コンテンポラリー・アートのメセナ(芸術・文化の支援)活動を行うパリのカルティエ現代的美術財団で2018年9月9日まで開催中(好評につき会期延長)の、新進気鋭の日本人若手建築家・石上純也さんのソロ・エキシビション。その模様を、パリ在住のライター&エディター安田薫子さんが現地よりレポートします。

石上さんは、2009年日本建築学会賞、2010年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞と、数々の受賞歴を誇る注目の建築家です。

今回のエキシビション「石上純也 ー FREEING ARCHITECTURE」では、建築プロジェクトの中から石上さん自身が20作品をチョイス。構想から建築までの段階を記録した映像やドローイングとともに展示されています。

フランスでも注目の建築家だけに、入り口には行列ができていました。
フランスでも注目の建築家だけに、入り口には行列ができていました。
会場を上から見下ろして。奥の白い壁は現在中国で建築中の教会の模型です。
会場を上から見下ろして。奥の白い壁は現在中国で建築中の教会の模型です。

石上さんは神奈川県生まれで、東京芸術大学大学院で建築を専攻。妹島和世さんと西沢立衛さんによる建築事務所SANAAを経て、独立しました。ちなみに、SANAAによるLVMHグループのホテル、サマリテーヌも現在建築の真っ最中です。

石上さんの作品は自然の中に建築物が溶け込んで、人間と自然が共存しているようなイメージの、ポエティックで心地よいデザイン。人間は自然の一部であるという、まさに日本人的な感性が表現されています。

会場に入ると最初に置かれていたのは、宇宙船のような模型。実は、2017年に完成したオランダの森の中にあるヴィジター・センターです。柱がなくて、透明の壁が続いています。自然を邪魔しない建築物です。

入り口すぐの場所に置かれていた模型。まるで宇宙船のようなフォルムです。
入り口すぐの場所に置かれていた模型。まるで宇宙船のようなフォルムです。
雪景色のようで綺麗です。建物の後ろに見えるのが、上の写真にある模型が置かれている場所。
雪景色のようで綺麗です。建物の後ろに見えるのが、上の写真にある模型が置かれている場所。
緑が壁から透けて見えて、自然に溶け込んでいます。
緑が壁から透けて見えて、自然に溶け込んでいます。

こちらは、 「アート・レジデンス」をコンセプトにした栃木県那須郡の宿泊施設アートビオトープ那須に建設中の水庭「ボタニカルガーデン アートビオトープ/ウオーターガーデン(水庭)」。2018年6月に完成する予定だそうです。木々の間に池がいくつも。これは木を植え替えて場所を移動させ、間に人工の池を造ってあるものです。光を反射して美しい! 自然であり、人工であり…。幻想的な感じです。実際に行ってみたい。

「ボタニカルガーデン アートビオトープ/ウオーターガーデン(水庭)」の模型です。模型自体も美しい。
「ボタニカルガーデン アートビオトープ/ウオーターガーデン(水庭)」の模型です。模型自体も美しい。
製作風景のビデオ。掘ってシートを貼った穴に川の水が引き込まれ、まるで最初からそこにあったかのような佇いに。
製作風景のビデオ。掘ってシートを貼った穴に川の水が引き込まれ、まるで最初からそこにあったかのような佇いに。

驚いたのは、山口県宇部市で建築中のレストラン兼住居。地面に穴を掘り、大量のコンクリートを流し込んで、型を取ります。その型もどこか自然界にありそうな有機的なフォルムです。その後、周りの土をシャベルカーで取り除いて地下の洞窟みたいな空間を造り出します。たったひとつのユニットが壁、通路、空間を造るわけです。製作風景を紹介するビデオを見ていたフランス人の男性が、しきりに「まったく信じられないよ!」と感心していました。お店の名前は「ノエル」というそうですが、完成が待ち遠しいですね。山口県に行ってみたくなります。

山口県のレストラン。大量のコンクリートを使って、不思議な形状の建築物を製作中です。
山口県のレストラン。大量のコンクリートを使って、不思議な形状の建築物を製作中です。
これがその模型。地下に洞窟のような建築物を造ります。完成したら話題は必至ですね。
これがその模型。地下に洞窟のような建築物を造ります。完成したら話題は必至ですね。

こちらは若いカップルの個人宅だそうですが、自然と家が一体化している! 内部に木々が茂っています。家の内部と外部が曖昧になっていて・・・。家にいながら外にいるような不思議な感じです。

最初これが何かわからなかったのですが、家でした。
最初これが何かわからなかったのですが、家でした。
写真を見てびっくり。家の中に自然がある!
写真を見てびっくり。家の中に自然がある!
文字通り、木々に囲まれた生活。冬はどうなるのかしら? きっと常緑樹なのですよね。
文字通り、木々に囲まれた生活。冬はどうなるのかしら? きっと常緑樹なのですよね。

石上さんのイマジネーションもさることながら、実現してしまう日本の建築技術もまた素晴らしい! パリにお立ち寄りの際は、カルティエ現代美術財団を訪れて、世界に誇れる日本の建築家の才能と建築技術をぜひ目の当たりにしてみてください。

問い合わせ先

  • Fondation Cartier 
    開館時間/11:00〜22:00(火曜)、11:00〜20:00(水曜〜日曜)
  • 休館日/月曜
    TEL:+33(0)1.42.18.56.50
    住所/261 boulevard Raspail, 75014 Paris

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この記事の執筆者
某女性誌編集者を経て2003年に渡仏。東京とパリを行き来しながら、食、旅、デザイン、モード、ビューティなどの広い分野を手掛ける。趣味は“料理”と“健康”と“ワイン”。2013年南仏プロヴァンスのシャンブル・ドットのインテリアと暮らし方を取り上げた『憧れのプロヴァンス流インテリアスタイル』(講談社刊)の著者として、2016年から年1回、英語版東京シティガイドブック『Tokyo Now』(igrecca inc.刊)を主幹として上梓。