クラシック界をジャンルレスに切り拓く稀有なピアニスト・角野隼斗の魅力を解剖
今年3月に、ソニー・クラシカルと専属レコーディングの世界契約を果たし、日本人の演奏家としては4人目となる快挙で大きな話題を呼んだ角野隼斗。王道のクラシック音楽をベースにしながらも、既存の枠組みを超えたスケールの活躍によって、クラシックファンの裾野を広げています。
この秋、ワールドワイドのアルバムデビューも果たす角野さんの魅力について、音楽ジャーナリストの原 典子さんに紹介してもらいました。
【今月のオススメ】角野隼斗(すみのはやと)さん
1995年生まれ。2018年、東京大学大学院在学中にピティナピアノコンペティション特級グランプリ受賞。’21年、ショパン国際ピアノコンクールセミファイナリスト。ソニー・クラシカルと専属レコーディングの世界契約後、デビューアルバム(写真右)が10月30日発売予定。
日々コンサートに通い、音楽家にインタビューする仕事をしているが、角野隼斗の独奏を生で聴いたことがない。なぜならチケットがとれないから。7月の日本武道館公演のチケットも即完したほどの人気ぶり。「Cateen(かてぃん)」名義のYouTuberとしての活動をはじめ、ブルーノート東京でのライヴ、フジロックフェスティバル出演などクラシックの枠を軽やかに飛び越え、ジャズやエレクトロニカ、アニメやゲームまであらゆるジャンルと「ピアノ」とのタッチポイントを作り幅広いファンを魅了している。
権威あるショパン国際ピアノコンクールのセミファイナリストに輝いた角野の魅力は、確かな技術と理知的な解釈に裏打ちされていながら、リリカルで華があり、ときに即興性を発揮する演奏にあると言えるだろう。ロンドンでガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』を演奏中に、客席から聞こえてきた携帯電話の着信音に反応して、即興で音を加えてみせた映像がネットで話題になっていたが、これぞ角野の本領発揮。ちなみに筆者は東京のあらゆるコンサート会場で客席に角野の姿を見かけたことがある。こうした自由自在に見える音楽は、膨大なインプットがあってこその境地であり、東京大学大学院での研究者としての経験によって培われた探究心の賜物でもあることを書き加えておきたい。
秋にはワールドワイドでのアルバムデビューも控えている角野が、ピアニストとしてだけでなくクリエイターとして、前人未踏のラインをいかに越えていくのか楽しみだ。(文・原 典子)
◇ソニー・クラシカルと専属レコーディングの世界契約後、デビューアルバム(写真下)が10月30日発売予定
- 構成 :
- 宮田典子