「どら焼き」はもともと円盤の形ではない?
ふっくらとした円盤状の生地に、小豆餡が挟まれた定番の和菓子、「どら焼き」。
表面に薄く焼き色がついたしっとりとしたカステラ風の生地は、ほのかに香ばしく甘い香り。ホッと和むやさしい味は、子供から大人までどの世代にも人気です。
そんな誰もが知る和菓子の「どら焼き」は、なぜ円盤状の形をしているのでしょうか?
そんな疑問に答えてくれたのが、大阪の老舗あんこ屋「茜丸」の茜太郎さん。今回は茜太郎さんに聞いた、どら焼きの秘密を紹介します。
–– そもそも、どら焼きはいつごろつくられたお菓子なのでしょうか?
「どら焼きの発祥については諸説あり、『いつ』『どこで』がはっきりしていないんです。
一説には、『源 義経が奧州へ落ちのびる際に、武蔵坊弁慶が銅鑼で焼いた生地にあんこを合わせた御菓子をつくったから』というエピソードがあります。こう聞くと、なんだかロマンがありますよね。今のような、ふっくらした2枚の生地であんこを挟むようになったのは、意外にも最近のことで、大正時代からといわれています」(茜太郎さん)
ドラえもんがタイムマシンで遡った過去が明治時代なら、どら焼きは食べられないってこと!?
■ 「どら」=「銅鑼」は有力説。円盤状の美しい形が必然的に定番化
–– よく「どら焼きの『どら』は楽器の『銅鑼』に由来している」といわれます。円盤型は銅鑼を模しているのでしょうか?
「そのいわれは諸説ありますが、最も有力なお話です。『銅鑼に似ている色と形だから』や『銅鑼を熱して、どら焼きを焼いたから』などともいわれています。
ただ、私が製造をしていて思うに、どらさじで生地をすくい、銅板に垂らすと生地が自然と同心円状に美しく広がっていくということも、関係しているのではないでしょうか。逆に、円形以外の形に焼こうと思うと、型に落とさないかぎり、なかなか均一な形をつくることができません。
早く均一に、かつ美しく生地を焼こうとすると円盤状が最良で、合理的だと思います。なので、どら焼きは円盤状の形をしているのではないでしょうか。
また、『丸い形』というのは、欠けたところがない完璧なイメージがあります。丸く収まる円満なイメージ。形として非常に印象がよいです。
それもあって、円盤状になっているのではないかと思います」(茜太郎さん)
■ どら焼きが別名で「三笠」と呼ばれる理由
–– 関西を中心にどら焼きを「三笠」と呼ぶところもありますが、それはなぜですか?
「奈良県に『三笠山』という山があります。
三笠山は、なだらかでとてもやさしい姿をしており、ふっくら焼けたどら焼きに形が似ているので、名前を頂戴したといわれています。
余談ですが、三笠山の近くには東大寺など著名な寺社がたくさんあり、とても美しいところです。もちろん山にも登れます。関西に立ち寄られたら、ぜひ足を延ばして訪れていただきたいスポットです」(茜太郎さん)
■ 桜の季節限定に青いあんこ。ユニークで新しい「どら焼き」
–– 現在のどら焼きで特に人気のあるものを教えてください。
「最近は、どら焼きもだんだん個性的になってきています。
型で抜いたり、半月状に折ったりと、変わった形のどら焼きも出ているようです。当社でもバレンタイン限定で、ハート型に焼いたどら焼きを販売しましたが好評でした。
桜の季節が近づくこの時期に、最も人気なのが「さくらあん」を挟んだどら焼きです」(茜太郎さん)
「こぼれんばかりのあんこをたっぷり挟んだ「なんじゃどらやき」シリーズの春限定商品です。さくらあんは、国産の大島桜の葉の塩漬けをアクセントに入れており、桜の香りとほんのりした塩気がマッチしています。
桜を見ると、『今年も無事に春を迎えられたんだなあ』と本当にうれしく、ありがたい気持ちになります。そんな気持ちをなんとかどら焼きに表現したくてつくりました」(茜太郎さん)
ー珍しい「青いあんこ」のどら焼きも人気だと聞きました。
「『ラムネどら焼き』は、目が覚めるような鮮やかなブルーのあんこと、ミルキーなホイップクリームを挟んでいます。
冷たく冷やして食べるどら焼きで、暖かくなってくるこの時期から、注文が増えてきます。『あんこが青い!』ということがSNSなどで話題になり、それをご覧になったお客様から『どら焼きにしてほしい』とご要望いただいて、開発しました」(茜太郎さん)
非常に身近な存在で、手軽に購入できるどら焼き。その発祥はとても昔まで遡ります。長い歴史を経て形を変え、新しい工夫や改良を重ね、人々に愛され続けている和菓子のひとつです。明日のおやつには、ぜひどら焼きを食べてみてはいかがでしょうか?
問い合わせ先
- 茜丸 TEL:0120-506-108
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 高橋優海(東京通信社)