東京・目黒区に建つミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」。東京都指定有形文化財「百段階段」では、「千年雛めぐり〜平安から現代へ受け継ぐ想い〜百段雛まつり 2024」を2024年3月10日(日)まで開催しています。

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「雛山」

エントランスホールに入ると、苔に覆われた山の上に展示されたお雛さまが目に入ります。宮崎県綾町で行われている「雛山(ひなやま)」というもので、起源は江戸時代にさかのぼると言います、女性は山の神とされ、「山の神が住むのにふさわしいものでお祝いをしてあげたい」という想いから、雛山が作られているそうです。

この雛山から、4年のときを経て開催に至ったという本展示に対する意気込みを感じます。

ホテル雅叙園東京の「千年雛めぐり〜平安から現代へ受け継ぐ想い〜百段雛まつり 2024」鑑賞レポート

■1:さまざまな時代や地域のお雛さまを展示/十畝(じっぽ)の間

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十畝の間には通常小上がりがなく、この展示のために設えているそう

階段を上がり、最初に訪れるのは「十畝(じっぽ)の間」。「百段雛まつり」をテーマに、江戸時代から平成までのお雛さまが展示されています。

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「立雛(たちびな)」

雛人形は、平安時代の流し雛が原型だったそうです。そのときの人形は立ち姿だったことから、立ち姿の雛人形「立雛(たちびな)」が生まれたと言われています。

慎ましいお雛様に見えますが、「木の銅で腕を取り付ける」「衣裳の生地を型紙に合わせて裁断する」など工程が多い上に、衣裳には豪華な刺繍が入った生地を使うなど、じつは意外と手が混んでいるそう。何人もの職人によってひとつの人形が作られていたことに驚きます。

ホテル雅叙園東京の「千年雛めぐり〜平安から現代へ受け継ぐ想い〜百段雛まつり 2024」
「古今雛(こきんびな)」

お雛さまの形も時代によって流行りがあり、さまざまな形があると言います。雛人形は京生まれで、こちらの「古今雛(こきんびな)」の主産地も京でしたが、寛政年間(1789年〜)になると、江戸でも作られるようになったそうです。

同じ古今雛でも、京阪風はふっくらとした公家を思わせる目を描くのに対し、江戸風は両眼にガラス玉や水晶玉をはめこみ、生き生きとした表情になっているといった特徴があります。また、江戸風の雛は手を隠すなど、産地によって手元にも違いがあるそうです。

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「人形の東玉」の雛人形

日本一の人形の町と言われる埼玉県岩槻市の老舗人形店「人形の東玉」の雛人形も展示。エントランスホールの「雛山」にも人形の東玉の雛人形を使用しています。

■2:座敷雛で『源氏物語』や「葵祭」の世界観を再現/漁樵(ぎょしょう)の間

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約800体の人形が展示されています

純金箔、純金泥、純金砂子で仕上げられた豪華絢爛な「漁樵(ぎょしょう)の間」へ足を踏み入れると、人形の多さと色彩の豊かさに圧倒されます。

福岡県飯塚市の「座敷雛」の展示で、中央部分は京都三大祭りのひとつ「葵祭」の風景を、奥は宮中の景色を表現しています。座敷にすわり、目線を低くして鑑賞すると、より人形の世界に入り込みやすくなるのでおすすめですよ。

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馬に乗っているのが光源氏。この展示の至る所に登場します

今年のNHK大河ドラマの題材でもある『源氏物語』を舞台にした本展示。主人公の光源氏はもちろん、その正妻である葵上や最愛の女性である紫上、親友の頭中将、そして源氏の君を愛するあまり、生き霊になってしまう悲しい女性・六条御息所も登場します。

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倒れている牛車に乗っている六条御息所

光源氏の姿を見ようとお忍びで出かけた六条御息所は、光源氏の正妻・葵上の車と場所取りをした結果、車が壊れ、押しやられてしまいます。生き霊になったきっかけと言われる有名な「車争い」の描写です。周囲で争っている従者たちの豊かな表情も見ていて飽きません。

たくさんの人形たちでさまざまなシーンを表現しているため、じつは光源氏は一体ではありません。「これは誰だろう」「これは何のシーン?」と想像を膨らませながら、何時間でも楽しめそうな展示となっています。

展示には、現代風の要素も取り入れられています。「リア充の集い」や「女子会」を表現した遊び心あふれる場面もあるので、会場で探してみてくださいね。

■3:温かみのある「つるし飾り」や「創作人形」の世界/草丘(そうきゅう)の間

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祭りや茶摘みなど日本の四季が凝縮されています

続いて、「うしくのひなまつり」をテーマにした「草丘(そうきゅう)の間」へ。茨城県牛久市で活動するグループ「花工房猪子庵(はなこうぼうししこあん)」によるつるし飾りや創作人形を展示しています。

まず目に飛び込んできたのは、中央の展示。創作人形が季節ごとの年中行事を楽しむ様子を鑑賞できます。人形たちの世界を彩る小さな海苔巻きやお月見団子、こたつの上のみかんなどの小物がかわいく、姿勢を低くして、じっくり眺めてしまいました。

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節分の展示。あちこち動き回り、鬼を撃退する豆たちがかわいい!

窓側には、日本の昔話コーナーも。「桃太郎」や「わらしべ長者」、「かさじぞう」などの物語が展開されています。

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「かさじぞう」

床脇(とこわき)には、女の子の創作人形や羽子板、小さな着物などの優美な作品が。女の子たちが貝合わせのような遊びをしている姿が微笑ましいです。

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女の子の健やかな成長を願う雛飾り「犬筥(いぬばこ)」も

ひと針ひと針、丁寧に縫い上げられたつるし飾りや創作人形に、温もりを感じます。

■4:洗練された現代のお雛さま/静水(せいすい)の間

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中央奥の2対の人形以外は、今回の展示のために製作したそうです

「静水(せいすい)の間」では、滋賀県東近江市で活動を続ける人形師・東之湖(とうこ)氏による現代のお雛様を鑑賞できます。お雛様の等身や着物の色合いから、スタイリッシュな雰囲気を感じます。

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着物には近江の名産・麻を使用し、美しい色合いに染め上げています

本展示は琵琶湖を舞台にした「清湖雛物語」という創作物をテーマにしており、中央奥のお内裏さまとお雛さまがその土地を司っているそうです。左側色はソメイヨシノが湖面に映えている様子を現し、右側の緑色は、琵琶湖周辺の田園や緑地、風などを現しています。

布の角度や重ね方で表現する豊かな色合いは幻想的で、時間を忘れて見入ってしまいます。

■5:江戸時代からのミニチュアの世界を堪能/星光(せいこう)の間

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「象牙製芥子雛と七澤屋の雛道具」。雛人形の頭と手足は象牙でできています。雛道具は、江戸時代の名店「七澤屋」のもの

「星光(せいこう)の間」のテーマは「極小の雛道具」。雛道具の収集や研究をしている川内由美子氏のコレクションの一部を展示しています。

もともと海外のドールハウスなどのアンティークを収集していた川内氏が小さな雛道具を集め始めたのは、今から約30年前のこと。親や親戚から代々受け継ぐ物だと思っていた雛道具を骨董市などで買えることを知り、買い集めるようになったと言います。

江戸中期に「贅沢禁止令」がたびたび発令され、八寸(約24cm)以上の雛人形が禁止されるなど、雛人形の材料や大きさが規制されました。そうした反発や工夫などから、精密な細工を施した「芥子雛(けしびな)」が流行り始めたそうです。

これらの雛道具はおもに大名家に飾られていましたが、注文して作ってもらう「あつらえ」ではなく、どこの家も中身が共通していたそうです。

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ひとつひとつが精巧に作られており、じっくり見てしまいます

江戸時代に人気を博した「七澤屋」の研究をしている川内さんは、七澤屋の雛道具の特徴を「小さくても中身がちゃんと入っていること」と言います。道具箱には琴の爪や硯が入っており、書物には「百人一首」の歌が書かれています。

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「犬筥(いぬばこ)」。豆粒サイズのものもあります

筆者が個人的にお気に入りだったのが、「犬筥(いぬばこ)」のコーナー。雄雌で一対となっており、婚礼行列の先頭を歩いたと言われています。なんともいえない表情で、かつひとつひとつ表情が異なるので、ずっと眺めていたくなります。

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江戸時代のガラス細工は、それ自体が珍しいそうです

こちらは約200年前に作られたガラス細工です。写真で見ると大きさがわかりづらいですが、手指の爪くらいのミニチュアサイズもあるほど小さなもの。繊細な模様は、すべて手で彫られているとのこと。江戸時代の職人の技術の高さに驚かされます。

■6:10人の作家による癒やしの「ねこアート」/清方(きよかた)の間

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柳岡未来作「春日」

「清方(きよかた)の間」に入ると、目に入るのはたくさんの猫。10名の現代作家による「ねこの雛まつり」が開催されています。

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櫻井魔巳子作「猫雛」

「猫雛」は、猫を擬人化した作品を作っている櫻井魔巳子氏の作品。「猫といえば魚」ということで、着物や屏風の柄に海モチーフを使っていると言います。粘土の一種を使用し、アクリル絵の具に砂の粒子を混ぜて彩色することで、ザラっとした仕上がりに。

近くで見ると、猫の表面に砂の粒子の凹凸があり、毛のような風合いに。擬人化しながらもほどよい獣感も残っていて、とても魅力的です。

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「稲田敦のひニャ〜祭り‼︎」

さまざまな素材や刺繍を取り入れた稲田敦氏の「稲田敦のひニャ〜祭り‼︎」。最初に目にしたときのインパクトの大きさと細かい部分のかわいさに、一度見たら忘れられなくなってしまいます。

ほかにも、友禅染絵や創作人形など、さまざまなねこたちがお部屋を彩ってくれます。

清方の間の展示品が気に入ったら、購入して自宅に飾ることも可能です(購入作品は会期閉会後に送付)。申し込みや問い合わせはミュージアムショップで受け付けています。

■7:中身も柄も異なる縁起物の「てまり」/頂上の間

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全国各地のてまり

最後の「頂上の間」へたどり着くと、色とりどりのてまりが目に飛び込んできます。東京・北千住のてまりファクトリー「はれてまり工房」による展示で、秋田から沖縄まで日本各地のてまりを鑑賞できます。

てまりは、「丸く納める」「ご縁を作る」などの意味を持ち、ハレの日の贈り物として使われてきたと言います。

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「さげもん」

福岡県柳川市でお雛さまと一緒に飾られるという「さげもん」。下の方には「はいはいをしている人形」などのモチーフがあり、上の方には食べ物などのモチーフ、間には「まり」がつるされています。ひとつのさげもんには51個のモチーフがありますが、昔は「人生50年」と言われていたことから、それよりも長生きしてほしいという願いが込められているそうです。

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「松山姫手まり」

同じてまりでも、地域によって中身や柄が異なります。

つややかな愛媛県の「松山姫てまり」は、海外の方からも人気が高いと言います。福島県の「只見の手毬(てんまり)」は、山菜の「ゼンマイ」の横に生えてくる綿を加工し、丸めているそう。滋賀県の「びん細工手毬」は、瓶の中にてまりが入っており、一体どうやって作っているのかがとても気になります。

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はれてまり工房による菱餅のカラーを取り入れたインスタレーション

会場には、はれてまり工房による「芽吹き」をイメージしたインスタレーションも。どこかにハート模様が隠れているので、会場で探してみてくださいね。


ミニチュアやねこ、『源氏物語』など、さまざまなアプローチからお雛さまを楽しめる本企画は、部屋を訪れるたびに別世界に突入したような感覚に浸れます。

文化財「百段階段」は1935年に建てられた木造建築です。展示品保護のため、一部の会場は暖房を使用していないため、暖かい服装や厚手の靴下の着用などの寒さ対策をして訪れるのがおすすめですよ。

問い合わせ先

  • ホテル雅叙園東京 
  • 開催期間/〜2024年3月10日(日)
  • 開催時間/11:00〜18:00(最終入館17:30)
  • 料金/大人 ¥1,600、高校生〜大学生 ¥1,000、小学生〜中学生 ¥800
  • TEL:03-5434-3140(10:00〜18:00)
  • 住所/東京都目黒区下目黒1-8-1

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この記事の執筆者
フリーランスのライター。企業の採用サイトやパンフレット、女性向けの転職サイト、親向けの性教育サイトなどで取材記事を執筆。好きなもの:中村一義、津村記久子、小川洋子、マンガ、古いもの、靴下など
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