから』『山に咲く花々などの美しい自然と出合えるから』『日常を忘れて無心に打ち込めるから』などと話します。疲れてもなお、自然から得るものの多さだったり、視覚や聴覚、皮膚感覚など外部からの刺激があったりと、体を動かすことに加え、プラスアルファの要素が多いことが、脱日常・ストレス発散にいい影響になっているのではないかと思います」

山に咲く花々などの美しい自然と出合えるのも登山の魅力

女性が気になる登山の素朴な疑問Q&A!

ますます登山への思いが募る中、登山にまつわる素朴な疑問が次々と湧いてきます。菅野さんに女性が気になることをお答えいただきました。

Q1:日焼けが気になります。どのように対応すればいい?

「標高が高くなればなるほど、受ける紫外線の量は多くなります。日焼け止めをこまめに塗り直すことと、肌をできるだけ露出しないことが大切です。私はつばのある帽子を被って長袖のロングTシャツを着たり、半袖にシャツに通気性のある長袖のシャツをはおったりしています。半袖シャツにアームウォーマーをプラスして、暑さに対応できる形で日焼け対策をしている方もいます。 肌だけでなく、目も紫外線から守りましょう。UVカット加工をしていないただ色の濃いサングラスをつけていると、瞳孔が開いた状態のところに紫外線がどんどん入ってきてしまうので危険です。私はUVカット加工がされていることはもちろん、できるだけ試着して、自分の顔の形に合ったサングラスを選ぶようにしています」

Q2:山道で急にトイレに行きたくなったら、どうする?

「地図やガイドブックなどから事前にトイレ情報をチェックしておくと安心です。人気コースの場合、登山口付近にトイレが完備されていることが多いです。また、途中にある山小屋や茶屋などでも借りることができます。その際は100円ほどのチップが必要なので、100円玉を用意しておくとスムーズです。 タイミングよくトイレがない場合は、携帯トイレを使って野外ですることもあります。他の人に見られないようにと登山道から離れすぎても危ないので、仲間に見張りに立ってもらうなどをして、足場の安定した場所でするようにしましょう。最初はなかなか勇気がいるかと思いますが、慣れてくると意外に平気なものですよ。我慢をすると身体によくないですし、集中力が散漫となって思わぬ事故や怪我を引き起こしかねません。また、トイレを心配して水分補給を控えると、体の体温調整機能がうまく働かなくなり、熱中症などを引き起こしかねません。過度な我慢は禁物です」

Q3:遭難したらどうしようと、不安なのだけど…

「登山前には、行動予定や持参装備、事故などに遭遇した場合の緊急連絡先などを記入した『登山計画書(登山届)』を作成・提出しましょう。自分がどういうルートを歩くのかを予習でき、かつ計画に無理がないかどうか、装備に不足がないかどうかを確認することもできます。また、万が一遭難した場合でも、登山計画書があれば、捜索する側がある程度の範囲を絞って探すことができます。最近はメールやインターネットでも提出できるようになったので、ぜひ有効活用してみてください。 また、みなさん、いざというときに対応できるツエルト(簡易テント)や予備の食料などを持参したり、山岳遭難救助に対応した保険に加入したりしています。保険は、山行ごとの短期補償から年間契約の長期補償、遭難救助にかかる費用だけに特化したものまでさまざまなタイプがあります。ご自身の年間登山回数や、すでに加入している傷害保険のタイプに合わせて選ぶといいと思います。また、インターネットで加入できる保険もあります。明日からの登山にも対応してくれることが多いので安心です」

初心者におすすめの山は? 高尾山、丹沢の大山、北八ヶ岳、入笠山など

登山に興味が湧き、具体的に行動を起こしたくなってきた方へ、都内在住で登山初心者の場合におすすめの山を菅野さんに伺いました。

初心者におすすめの山は?

「ガイドブックなどで紹介されている『人気の山』から登ってみるのがいいでしょう。人気の山ほど道標などの整備が行き届いている場合が多く、また人が多いため、何かトラブルにあったときに対応してもらえる可能性が高くなります。さらにケーブルカーやロープウェイなどの乗り物を利用できる山だと、体力的に厳しくなってしまった場合など、万が一のときにエスケープとして使える手段が増えるので、安心に繋がります。 例えば、高尾山ならケーブルカーやリフト、丹沢の大山はケーブルカーが利用できます。

また、冬場はスキー場としても賑わう北八ヶ岳や入笠山は、グリーンシーズンはロープウェイやゴンドラを利用して登山を楽しむことができますよ」

生涯に渡って楽しめる趣味になる登山。今から準備をはじめてみるのもよさそうです。まずは、登山の準備と登る山を決めるところから。もちろん、体調管理や体力づくりも欠かさずにしていきましょう。

登山は生涯に渡って楽しめる趣味
菅野由起子さん
公益社団法人日本山岳ガイド協会認定・登山ガイドステージⅢ、スキーガイドステージⅠ
(かんの ゆきこ)シュラフに寝てみたくて、20歳のときに社会人山岳会に入会。山岳雑誌出版社、登山用品店の勤務を経て、2007年から登山ガイド業をスタート。新潟県上越市を拠点に、妙高・戸隠エリアや八ヶ岳、北アルプスなどを中心に活動中。
カンスケヤマガイズ
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
石原亜香利