「芒種」は二十四節気のひとつで、「芒(のぎ)をもつ穀物の種を播 (ま) く時節」という意味をもっています。気象的には梅雨入りの頃。田植えや蛍狩りが、この時期の風物詩でした。今回は「芒種」について、その意味や由来、「縁起がいいとされる理由」、英語表現など、ビジネス雑談に役立つ知識あれこれをお伝えします。
【目次】
【「芒種」とは?「読み方」と「意味」、「由来」を解説】
■「読み方」
「芒種」は「ぼうしゅ」と読みます。
■「芒種」ってどんな「意味」?「由来」は?
「芒種」は二十四節気のひとつです。「芒」はススキを指すほか、「のぎ」と読み、稲や麦など、イネ科植物の穂先、棘のように尖った毛の部分を指します。「芒」をもつ穀物の「種」をまく時節、というところから、「芒種」と言われるようになりました。旧暦では4月末から5月上旬、新暦では6月8日ごろ。気象的には、梅雨入りのころにあたります。現在は品種改良が進んだために早まっていますが、昔はこの時期に田植えをしました。というのも、日本では水田に種をまくのではなく、苗代を田植えする方法が一般的ですが、当時の苗代は寒冷に弱かったため、植えるのは初夏に向かう芒種の時期が適していたのです。また、「芒種」は夏の季語でもあります。
■「二十四節気」についておさらい!
二十四節気とは、古代中国でつくられた季節の区分法です。黄道(地球から見て太陽が移動する天球上の経路)を基準に、1年を24等分して気候の推移を示します。そのため、各節気の期間は約15日。例えば、「芒種」といった場合、「芒種」に入る日を指す場合と、「芒種」にあたる期間を指す場合があります。
【縁起がいいと言われる理由は?】
「芒種」で種をまいた植物は、これからどんどん成長していきます。そのため、「芒種」はものごとを始めるのに縁起がよいとき、とされています。日本では古来より「稽古始め」は数え年で6歳の6月6日に行うという習わしがあり、この日に稽古を始めると上達しやすいと言われていました。その由来は室町時代に能を大成した世阿弥です。世阿弥はその著書『風姿花伝(ふうしかでん)』の冒頭で、「この芸において、おほかた、七歳をもてはじめとす」、つまり「稽古を始めるのは数え年7歳(満年齢だと6歳)がよい」と書いています。さらにここから、「6歳の6月6日」となったのは、江戸時代の歌舞伎の言い回しや、指の形が由来しているという説が。手を開いた状態から指を折って数を数えてみてください。1から始めると6で「小指が立つ」でしょう? ここから、「子が立つ」つまり「子どもが独り立ちする」ことを表したのでは、といわれています。現代でも、6月6日は「楽器の日」や「いけばなの日」「シニアピアノの日」など、さまざまなお稽古事の記念日として登録されています。
【2024年の「芒種」はいつ?】
2024年の「芒種」は6月5日。期間は6月20日までの15日間です。太陽の軌道は一定ではないため、「春分」「夏至」をはじめとした二十四節気の日付は固定されておらず、毎年国立天文台暦計算室によって定められます。そのため、1日程度前後するのは珍しいことではありません。「芒種」の期間は全国的に梅雨入りし、蒸し暑くなりますね。体調や食糧の管理には十分気を付けましょう。
ちなみに二十四節気では、「芒種」の前は「万物が次第に長じて天地に満つる」という意味の「小満」、「芒種」の次は「日長きこと至る(きわまる)」、つまり一年でもっとも昼が長い「夏至」となります。
【芒種の過ごし方、食べ物は?】
温度や湿度も上がってくる「芒種」のころ。以前は全国各地で田植えが見られたほか、蛍や紫陽花(あじさい)なども見ごろを迎えます。旬を迎える食べ物についても解説しましょう。
■さまざまな行事
・「田植えと祭り
「芒種」の時期になると、かつては全国各地で田植えを行う光景が見られました。今では品種改良によって田植えの時期こそ早まりましたが、田の神さまに豊作をお祈りする祭事があちこちで行われています。特に有名なのは、大阪の住吉大社で行われる「御田植神事(おたうえしんじ)」でしょうか。ほかにも、伊勢神宮の別宮「伊雑宮(いざわのみや)」での「磯辺の御神田(いそべのおみた)」、京都伏見稲荷大社での「御田舞(おんだまい)」、下鴨神社での「御田植祭(おたうえまつり)」など。
・蛍狩り
清少納言が『枕草子』のなかで「夏は夜。月のころはさらなり。闇もなほ、ほたるの多くとびちがひたる」と記したように、蛍は平安時代の貴族たちにも愛された、夏の夜の風物詩です。蛍の繁殖は「芒種」に最盛期を迎え、水辺などで舞う蛍の幻想的な光を鑑賞して楽しむ「蛍狩り」が行われます。東京文京区の「ホテル椿山荘東京」が毎年行うイベント「ほたるの夕べ」は、2024年で70周年を迎えるそうですよ。
・紫陽花
「移り気」の花言葉をもつ紫陽花は、梅雨時を象徴する日本原産の花です。古くは『万葉集』でも詠われ、江戸時代に来日したシーボルトが、ヨーロッパに紹介したという逸話も広く知られています。現在では品種改良が進み、「アジサイアナベル」や「アジサイダンスパーティ」「アジサイコンペイトウ」「アジサイてまりてまり」などが人気。さまざまな色や種類で私たちの目を楽しませてくれます。
■旬の食べもの
・野菜
「芒種」に旬を迎える野菜は、トマトです。高温・高湿に弱いトマトは、この時期に収穫されたものがおいしいと言われていますよ。夏茗荷も旬。丸みがあって先が開きすぎていないものが、身がしまっていて新鮮です。皮にツヤがあり、鮮やかな色のものを選びましょう。独特の辛みと爽やかな香りが食欲をそそり、刺身のつまや漬け物、冷やした麺類の薬味などに欠かせないですね。
・果物
代表格はサクランボの佐藤錦。サクランボは品種によって旬が異なりますが、日本で最も生産量が多い佐藤錦は6月頃が旬。まさに初夏の味わいです。また、梅が黄色くなるころでもあり、梅干し漬けの季節です。
・魚
旬を迎える魚は、キスやシマアジ、するめいか。
このほかにも、野菜や果物では、いんげん豆や枝豆、おくら、きゅうり、ししとうがらし、大葉、つるむらさき、しょうが、らっきょう、あんず、びわなど。魚介では、あゆやいわし、かじきまぐろ、かます、かわはぎ、かんぱち、きす、すずき、とびうお、イカ、くるまえびなどが旬の食材です。
【「芒種」を「英語」で言うと?】
「国立天文台」の「こよみ用語解説」英語版によれば、「芒種」の表記は [Boushu]。「Grain in Ear; Times to plant grainsBeginning of Summer」と説明されています。「稲などの(芒のある)穀物を植えるとき」ですね。
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「芒種」を迎えるとまもなく、日本列島には雨の季節が到来します。日本気象協会によれば、2024年の梅雨入りは全国的に平年より遅く、九州から東北南部にかけては6月中旬に。東北北部は6月下旬に梅雨入りすると予想されています。雨の季節は確かに外出が億劫になりがちですが、静かな部屋で読書や趣味に没頭するのもいいものです。美しい紫陽花を部屋に飾り、ひとりの時間を楽しんでみてはいかがでしょう。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『12か月のきまりごと歳時記(現代用語の基礎知識2008年版付録)』(自由国民社) /『ちいさな花言葉・花図鑑』(ユーキャン自由国民社)/ 国立天文台「こよみ用語解説(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/faq/24sekki.html) :