今月のMs. Precious……写真家である父の薫陶を受け、中学生の頃から写真撮影の愉しさに引き込まれる。当時勃発した女性フォトグラファーブームの追い風に乗り、大学進学の際の志望は写真学科一択。卒業後はスタジオマンとして修業を積み、運よく人気写真家のアシスタントに採用される。その後、5年の修行後に独立。現在はファッションとポートレートを得意とする売れっ子フォトグラファーに。両親、大型犬2匹と一緒に吉祥寺に住む。一時、ひとり暮らしも経験したが、「父のアトリエ兼スタジオが意外と使い勝手いい」ことに気づき、実家にUターン。48歳独身。
今月のクルマ……【VOLVO V60 Ultra T6 AWD plug-in hybrid】
日本では「北欧デザインのお洒落なクルマ」と認知されることも多いが、本来、ボルボは企業哲学に共感を集めてきたスウェーデンのブランド。1927年の設立以来、「人々の豊かな暮らしのため、安全で使いやすい自動車作り」を徹底してきた。同じく「実直な姿勢」といえばドイツ車も挙げられるが、押し出し感がとても控えめなボルボには、知的で洗練されたイメージも付いた。昔からのファンにとって、ボルボとはすなわち「ステーションワゴン」であり、そこに豊かな北欧ライフを透かして見たものだが、将来的にはSUVに注力するとも言われ、このブランドも変革の時期にある。古き良き北欧製ワゴンを手に入れるなら、むしろ今かもしれない。

「ボルボに乗ると、北欧の大男の大きな手のひらに包まれているよう」――松任谷
松任谷 こんにちは。
Ms.Precious お久しぶりです。
松任谷 覚えてらっしゃいましたか。
Ms.Precious もちろんです。あれから25年くらい経ちますね。もっとかしら……。
松任谷 そうですね。あの頃は大学生だったですか? 写真部か何かに所属されていて。
Ms.Precious よく覚えてくださって。そうでしたね。
松任谷 なぜかというと、若い女子でハッセルブラッドを持たれている人は初めてだったからです。
Ms.Precious ああ、あれは父のカメラで、今でも持っています。
松任谷 お父様は?
Ms.Precious また山を撮りに行ってます。相変わらずです。
松任谷 ちなみにどちらへ?
Ms.Precious スイスだかオーストリアだか、ですね。もう今年80になるんだからいい加減にしないと……。
松任谷 僕もお父様にはずいぶん写真のことを教わりました。光の具合とか温度とかね。
Ms.Precious 頑固だったでしょ? 嫌じゃありませんでしたか?
松任谷 いや、全然。写真は足で撮る、という言葉はある意味僕の座右の銘です。
Ms.Precious 今回、面倒なことをお願いしてすみません。
松任谷 いやいや、ちょうど連載にはピッタリでした。で、ボルボっていうんでちょっと笑いました。
Ms.Precious そうですよね。ボルボしか知らないっていう家族ですから。変ですよね。
松任谷 とんでもない、僕はそういうのには憧れます。ライフスタイルっていうか、筋が通っているのを感じます。僕なんかいろいろなクルマに乗りたい方だから、どこか軽薄っていうか……。
Ms.Precious そんなことないですよ。でもボルボもずいぶんスマートになりましたよね。
松任谷 僕が知っている限り、お父様は最初240に乗られていて、その後760だったかな。そして850までは覚えているんですが、その後もボルボだったんですか?
Ms.Precious そうですね。ずっとボルボ。しかもSUVは機動性が悪いとか言ってずっとステーションワゴンばかり。

松任谷 そうでしたね。で、その影響を受けられたわけですか?
Ms.Precious あまり肯定したくないんですけど、そうかもしれませんね。クルマは頼もしくないと嫌なんです。
松任谷 ああ、分かる気がします。ボルボに乗ると、それこそ北欧の大男の大きな手のひらに包まれているような気になりますよね。
Ms.Precious ちょっと手の皮が厚くてゴワゴワしている、ね。
松任谷 そういえばお父様とそんな話をしていたことを思いだしました。ご自身は大学卒業後どんなクルマに乗られていたんですか?
Ms.Precious 最初は父のお下がりの古い古い850。その後一度だけドイツ車に乗ったことはあるんですけど、それ以外は全部ボルボ。笑われても無理ないです。
松任谷 せっかくだから最新のこれに乗ってみましょう。どんな感想をお持ちになるのか、ちょっと楽しみです。
Ms.Precious 私、やっぱりこのスウェーデンのデザインが好きなのかしら。とてもしっくりきます。
「インテリアの配色とか、ダッシュボードパネルのアッシュの使い方とか、やっぱりボルボはいい」――Ms. P
松任谷 最新のトレンドとはちょっと違いますよね。でも使い勝手はすごくいいです。
Ms.Precious 実は私、昔のボルボのシートが好きで……。なんだか硬めの応接間のソファみたいだったでしょ?
松任谷 そうでしたね。他のメーカーがスポーティな形状になっていくのに、疲れないのはこっちのほうだ、と頑固にあれを守っていましたね。となると今風になったこのシートは残念ですか?
Ms.Precious と言いたいところだけれど、このシートもいいです。なぜだか私にはぴったり来ます。座面長も調節出来るんですね。あっ、この側面もぐっと狭めることも出来るんだ……。
松任谷 そうですね。やっぱりシートにはこだわりを感じますね。

Ms.Precious このインテリアの配色とか、ダッシュボードパネルのアッシュの使い方とか、やっぱりボルボはいいです。野暮ったい洗練ってありますよね。
松任谷 ああ、僕には分かる気がしますが、一般の人にはきっと分からないんじゃないかなあ。ドイツ車はその反対、と言いたいのでしょ?
Ms.Precious お洒落しようとして野暮ったくなるのは嫌い。素朴な洗練が好き、ってことなのかしら。
松任谷 ですよね。
Ms.Precious とはいえボルボもずいぶんメイクが濃くなったような気もします。
松任谷 なるほど。まつげのエクステンションくらいはやっていますかね。
Ms.Precious このギアセレクターもクリスタルっぽいじゃないですか。BMWみたいですよね。こういうの、トレンドなんですか?
松任谷 どうでしょうね。動き出してしまえばもう殆ど触ることもないですからね。象徴的なもの、としているんでしょうか。それより見てください。このディスプレイ。ほら、エアクオリティ、なんてページがあるんですよ。こんなの実は初めて見ました。で、車外の空気がPM2.5やPM10、NOx、それぞれがどのくらいか表示され、車内はどうかも表示されるんですよ。さらに、花粉も樹木と草花が別々にどれくらい飛んでいるかが表示される。これってボルボらしくないですか?

Ms.Precious そうですよね。人間を大切にしている感じは昔からありましたけれど、これ、わかりやすいですよね。
松任谷 そのほか、オーディオも分かりやすく臨場感を決められるんですね。スタジオ、ステージ、ルーム、みたいになっていて。ディテールなんだけど人に優しいなあ、と思いました。そろそろ走ってみますか?
Ms.Precious はい。このセンターコンソールのスイッチをひねるんですね」
松任谷 そうです。でもプラグインハイブリッドだからエンジンはかからないと思います。充電量もまだあると思うから……。
Ms.Precious あ、本当ですね。このままアクセルを踏めば走るのかしら。
松任谷 はい。
「ものすごく滑らか。それでも残るボルボらしい揺れも心地いい」――松任谷
Ms.Precious では行きます。
松任谷 どうですか?
Ms.Precious 今はモーターだけで走っているんですか?
松任谷 ハイブリッドモードだからたぶんそうだと思います。もっと踏み込んでみましょうか。
Ms.Precious うわっ! 加速が凄いですね。ボルボでは初体験かも。しかもものすごくスムーズです。
松任谷 これ、今エンジンかかっていると思うんですけど、まったく分かりませんよね。
Ms.Precious 私には分かりません。大男のゴワゴワした手と言いましたけど、めちゃくちゃすべすべになりましたね。どんなハンドクリームを塗っているのかしら。
松任谷 ものすごく滑らかですよね。それでもやはりボルボらしい揺れは感じられませんか?
Ms.Precious わかります。この正直な感じですね。この感じは昔から同じ。手のひらは10代になったけど、大きさや頼もしさは変わらずです。

松任谷 少し前に亡くなった高橋幸宏君はクルマを選ぶセンスが本当に敏感でね。いつも感心させられていたんだけど、亡くなる直前のクルマがボルボのステーションワゴンだったんですよ。なんか時代感がそう感じさせたのかなあって。
Ms.Precious 私にはそんなセンスはないですよ。ただ、安心感がほしいだけです。
松任谷 なんか、今、そんなライフスタイルというか、ステディな考え方がかっこいいなあ、なんて思えるんですよね。これも時代なのかなあ、と。
Ms.Precious あまり深く考えない方がいいんじゃないですか? 自分の好きなようにやられるのが一番だと思います。
松任谷 うーん、やはりお父様とどこか似てらっしゃいますよね……。
Ms.Precious 否定したいところだけれど、仕方ないですよね。

今月のクルマ
【VOLVO V60 Ultra T6 AWD plug-in hybrid】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,780×1850×1,430mm
車両本体価格:¥9,090,000(ベース価格)
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- TEXT :
- 松任谷正隆さん 作編曲家、音楽プロデューサー
- WRITING :
- 松任谷正隆
- EDIT :
- 三井三奈子